発達障害と聞くとどんなイメージがあるでしょうか。
勉強ができない、逆に勉強はとてもできる、記憶力がいい、コミュニケーションが取りづらい、よく動く、目が合わない、空気が読めないなどさまざまな特徴が思い浮かびますよね。
しかし具体的にどのような症状があり、日常生活にどう影響を及ぼすのか知らない人は多いのではないしょうか。
発達障害は親や支援者など周りの環境や周りの理解が重要です。
この記事では、発達障害とは何か、親の関わり方や支援者の在り方、現在の学校教育における問題点を解説します。
発達障害とは?
発達障害とは文部科学省が以下のように定義しています。
発達障害とは、発達障害者支援法において「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されています。
発達障害は脳機能の障害であるため、その子の育つ環境や、親など後天的な理由でなるものではありません。「自分のせい」と責めてしまう親がよくいますが、育て方でなるものではなく、自分を責める必要は全くありません。
発達障害の種類
発達障害には、具体的にどのような種類があるのでしょうか。
もちろん大切なのは名前で分類することではなくその子自身の特性や特徴を理解することです。
ただ、どのような発達障害の名前が付けられるかでその子自身の特性理解が深まることがあります。
また、発達障害について全く理解がない人にもわかってもらいやすい指標のひとつとなります。
そのため、それぞれの障害の特性について解説します。
自閉スペクトラム症
自閉症、アスペルガー症候群などを全て合わせて「自閉スペクトラム症」と呼びます。
自閉スペクトラム症は知的発達の遅れを伴う人もいれば知的に遅れがない人もいます。
自閉症の具体的な特徴としては、コミュニケーションの障害、対人関係・社会性の障害、想像力の欠如、言葉の遅れが挙げられます。
他者の気持ちを想像することが難しく、コミュニケーションが一方的になったり、他者に興味を示さないなどの特徴を持ちます。
そのため、対人トラブルが起こりやすかったり、自分の好きな事だけを一方的に話すなど一般的に「空気が読めない」と言われたりします。
「暗黙の了解」など見えないルールを理解するのが難しく、社会におけるルールをひとつひとつ知識として教えていく必要があります。
例えば、太っている人にデブと言ってはいけない、女の人に年齢を聞いてはいけないなど、わたしたちが常識だと思っていることも「教えてもらってないから知らない」ので、教える必要があります。
「困った時にどうしたらいいのかわからない」など問題解決をするのが難しいこともあります。
そのため、「困ったら助けてって言ってね」など、困った時の伝え方や対処方法を教えておくと、安心して生活できるようになります。
また、イメージ力や想像力の障害があるため、失敗したときや急な予定変更があったときにどうすればいいかわからずパニックや混乱を起こします。
パニックを起こしたときはまず落ち着き安心感を持つことが大切です。
本人の落ち着ける場所や落ち着けるものを渡し、親は支援者は子どもが落ち着くまで待ちましょう。
失敗したときにパニックを起こさないための対応として、失敗したときのイメージを持たせるため
- 支援者が先に失敗をして見せる
- 失敗の練習をしてみる
などが挙げられます。
また、予定変更が事前にわかっている場合は出来る限り予告する、事前にわからない場合は「予定が変わるかも」と予告しておくことで、安心感を持ち生活できます。
まだ言葉だけでは理解が難しいお子さんには、これから行く場所ややることの写真や絵を見せるのも有効です。実物がいいのか、写真・イラストなのか、文字なのか、言葉で理解できるのかはお子さんの普段の様子から判断してもいいですし、療育施設などで専門の作業療法士や言語聴覚士に評価してもらうこともできます。
その他の特徴として、感覚刺激の受け取り方が敏感であったり、逆に鈍感であったりします。
具体的には、視覚情報に対して敏感なお子さんは刺激の多い場所では落ち着かない、電気が常にちかちかして見える、など人によってさまざまな感じ方をしています。
聴覚に敏感なお子さんは電化製品やトイレのドライジェットなど特定の音を怖がるなどの特徴を持ちます。
運動会のピストルの音が怖かったり、ざわざわと色々な声が聞こえる教室もストレスになったりします。
特に聴覚はイライラなどの感情と結びつきやすいと言われており、少しの刺激でイライラするお子さんが多いです。
筋肉や身体を動かすときに働く固有受容覚が鈍感なお子さんはわたしたちが少し動かせば「動いた」とわかる動作でも、かなり大きく動かさないと「動いた」と感じないことがあります。
そのため、身体の動かし方が不器用であったり、人を呼ぶときに強くたたくなど一見乱暴に見えることもあります。
このような感覚刺激の偏りは人それぞれ違うため、周りの人が良く観察したり本人からどう感じてるか話を聞いて、対応をしていくことが肝心です。
感覚過敏のお子さんは常にものすごいストレスの中で暮らしていることを理解するのが大切です。
注意欠陥多動性障害(ADHD)
注意欠陥多動性障害(以下ADHD)は、文部科学省により以下のように定義されています。
ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。
文部科学省HP
また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。
ADHDは、とにかく動きが多く衝動的に動いてしまう多動・衝動性タイプと、ぼーっとしており忘れやすい、気が散りやすいなどの特性を持つ不注意タイプに分かれます。
しかし、どちらの特性も兼ね備えているお子さんが多いです。
授業中などに座っていられない、先生の話に注意を向けておらず指示が入りにくい、衝動的に動くなどで怒られる機会が多く、自己肯定感が下がりやすいです。
ADHDの子はエンジンのみでブレーキがない、と言われることがあります。
そのため周りの支援者がブレーキの役割をしてあげるのが大切です。
一般的に動きの多さは小学校3年生くらいで落ち着くと言われており、その後は不注意や物忘れが目立ちます。
忘れないことはメモする、見えるところに書いておく、などの対応方法を教える必要があります。
また、支援者自身も指示は言語だけでなく紙に書いて渡す、黒板の見えるところに書いておき確認できるようにしておくなどの支援が必要です。
学習障害(LD)
学習障害は文部科学省により以下のように定義されています。
学習障害とは、全般的に知的発達に遅れはないが、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」といった学習に必要な基礎的な能力のうち、一つないし複数の特定の能力についてなかなか習得できなかったり、うまく発揮することができなかったりすることによって、学習上、様々な困難に直面している状態をいいます。
文部科学省HP
知的発達に遅れがないため、本人の大変さに周りが気づかないことがあります。
どのような大変さがあるかは個人によって大きく異なるため、療育の専門機関などで細かく評価をし、適切な支援をすることが重要です。
教科書を読めないお子さんには読み聞かせる、文字を指でたどる、単語ごとに区切って線を引く、などの対応が有効です。
また、1つできないことがあったとき、その子が持っている能力でどのように教えたら補えるか支援者は考えることが大切です。
発達障害かな?と思ったら
お子さんが発達障害かな?と思ったら、まずは専門機関に相談しましょう。
発達障害を持つお子さんの子育ては、コツや工夫が必要となります。
専門知識を持つ人に相談し、親も学んでいくことが大切です。
保健所に相談
各市区町村では、子どもが生まれてから検診が度々あります。
その際に不安なことがあればまず保健士さんに相談しましょう。
保健士さんが相談に乗ってくれ、必要であれば病院などの専門機関を紹介してもらえます。
病院に相談
発達障害専門の小児科がある病院を受診しましょう。
住んでいる地域で、どの病院が専門かわからないときは普段受診している小児科で相談するのがおススメです。
その小児科が発達障害専門でない場合は、発達障害専門の小児科がある病院に紹介状を書いてもらえます。病院受診が決まったら、お子さんの気になる点や心配な点を簡潔に伝えられるよう書き出しておきましょう。
受診の限られた時間の中で適切な情報を伝えることで、正しい診断やアドバイスにつながります。
保育園、幼稚園や学校に通っている場合は担任の先生にも普段の様子を聞いておきましょう。
家庭で過ごす状態と、集団で過ごす状態は異なることが多いからです。
病院受診し、必要であれば作業療法士や言語聴覚士によるリハビリテーションが開始されます。
療育の開始
作業療法や言語療法による療育が開始されたら、普段気になっていることを相談しましょう。
作業療法士や言語聴覚士は、お子さんの状態を評価し、普段の困りごとからお子さんに合った支援方法をアドバイスしてくれます。
また、年齢が小さいお子さんの場合は各市町村ごとで月に数回保健所で療育をしている場合もあります。どんなサービスが受けられるかは、各市町村に問い合わせてみてください。
発達障害は環境が大切
発達障害を持つお子さんにとって、家庭環境や保育園、幼稚園、学校の環境が大切となります。
- 子どもを変えるのではなく親が変わる
- 親が良かれと思っていることが子どもにはマイナスになることも
2点について解説します。
子どもを変えるのではなく親が変わる
我が子が発達障害とわかったとき、「何とかしてこの子を変えよう」と考えてしまう親は多いものです。
普通の子と同じようになってほしい、普通の子と同じように育ってほしいと思うあまり、高いレベルのことを求めたりその子に合っていない支援をしたりしてしまうことも。
発達障害の特性は治るものではなく、その子の困っていることや状況を理解し、周りが変わっていく必要があります。
例えば言語指示だけでは難しい子には写真やイラスト・文字を見せるなどの対応をしたり、感覚刺激に偏りのある子なら嫌な感覚刺激は取り除いてあげるなどの対応をしたりすることが重要です。
聴覚障害がある子には手話を使うように、視覚障害のある子には点字を使うように、発達障害のある子にはその子自身に合った支援が必要不可欠なのです。
正しい支援をするためには正しい評価が必要となるので、療育などの専門機関への相談が必須です。
ひとりで悩まず、困ったときは専門家へ相談しましょう。
親が良かれと思っていることが子どもにはマイナスになることも
親が我が子にとって良いと思っていることが、実は子どもにとってマイナスになることもあります。
例えば、知能検査の結果IQに偏りがあり、特別支援学級の判定が出るのに使わない場合、子どもはどうなると思いますか?
普通学級は、IQ100の子を基本とした授業作りがされています。
IQ70~130の間に95%の子が入ると言われています。
それ以上でもそれ以下でも、普通学級の授業には合わないのです。
自分のレベルに合っていない授業は多大なストレスとなり、その子のためになるとは言えません。
知的に低い子の場合は授業についていけないイメージが湧きやすいですが、IQが高すぎる子もレベルが合わずに苦労することになります。
それぞれの子にあった支援をする場合、普通学級に入れておくことが大切なのか、支援級を利用しながらその子のレベルに合った授業をしてもらうのか考える必要があります。
また、小さいお子さんを持つ親がやりがちなのが「注射が嫌いな子に対して当日連れていくまで秘密にする」など予定変更を事前に伝えないことです。
発達障害を持つ子は、見通しを持ちづらく、突然の予定変更が苦手な子もいます。
注射は嫌いかもしれませんが、それよりも嫌なのが「突然予定変更され病院に連れていかれること」です。
事前にわかっているのであれば「〇日の×時から注射だよ」と事前に伝えておいた方が、子どもは安心して生活できます。
注射は一つの例ですが、このように親が良かれと思って隠していることが、実は事前に予告しておいたほうがいいというパターンは多くあります。
学校教育での困難さ
現在の学校教育は、発達障害を持つお子さんにとって困難さを抱える場面が多々あります。
- 発達障害の子に合っていない場合がある
- 足りない部分を補う必要がある
2点について解説します。
発達障害の子に合っていない場合がある
普通学級における授業は、レベルが高すぎたり低すぎたりと、発達障害の子に合っていない場合があります。
聴覚が敏感な子にとっては、大勢の子がいてざわざわしている教室は、それだけで集中できない原因となります。
また、視覚刺激に対して敏感な子にとってはプリントなどの掲示物がたくさんあったり、大勢人がいたりする教室は気が散り集中できません。
嗅覚が敏感な子はその家ごとの洗剤や柔軟剤の香りがきつくて苦しんでいるかもしれません。
このように、感覚の受け取り方一つをとっても、学校教育においていかに発達障害の子が大変な思いをしているかわかります。
視覚情報からの理解がいい子と、聴覚情報からの理解がいい子両方にとってわかりやすい授業をするのは難しいですよね。
発達障害を持つ子はひとりひとり特性が異なり、支援方法も変わってきます。
そのため、普通学級での授業では理解できない場面も多いと言えます。
また、学校教育における運動会など季節のイベントも発達障害を持つ子にとっては大きなストレスとなります。
何かイベントがあるときは学校における1日の流れも普段と変わってきます。
「いつもと同じ」状態を好み、「いつもと同じ」ことに対し安心感を覚える発達障害の子にとって、普段と違う流れは多大なるストレスです。
実際、運動会シーズンは保育園や幼稚園、学校に行きたくない子が増えたり、外で頑張りすぎて家庭で荒れるお子さんが多くいます。
足りない部分を補う必要がある
普通学級で足りない部分が、特別支援学級に入れば補えるかというと、そういうわけでもありません。
特別支援学級は、必ずしも発達障害について理解のある先生ばかりではないからです。
もちろんその子に合った授業をしてくれる先生もいますが、ひとりひとりに違った課題を出し、全員を見るというのは大変です。
特別支援学級は学校にもよりますが、全学年同じ教室で学ぶことが多く、1~6年まで先生は一人で見なくてはいけません。
そのため、学校でカバーしきれない部分を学校以外で補っていく必要があります。
支援者のあるべき姿
発達障害を支援する支援者はどうあるべきなのでしょうか。
- 支援者自身が自分の強みを生かす
- 支援者自身が幸せでいるべき
- 支援者は自分で自分を褒めよう
3点について解説します。
支援者自身が自分の強みを生かす
発達障害のお子さんを支援するとき、支援者は自分自身の強みを生かすことが大切です。
自分は何ができるか、何が得意なのかは一人一人違います。
支援者は、発達障害のお子さんの「できないこと」に目を向けるのではなく、「出来ること」に目を向けて支援方法を考える必要があります。
そのために、まずは自分自身の強みや出来ることを理解していなければ、他者の強みにも目を向けることはできません。
動きの多いADHDタイプのお子さんと相性が良い人もいれば、繊細で過敏な自閉症タイプのお子さんと相性が良い人もいます。
支援者自身、感覚刺激の受け取り方に偏りがあれば、発達障害のお子さんの気持ちを理解することができ、その子の状態を親に説明することもできます。
ぜひ自分自身の強みは何か考え、支援に生かしてみてください。
自分自身の強みがわからない場合は、近しい人や仲の良い人に聞いてみるのもおすすめです。
支援者自身が幸せでいるべき
発達障害を持つお子さんを支援する支援者自身が幸せでいるべきです。
発達障害を持つお子さんも、療育を始めたばかりの親も、不安いっぱいです。
今後我が子はどうなるのだろう、何がしてあげられるのだろう、将来が不安、などさまざまな思いを抱えて支援者へとたどり着きます。
中には、小さいころから育てにくさを感じ、苦労してきた親や、育て方が悪いのかも…と自分を責めている親もいるかもしれません。
そんな時に、暗くて自信がなさそうで不幸せそうな支援者がいたらどう思うでしょうか。
支援者に会うたびに暗い気持ちになってしまいますよね。
支援者がやるべきことは、親と一緒に子どもの将来を悲観し、共に暗い気持ちになることではありません。
現在お子さんが何に困っているのか、親はどんなことに大変さを抱えているのかを聞き取り、その子の状態にあったアドバイスをすることです。
そして次に支援者に会うときまで、親が元気いっぱい頑張るためのパワーを送る役割もしているのです。
そのためには会った時に毎回元気をもらえるような、幸せな支援者に担当してもらった方が親も子も幸せです。
よって支援者自身が幸せでいられるよう、自分自身の生活を大切にするべきです。
支援者は自分で自分を褒めよう
支援者は自分で自分を褒めましょう。
支援をしていると、どうしても自分の力不足を感じたり、役に立っているのか不安になったりします。
しかし、お子さんや親のことを日々考えて関わり、アドバイスをしている支援者は全員頑張っています。
また、発達障害の療育やリハビリテーションなども、すぐに結果が出るものではありません。
ひとつ問題が解決したとしても、年齢によってまた別の課題が必ず出てきます。
例えば、幼少期は動きの多さが気になった子で、成長するにつれ動きがおさまってきたとしても次は対人トラブルが出てくる、勉強面での困りごとが出てくる可能性があります。
そのため、その都度その都度課題と向き合っていく必要があります。
しかし支援者が関わることで確実にお子さんや親の手助けになっているのです。
そもそも親は子どもの障害受容から始まります。
これから我が子とどう関わればいいのか、そもそも発達障害とは何かという不安をいっぱい抱えながら支援者の元へ来るのです。
そんな不安な時に、家族以外で寄り添ってくれる人がいるだけでも心強いものです。
支援者は家族以外のお子さんや親について親身に寄り添い、今後を考えられる素晴らしい人です。
よって、自分で自分をぜひ褒めてください。
まとめ
発達障害において大切なのは、子どもを変えることではなく親や周りの環境をその子に合ったものに変えることです。
また、親が良かれと思ってやっていることが逆に子どもの負担やストレスになる場合もあります。
現在の学校教育では、さまざまな特性を持つ発達障害の子にはあっていない場合も多くあり、特別支援学級に入ったとしても完ぺきな支援をもらえるとは限りません。
よって、足りない部分は学校外で補う必要があります。
支援者は、ただアドバイスをするだけでなく、お子さんと親を元気いっぱいにしてまた次会うまで頑張ろうという気持ちを持たせる役割もしています。
そのため、支援者自身が自分のできることや強みに目を向け、お子さんや親と接するときはいつも明るく振舞うことが大切です。
それにより、お子さんや親を笑顔にできるかもしれません。
また、支援者も日々頑張っています。
発達障害を持つお子さんを支援することは、支援者自身も不安やストレスが大きいです。
しかし、お子さんや親にとって家族以外で親身になってくれる人がいるだけでも心強いということを忘れず、支援者は自分で自分をほめ、幸せでいることが大切です。