不登校児童の支援の場として、大切な役割を担うフリースクール。不登校の子どもたちは年々増加傾向であり、同時にフリースクールの重要性も高まっています。
しかし、現状不登校の子どものうち、フリースクールへ通学するのは約3%と、わずかな人数にとどまっています。フリースクールの通学へはいまだに、子どもにとっても、保護者にとっても、高いハードルが存在するのが事実です。
一方、コロナ禍において、テレワークやオンライン会議など、自宅にいながらPCやスマホを通して行われるコミュニケーションが、より一般的になってきました。そしてこの流れはフリースクールにおいても新たな可能性を高めたように思われます。
オンラインフリースクール。その可能性と、設立希望者は今後さらに増えていくでしょう。本記事ではオンラインのフリースクールが置かれる状況や意義、そしてその課題について考えていきます。
オンラインフリースクールの設立は可能
そもそもオンラインでのフリースクールは設立可能なのでしょうか。答えはYESです。現状でも、数は決して多くはありませんが、オンライン上でのやり取りを主体としたフリースクールは存在し、それぞれ活動を行っています。
フリースクールの設立は免許不要
フリースクールの立ち上げに関して、必要な免許や資格は現状特にありません。不登校支援に関する、活動の方向性は国も示してはいますが、フリースクールの設立自体は、試験などなく行える状況下にあります。
またその形態、使う媒体、カリキュラムも自由に設定できるので、オンライン上でのフリースクールは十分に成立するものです。
システム上のプラットフォームを整え、開業届を提出すれば、正式にフリースクールとして活動していくことができます。
オンラインフリースクールは何を目指すか
フリースクールには必ず、その理念がなくてはいけません。
通う子どもたちの目標、と言い換えても良いでしょう。ここではオンラインのフリースクールを設立する場合、何を目指すのか、フリースクールの現状をふまえ、考えていきます。
フリースクールの「種類」
オンライン・オフラインに限らず、既存のフリースクールにはそれぞれの理念や活動内容があります。
例えば明確に復学・進学を目指しているフリースクールでは、学校生活に合わせた生活リズムの是正や、遅れてしまった勉強を、学年をさかのぼってでも再学習するなどの活動が行われます。
一方で、復学や進学を必ずしも明確な目標とせず、子どもの好きなことや、気の向くことを自分で計画し、時間も縛らず行うことで、本人の「意欲」を尊重するタイプのフリースクールもあります。
フリースクールが目指すのは決して一様ではなく、それぞれの目標と、活動があるということです。オンラインのフリースクールも状況は同じです。
オンラインフリースクールの傾向
オンラインで活動を行う場合の傾向として、PCなどのデバイスを利用するため、ネットゲームやSNSなどのバーチャルな媒体を活動に取り入れることも多いようです。
ネットゲームを通して交流を深めていく手法などは、オンラインのフリースクールならではの傾向といえるでしょう。
しかし、ひざを交えて話をしたり、学習を促したりすることに重きを置く教育者は、オンラインでは不足を感じる場合があるかもしれません。
このようにフリースクールの目指すものは、そのスクールによってさまざまです。オンラインだからこそ達成しやすい目標もあれば、オンラインではカバーしきれない目標もあるかもしれません。
オンラインでフリースクールを行う場合、その教室の目指すものを、オンライン上でしっかり達成できる体制を整えるべきです。
フリースクールの抱える課題
どのようなフリースクールが必要で、どのような支援を行っていくかを考えるには、フリースクール全体が抱えた問題点も考慮しておく必要があります。ここでは現状のフリースクールの課題について解説します。
フリースクールの通学率がたいへん低い要因は、主に金銭面の問題と、心理面の問題が挙げられます。
金銭面の問題
そもそもフリースクールは公立の学校とは違い、利用料がかかります。料金はフリースクールによっても異なりますが、平均的には1カ月3万円?5万円ほどとなっています。それが経済的負担となって不登校の家庭にかかってきます。
逆に言うと、それだけの金銭的負担を負ってでも「子どものためになる」と納得できない限り、保護者は子どもを通わせません。
さらに、「良いフリースクール」が、通える地域で見つけられない場合も大いにあるでしょう。
心理面の問題
フリースクールへの通学には、心理面の負担もあります。「学校」という形態が何らかの理由で合わなかった子どもたちにとって、フリースクールに通うことにも、不安は当然あるでしょう。
またフリースクールの持つ「不登校の子の行く場所」というイメージも、障壁になっていることが推察されます。
これらの問題点は、フリースクール全体が解決していくべき課題とも言えます。
オンライフリースクールの意義
フリースクール全体が抱える問題点に対し、「オンライン」という媒体は、何か答えを示せるでしょうか。ここではオンラインのフリースクールの意義を考えます。
距離に縛られない
フリースクールは基本的に家からのパソコンやスマホを通しての参加になるため、距離的な条件に縛られることがありません。
良いフリースクールと判断されれば、全国から生徒が集まる可能性があり、その子どもたちみんなに教育を行うことができます。
時間やタイミングが子どもに合わせられる
また、外出が難しい不登校児童でも、部屋の中で活動ができるオンライン環境は大きな魅力です。
生活リズムが崩れてしまっていても、パソコンの前まで数歩歩けば、すぐに参加できます。活動の時間を、現状の子どものペースに合わせることも容易です。
参加へのハードルが低い
「通学」と比較して、オンラインでの参加はハードルが低い側面もあります。
オンラインであれば、顔出しなしでも会話はできます。他人同士の会話を見る・聞くだけでも参加はできます。できることから徐々に、自分の活動の範囲を広げていくような、参加の仕方もできるのです。
料金が安く運営できる・月謝を安くできる
校舎を設けないフリースクールの場合、オフラインのフリースクールよりも固定費を削減できる場合が多いです。
その分、経営にもメリットとなり、利用者の月謝が安くても運営できるかもしれません。
オンラインフリースクールの課題
メリットが多いように思えるオンラインのフリースクールですが、そこに潜む課題を、教育者は無視してはいけません。
出席扱いにならない場合がある
オンラインに限った話ではありませんが、フリースクールでの活動を出席扱いとするか、そうでないかの判断は一般の学校側が行います。
フリースクールは子どもの活動内容を学校に報告しますが、それが出席として認められるかどうかは、学校次第ということになります。
オンラインでの活動、ましてやそれがゲームなどを通したコミュニケーションだった場合、それを出席として認めるかどうかは、学校側も苦慮する問題です。
子どもをフリースクールへ通わせる保護者の多くが、学校の出席日数への換算を望んでいます。それをオンラインでの活動のみで、認めてもらうことができるか。それはフリースクール側の「手腕」も関係してくるでしょう。
対面でないことへの懸念
オンラインのフリースクールには、言うまでもなく対面授業がありません。もちろん実際に対面しての活動を行う場合もありますが、基本的には画面越しでのやり取りしか行いません。
意見の分かれ目ではありますが、実際に対面せずに、十分な社会性を醸成できるのか、には疑問の声もあります。
ましてやそれが、復学や実社会での活動を目指す場合、「不足があるのでは」という意見も当然挙がるものです。
フリースクールによっては、先生や、同じ境遇の子どもと、身体を動かして交流することを重視する場合もあります。そういった活動もオフラインでは不足しがちです。
オンラインのフリースクールでも、対面での交流の場を設ける場合があります。そういった組み合わせも考慮の余地はありそうです。
復学・進学への学習支援をカバーしきれるか
学年をさかのぼるなどして、学習をやり直すこともフリースクールの強みではありますが、それがオンラインのフリースクールでどこまで可能かというのも、議論されます。
オンラインでの学習塾なども多くありますが、本人の自主性を前提とする場合が多いです。
そもそも子どもの「自主性」自体を取り戻したい際に、オンラインでサポートできる範囲は、オフラインほど及ばないという意見もあります。
このようにオンラインでのフリースクールには、「やりにくさ」があることも確かです。それを認識したうえで、どれほどのことを子どもたちにしてあげられるか。それはしっかり考える必要があるでしょう。
オンラインフリースクールには可能性がいっぱい
本記事ではフリースクールの置かれた状況をふまえ、オンラインのフリースクールの強みや課題について考えてきました。
オンラインでのフリースクールは、場所やランニングコストの点で、オフラインよりも設立が容易かもしれません。
しかし、経営しやすい、利益が得やすいという理由だけで、理念やコンセプトなくフリースクールを設立することはあってはいけません。
相手は少なからず、心の悩みを抱えた子どもや保護者たちです。それに全身全霊で応えられるスクールが望まれます。
オンラインでフリースクールを立ち上げるにあたっては、オンラインの意義は活かし、課題に対しては、明確な答えを持っていなくてはなりません。
一方で、オンラインの意義をしっかりと活かせば、オンラインフリースクールが子どもたちにとって、のびのびと活動できる場となる可能性は大いにあります。オンラインフリースクールはたくさんの可能性を秘めています!
オンラインでのフリースクールが、子どもたちや保護者にとって良い場所であるために、それを設立する人は、相応の信念と、哲学を持ち合わせていてほしいと、切に願います。