2022年度の時点で、日本の不登校の子どもの数は約30万人と過去最多となりました。この状況を受け、文部科学省が2023年3月31日に公表したのが「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策『COCOLOプラン』」です。COCOLOプランには、学校関係者はもちろん、教育に携わるすべての大人が知っておくべき目標や取り組みが示されています。
この記事ではCOCOLOプランの内容を追うとともに、フリースクールの立ち上げなど、教育に関わりたいと考えている方へ向け、これからの「学びの場」にどのような方向性が見いだせるかについて、考えてみたいと思います。
COCOLOプランとは?
Comfortable, Customized and Optimized Locations of learning(快適で、一人ひとりに合わせた、学びに最適な場所)の頭文字をとったCOCOLOプラン。
COCOLOプランが掲げているのは、不登校児童生徒をはじめとしたすべての子どもたちへ、「学びの場」を整備することです。
まずはCOCOLOプランの目標や、目指す姿について見てみましょう。
目標は「学びにアクセスできない子どもたちをゼロにすること」
不登校はけっして特別な状態ではなく、いつどの子どもにも起こりうることです。言い換えれば、なんらかのきっかけで不登校になってしまった子どもが学びから遠ざかり、未来を描けなくなるような事態は防がなければいけません。
COCOLOプランが目標としているのは、この「学びへのアクセス」をすべての子どもたちに与えることです。必ずしも不登校の子どもの「学校への復帰」をゴールとせず、それぞれが、自分に適した形で学びへつながり、生きる力を身に付けられることを目指しています。
現代では学びの媒体やツールは多岐にわたり、さまざまな学びの形を見出すことができます。それぞれの子どもが自分に適した学びの場を見つけ、学びへアクセスする方法が絶たれないことを、COCOLOプランは目指しています。
3つの「目指す姿」
COCOLOプラン公表にともない永岡桂子文部科学大臣から示されたメッセージには、下記3つの「目指す姿」が語られています。
1 不登校の児童生徒全ての学びの場を確保し、学びたいと思った時に学べる環境を整える2 心の小さなSOSを見逃さず、「チーム学校」で支援する
3 学校の風土の「見える化」を通して、学校を「みんなが安心して学べる」場所にする
例えば学校に来られなくても、オンラインで学びにアクセスできる、あるいは学校に戻ろうと思ったときも、クラス変更や転校などの配慮がなされる。そういった「学びの場」の整備が目指されています。
また、子どもたちの辛さ・悩みに寄り添い、ちいさなSOSに気付けるような仕組み作りやツールの充実なども重視されています。同時に子どもだけでなく、保護者に向けた支援体制の確立も重要な課題です。
さらに、これまでの学校のあり方を見直そうという姿勢も見られます。子どもたち自身が学びたくなる授業、学校の風土の「見える化」など、だれもが安心して学べる環境が、学校に求められています。
参考:[誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)|文部科学省]
学外の人々の理解と連携が欠かせない
もう一つCOCOLOプランで重要視されているのが、学校内外の関係者との連携です。COCOLOプランが目指す姿を達成するには、行政や学校だけでない、学外の人々の連携が欠かせません。
フリースクール、NPO、地域、家庭など、教育に携わるすべての人が、子どもたちの学びの場の構築のために、重要な役割を担っています。
特にフリースクールの設立を目指す人など、教育に携わりたい人は、COCOLOプランへの理解を深め、自分たちが果たすべき役割や、子どもたちとの向き合い方について考えていく必要があるでしょう。
「学びの場」はどのように変わるか?
COCOLOプランは単なる不登校の子どもへの支援方針というだけでなく、これからの教育のあり方、学校をはじめとする「学びの場」についての方向性を表すものといえるでしょう。
ここからはCOCOLOプランが示す、これからの「学びの場」の姿について考察してみたいと思います。
学校を「みんなが安心して学べる」場所に
子どもの「学びの場」として、第一に挙げられる学校。学校についても、COCOLOプランでは新しいあり方が示されています。
子どもたちが学校生活でもっとも長い時間をかける授業も、従来の方法ばかりでなく、それぞれの生徒児童の特性に合わせた柔軟なあり方が求められます。
また、国籍、言語、障がいなどの違いに関わらない、共生社会を学ぶ場としての役割も学校は担います。
一方、いじめ等の問題行動への毅然とした対応も明記されるなど、COCOLOプランには「みんなが安心して学べる場所」としての、学校の新しい姿が示されています。
そしてこのような学校の風土は「見える化」され、関係者が共通認識を持って教育に向かえることが目標とされます。学校教職員のみならず、フリースクール関係者など、教育に携わる人は、この新しい学校のあり方について理解しておく必要があるでしょう。
不登校特例校は学びの多様化学校に
COCOLOプランでは、従来「不登校特例校」と呼ばれていた学校の設置促進も指針に掲げられています。このような学校では、不登校の子どもに配慮した授業体形などが整備され、不登校に理解のある教職員のもと、さまざまなカリキュラムが設定されています。
不登校特例校は「より子どもたちの目線に立ったものを」という視点から、「学びの多様化学校」へと名称を変更し、現状30に満たない学校数から、将来的には300校の設立が目標とされています。
学びの多様化学校については、学びの多様化学校とは?「不登校特例校」からの名称変更の経緯と特徴を解説の記事もご参照ください。
そのほかにも、「スペシャルサポートルーム」などと呼ばれる校内教育支援センターの設置促進もCOCOLOプランでは示されています。
このようにCOCOLOプランでは、子どもたちが学びへアクセスできる機関として、さまざまな学校の形態が示されています。
多様な学びの場、居場所を確保する
子どもたちが学びにアクセスできる場は、一般的な学校ばかりではありません。COCOLOプランでは、NPOやフリースクール、夜間中学など、さまざまな機関が学ぶ場所として示されるほか、公民館や図書館など、社会教育施設を子どもたちの居場所として活用することが掲げられています。
一言で不登校児童生徒といっても、それぞれの置かれた境遇、そして一人ひとりの考え方は異なります。不登校状態の捉え方、学校復帰への意向、進学の意志など、それぞれが、さまざまな思いを抱えているでしょう。
なかには、自信を失っていたり、社会に対して恐怖心を抱いていたりする子どももいます。逆に自分だけの夢や、希望を胸に秘めている子どももいるでしょう。
教育に携わる人は、そのような子どもたちの多様性を尊重し、それぞれに適した学び方を考えてあげる必要があります。
教育に携わる人々それぞれに役割がある
本記事ではCOCOLOプランの方向性や目標、それを受けて「学びの場」がどのように変わるかについて考察してきました。
COCOLOプランでは、「すべての子どもたちが学びたいと思ったときに学べる状況」が求められています。そのために教育機関の設立だけでなく、学ぶ媒体の整備、ツールの拡充などさまざまな課題が掲げられています。
COCOLOプランが目指す「学びの姿」は学校教職員、あるいは行政関係者のみで達成できるものではありません。教育に携わる人々それぞれに役割があります。
子どもが誰一人取り残されずに学びの機会を得て、それぞれの「生きる力」を身に付けられるため、まずは大人が理解と考えを深める必要があるのではないでしょうか。