キャリア教育で身につけたい能力とは?「4領域8能力」から「基礎的・汎用的能力」へ

方向性、進む道

ITの発達やグローバル化など、目まぐるしい変化がこんにちの世界に起きているのは、周知の事実です。パンデミックが起きて、人々の暮らしがこんなに変わるなど、誰が予想できたでしょうか。

どうなるかわからない世の中で、何が正しくて、何が成功で、何が幸せか、そしてどうやって生きていけばよいのか。子どもたちに一様の答えを示すことはできません。大人だってわからないのです。

そこで必要なのが、自分で答えをさがせる「生きる力」であり、それを養う「キャリア教育」です。

本記事ではキャリア教育の内容と、学校現場で過去に生じた課題を紹介し、キャリア教育で身につけたい能力について考えます。

キャリア教育には、大人こそが認識しておかなければいけないことが多分にあります。
そのことが理解いただけると思います。

キャリア教育とは?

太陽に向かって小さな花瓶を持ち上げる手

まずはキャリア教育とは何か、それが提唱された背景と、生じた課題を見ながら解説します。

キャリア教育の背景

キャリア教育が提唱されたのは、まもなく21世紀をむかえる1999年のことでした。
世界を取り巻く環境が激しく変化を遂げ、社会も仕事も従来の形や価値観が変わっていく時代にあって、あらたな「生き方」に対する教育が、子どもたちには必要でした。

またキャリアに関する社会問題も浮上していました。ニートやフリーターの増加、早期退職する新入社員。
「社会に出てからのことに対して、学校はちゃんとした教育ができていないのではないか?」という声も聞かれました。

そこで、新たな時代に必要なのが「キャリア教育」の拡充、となったのです。

キャリア教育の反省と本当の意味

社会背景を受けて、当初のキャリア教育は就職や進路に関する指導が重要視される傾向がありました。「職業体験学習を行って完了」というきらいもありました。しかし、本来のキャリア教育は、それだけでは不十分です。

2010年になり、キャリア教育は、「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」と定義されました。(文部科学省 平成22年度第二次審議経過報告)

キャリア発達とは「社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していく過程」を指します。

つまり、単純に「社会で働く大変さを知ろう」「良い企業に入れるように高学歴を目指そう」ではなく、「自分が社会の中でどんな役割を果たし、根本的にどう生きていくか」。それを考える力を養うのがキャリア教育なのだと、再認識されたのです。

社会の価値観や職業観、経済の変化はこれからますます加速していくでしょう。スマホを開けばありとあらゆる情報がいっぺんに目に飛び込んできます。何がよくて何が悪いのか、価値観は多様です。「憧れる立派な大人像」それも人それぞれです。

そんな中で、自分がどう人生を切り開いていくか、何に価値を見出し、それをどう突き詰めていくか、それを自分自身で考えられる力が必要なのです。

キャリア教育については下記の記事もご参考ください。
キャリア教育とは。「生きる力」を育む、これからのキャリア教育を考える。

キャリア教育で身につけたい能力

時代を進む

ここからは、キャリア教育で身につけたい能力について見ていきます。これについても、当初示された内容に課題と反省が生じ、新しい枠組みが出されるにいたりました。

4領域8能力

2004年に国立教育政策研究所生徒指導研究センターは、キャリア教育の推進計画として「職業観・勤労観を育む学習プログラムの枠組み(例)」を提示しました。

これは文字通り活動の「例」で、実際の現場では生徒の実態や学校・地域の課題等によって、違った表し方があっても良いとされました。

「人間関係形成能力」「情報活用能力」「将来設計能力」「意思決定能力」の4つの能力領域を軸として、それぞれ2つずつの能力が関わってくる、とされています。

これは「4領域8能力」として、有名になりました。

学校現場で生まれた課題

ただし実際の学校現場の活動では課題も見えてきました。

まず、「4領域8能力」は、例にもかかわらず、学校側ではそのまま利用される場合が多く、学校ごとの特色が見られませんでした。

生徒の実態に合ったものを考えようという、学校ごとの姿勢までいたらなかったのです。

また、「4領域8能力」の中身について十分な理解がされないまま、言葉の印象にもとづいた活動しか行われないケースも見られました。

教育現場でのキャリア教育に対する理解が十分でない状況が起きてしまったのです。

また、この「4領域8能力」は、小・中・高の活動例しか書かれていません。しかしキャリア教育は、人生全体に関わってくる学びです。そのあたりの認識もあいまいでした。

この状態ではキャリア教育が、十分な「生きる力」を養えません。

基礎的・汎用的能力へ

そこで2011年、新たなキャリア教育の推進計画である「基礎的・汎用的能力」が提示されました。
ここで示された4つの能力は、それぞれ独立したものではなく、相互に関連・依存した関係にあります。

下記の図は「4領域8能力」と「基礎的・汎用的能力」をそれぞれ示していて、両者の関連も表しています。

それでは、「基礎的・汎用的能力」について、それぞれ見てみましょう。

人間関係形成・社会形成能力

「人間関係形成・社会形成能力」は、他者の考えや立場を理解し、相手の意見を聴いて自分の考えを正確に伝える能力です。

自分の置かれている状況を受け止め、役割を果たすこと。そして他者と協力して社会に関わり、今後の社会を積極的に形成することができる力を示します。

この能力は、社会との関わりの中で、生活し仕事をしていくうえで基礎となる能力です。

価値の多様化が進む現代社会で、お互いを認め、既存の社会に参画しつつも、必要であればみずから新たな社会を創造することの必要性も述べています。

自己理解・自己管理能力

「自己理解・自己管理能力」は、自分が「できること」「意義を感じること」「したいこと」について、社会との関係を保ちながら、主体的に行動していく能力です。

自分と、自分の可能性を肯定し、今後の成長のために学ぼうとする力を示します。

今は子どもや若者の自己肯定感が低いと言われます。しかし「やればできる」という気持ちで行動する力も必要です。

自分を理解することは、生涯いろいろなキャリアや人間関係を形成するのに重要です。
また、他人とのかかわりの中で、時には自分を律したり、もっと努力する必要もあるでしょう。

自分の役割を理解し、前向きに考え、ストレスマネジメントもしながら、主体的に行動していく。「自己理解・自己管理能力」はそういった能力を示しています。

課題対応能力

「課題対応能力」は、仕事をするうえでさまざまな課題を発見、分析し、適切な計画を立てて解決する能力です。自分が行うべきことに意欲的に取り組み、従来の考え方や方法にとらわれずに、物事を進めていくために必要な力です。

数多くの情報の中から、必要な情報を主体的に選択し、活用する力も大切です。

情報を処理し、本質を理解する。課題を発見して、計画を立てて実行する。

「課題対応能力」は、そのような要素を伸ばしていきます。

キャリアプランニング能力

「キャリアプランニング能力」は、働くことの意義を理解し、自分が果たすべき役割をふまえ、「働くこと」を位置づける能力です。

多様な生き方に関する、さまざまな情報を取捨選択、活用しながら自分で判断してキャリアを形成していく力を示します。

当然この能力は、社会人として生活していくために生涯にわたって必要になります。

自分で学ぶこと・働くことの意義を理解して、将来設計し、それに向け行動し、改善していく。まさに生きる力を養う内容です。

キャリア教育の意図を大人が考える

草原で両手絵を広げる

本記事では、キャリア教育で身につけたい能力・態度の中身について解説してきました。
キャリア教育には、「生きる力」を養うための要素が、多分に含まれています。

「4能力8領域」が示された際、学校現場まで十分に意図が浸透しなかったのは、大人がその意義について理解しきれていなかったからかもしれません。

しかし、キャリア教育は人の生涯に関わる教育です。それはいいかえれば、今を生きる私たち大人にも、意義深い学習なのではないでしょうか。

人は生きていく上で必ずどこかでつまづきます。子どもだけではありません。大人だってそうです。そんな時、自分の役割を見直し、未来を見据え、自信をもって歩んでいくことは、人生をより希望に満ちたものにするでしょう。

その能力を育むのがキャリア教育です。それを大人が理解せず、閉塞的な社会を作ってはいけないはずです。

その点で、キャリア教育の意義については、まず私たち大人がしっかり認識する必要があるのではないでしょうか。キャリア教育がしっかりと理解され、教育現場だけでなく、社会全体で活かされることを願います。