フリースクールは不登校の子どもの「居場所」として、重要な役割を担う場所です。
2018年施工の「教育機会確保法」などでも、不登校児童への対策として、通常の学校とフリースクールの連携の重要性が明記されています。
しかし、現状フリースクールの開業、そして運営には難しい現実が高く立ちはだかっています。
子どもたちがのびのび生きていけるために、フリースクールの開業を夢見る方も多いことでしょう。そしてその思いは、しっかり生かされるべきです。
ただ、思いだけでは越えられない壁に、必ずぶつかります。そんなときどう考え、どう動くか。そのことを心に留めておかないと、夢が夢のまま終わってしまいます。
この記事ではフリースクールの開業の流れを追いながら、そこで持つべき心構えについて考えてみたいと思います。
フリースクールのコンセプトを決める
フリースクールは公的な学校ではないので、「学習指導要領」のような教育の指針があるわけではありません。
また、開業にあたって必要な資格や免許なども、特に必要ではありません。それぞれのスクールが、独自のカリキュラムで、活動を行っていきます。
ただ、だからこそスクールのコンセプトが重要です。子どもへの思い、目指すもの、活動の目的をしっかりと定めておかなければ、芯のぶれたものになってしまいます。
フリースクールのガイドラインと既存の形態
免許や資格は必要ありませんが、フリースクールのガイドラインはあります。
令和元年に文部科学省より出された「不登校児童生徒への支援の在り方について」には、不登校児童支援の方向性が示されているので、確認しましょう。
また既存のフリースクールから学ぶことも大切です。
既存のフリースクールがどのような形態で活動しているか、何を目指しているか、具体的な事例を知っておくことは不可欠です。
学校への復学・進学を目指すフリースクールや、子どもの自発的な活動を支援するフリースクール、ひきこもりの子どもの自宅へ訪問するスクールなど、種類はさまざまですが、一定の「形」はできあがっています。
このようなガイドラインや既存の形態を学び、自身のフリースクールは、どのようなコンセプトにするのか、決定しましょう。ここがぶれると、生徒も、先生も集まりません。
子どもを温かく迎えるために
フリースクールに通う子どもの数はすべての不登校児童のうち2%と、たいへん少ない状況です。それだけ保護者と子どもにとって、フリースクールへ通うことはハードルの高いことなのです。
不登校児童を抱えた保護者は、慎重に検討を重ね、熟考の末、フリースクールの門をたたきます。子どもも不安を抱えて、フリースクールへやって来ます。
それを温かく迎えるために、しっかりとしたコンセプトを、フリースクール側が持っておく必要があります。そしてそのようなフリースクールでないと、保護者や子どもから選ばれることもないでしょう。
経営モデルを考える
フリースクールは民間の運営のため、どうしても経営を避けては通れません。難しいのは開業ではなく、経営を継続することです。
フリースクールに経営目線は欠かせない
「フリースクール全国ネットワーク」の調査によると、フリースクールの年間収入は100万円~300万円が過半数を占めています。しかしこれは収入であって、利益ではありません。そこから人件費、広告費、家賃、光熱費など運営費用が引かれていきます。
どのような損益をモデルとして、どの規模のフリースクールを作るのか。そのための従業員数をどうするか。生徒は何人を見込み、月謝はいくらにするか。広告宣伝費をどう捻出し、どの媒体にいくら使うのか等々、経営の指針を定めておかないと、立ち行かなくなってしまいます。
「思い」だけでは続けられません。「思い」が強いゆえの、現実的な目線が必要です。
公的補助には頼れない
フリースクールは、公的な機関ではないため、基本的に公的補助に頼ることはできません。
自治体によってはフリースクールの経営へ助成金を出してくれる場合もあります。ただし経営年数など、一定の条件を満たさなければいけない場合が多いため、その詳細はよく確認しておきましょう。
個人事業の申請
フリースクールの開業をしたら、個人事業申請を行います。事業を開始し1か月以内に、税務署に届出を提出します。
特に少人数でのオペレーションの場合、子どもを相手にしながら、保護者に相対し、雑務をこなし、スタッフと協働しつつ、損益管理も行うなど、仕事は多忙を極めます。
税務署に直接うかがわなくても、郵送で手続きもできます。事務手続きは時間に余裕があるうちに行うことが得策です。
先生を集める
フリースクールにおいて重要な役割を果たす先生ですが、現状多くのフリースクールが兼業やボランティアの先生で運営されている状況です。
先生を集める際は、どのように考えたらよいでしょうか。
先生集めと経営
フリースクールの先生は、そのスクールのコンセプトに共鳴し、それを具現化してくれるような人材を集めることが大切です。
また当然人を雇うことになるので、それが人件費として直接的に経営に関わってきます。そのため、経営モデルに従った採用を行うことが重要です。
必要な人材を、適切な人数集めるには、それをさがす方法、告知する媒体などよく考慮しなければなりません。当然その広告費も経費になってきます。
理解者とフリースクールを始める
とはいえ、スクールに何の実績もない所から、優秀な人材の応募を待つのは現実的に難しいですよね。かけられる人件費や、募集のための採用費が少ない場合もあります。
そのためフリースクールの開業にあたっては、自身の「つて」や知り合いなど、理解者を伴ってはじめるケースも多いです。
開業資金が多くない場合は、まずはそのようなメンバーを集めることから地道に始める方が賢明かもしれません。その場合、賃金体系などの協議もしっかり行っておきましょう。
先生選びは現実的に考える
先生は子どもと直接関わるフリースクールの支柱です。慎重な人選が求められます。そして経営を考えた場合、損益にも直結してきます。
現実的な目線で、「この人なら大丈夫」という人を選び抜くことが大切です。
生徒を集める
フリースクールへ通う不登校児童は全体のわずか2%。生徒も保護者も、いまだフリースクールへ心理的な抵抗感や、金銭面の負担を感じている状況があります。
生徒集めをどのように考えたら良いでしょうか。
生徒を募集する方法
フリースクールを開業したら、生徒を募集していきますが、その募集方法も多岐にわたります。
ポスティングやチラシの掲載など、ローカルなやり方ももちろんありますが、今はWebの力を借りる場合も多いでしょう。
Googleマイビジネスを利用し、Googleマップ上にフリースクールを表示させたり、ブログなどのオウンドメディアを立ち上げ、SEO対策を行ったりなど、「検索」から生徒を集めるのは今や主流の方法です。同様にSNSを利用した告知も有効です。
開業前に生徒を集めておく
ただし、生徒の募集も先生同様、フリースクールに実績がないと、簡単なことではありません。そのため、こちらも先生と同じく、事前に生徒をある程度集めたうえで、開業を進める場合も多くあります。
はじめはごく少人数でも、しっかりした方針を持ち、有意義な活動を行っていれば、生徒が増えていく可能性は大いにあります。
そのためにはまず一人でも、通う生徒がいることを確かめてから開業するなど、現実的な目線も必要です。
子どもの目線を忘れない
生徒が集まり運営が軌道に乗り始めると、経営ばかりに目が行き、肝心の子どもを伸ばす目線がおろそかになる恐れがあります。しかしそうなっては本末転倒です。
従業員数や施したい教育、活動の幅を考慮し、生徒目線で活動できる状態を保つことが大切です。それをふまえて、生徒数も考えましょう。
先生との連携や、話し合いも大切です。
フリースクールの開業は、コンセプトと経営目線が大切
本記事では、フリースクールを開業するまでの流れと、そこで持ちたい心構えについて考察してきました。
フリースクールは不登校の子どもたちにとって「居場所」になり、未来への懸け橋にもなる貴重な場です。大好きな先生と出会い、大切な友だちができ、素敵な思い出が生まれるかけがえのない存在になりえます。
しかし、それを実現するには、「経営」という現実的な問題に向き合わざるを得ません。経営が立ち行かなくなると、その場所自体がなくなってしまいます。
とはいえ経営ばかりを重視し、子どもへの思いがおろそかになると、スクールのコンセプトが揺らぎ、やがて先生も生徒も離れていきます。
コンセプトと経営目線、このふたつの視点を、フリースクールの開業の際は忘れてはいけません。まずはしっかりと現状を知り、うまく運営していくための具体的な手段を考えることが重要です。