日本の子どもの幸福度はワースト2位!?

皆さんのお子さんは幸せですか?
突然そう問いかけられたら、あなたは何と答えるでしょうか?
そもそも幸せとは何か、という哲学的な疑問も持つでしょうか。

ユニセフの調査によると、日本の子どもの精神的幸福度は38か国中37位、つまりワースト2位となっています。ここでいう精神的幸福度とは「生活満足度」と「若者の自殺」という構成要素で順位がつけられています。補足すると「ポジティブな側面とネガティブな側面の両方の視点」「精神的幸福とは、単に精神的不調がないことのみをいうのではなく、より広い意味のポジティブな精神の働きも意味する」も関与しているということです。

子どもの幸福度が現代日本の社会問題となっている

そして2023年に設置予定である「こども家庭庁」の基本方針はご存じでしょうか。
「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針について」の中では保護者が自己肯定感をもって子供に向き合うことと、全ての子どもが自己肯定感を高めることに言及されています。

児童虐待防止法とは別にこども基本法というものが制定されるほどに、現代日本の子育てを取り巻く状況は深刻なものとなっているのです。

子どもの幸福度が下がっている2つの理由

現代日本の子どもと家庭の問題は非常に複雑です。時代の流れ、家族制度、現代の政策など多岐に渡りますが、ここではより根本的な2つの理由をお伝えします。
それは

  • 愛着スタイルの変化
  • 自己肯定感の低下

です。この二つは切っても切り離せないものです。

理由1:愛着スタイルの変化。大切なのは安定型の愛着スタイル

昨今の子ども(大人にも当てはまりますが)の愛着スタイルは不安定型や回避型の傾向がみられています。それが、精神的幸福度が下がっている原因です。不安定型、回避型の愛着スタイルが形成される原因については長くなるため割愛し、ここでは「安定型の愛着スタイル」に注目します。

愛着とは第一には母子間で育まれるものですが、時に父子あるいは他の大人と子供、そして大人と大人の間でも形成されます。
安定型の愛着スタイルについてはこのように説明されます。

「母親との愛着が安定した子どもほど、活発に冒険し、外界を探索し、他者と交わろうとする。愛着した対象への信頼感や安心感が、子どもが積極的に活動する上での後ろ盾となるのだ」

『回避性愛着障害 絆が希薄な人たち』電子書籍版発行:2014年1月10日、
著者:岡田尊司、発行所:株式会社光文社

と岡田誉司氏は説明したうえで、さらに生物学的な仕組みからも解説しています。愛着という生物学的な現象にはオキシトシンという、いわゆる「幸せホルモン」とも呼ばれますが、この働きが重要だと言います。
前述した書籍内では

「オキシトシンは夫婦関係や子育てだけでなく、社会性全般にも作用していることがわかってきた。オキシトシンの働きが活発だと、その人は対人関係で積極的になるだけでなく、人に対して優しく、寛容で、共感的になりやすい」

とされています。
そして、このような安定型の愛着スタイルを持った子供は、他人をも幸せにします。

「親に安心させてもらい、尊重され、大事にされた子どもは、自分という存在に安心感、肯定感を持ちます」
「そして、4歳以降は、自分がされてきたように、親や他人を尊重し、みずから喜んで助けるようになるのです」
「自分がやってもらって嬉しかったから人にもやってあげようという、喜びが動機でそうした行動をとるようになるので、自分も周囲も幸せになるのです」

『気づけない毒親』電子発行版:2019年6月24日、著者:高橋リエ、発行所:毎日新聞社

と語るのはカウンセラーの高橋リエ氏です。
つまり安定型の愛着スタイルを持った人は、人間関係においても社会生活においても信頼され、自分の幸せのみならず他者をも幸せにするという、幸せの輪が広がっていくのです。

理由2:自己肯定感の低下。まずは保護者の自己肯定感を上げよう

冒頭にあげた政府の基本方針を覚えているでしょうか? 本文を引用します。

「子育てに対する負担や不安、孤立感を和らげることを通じて、保護者が自己肯定感を持ちながらこどもと向き合える環境を整え、親としての成長を支援し、保護者が子育ての第一義的責任を果たせるようにすることが、こどものより良い成長の実現につながる。」
「全てのこどもが、安全で安心して過ごせる多くの居場所を持ちながら、様々な学びや、社会で生き抜く力を得るための糧となる多様な体験活動や外遊びの機会に接することができ、自己肯定感や自己有用感を高め、幸せな状態(Well-being)で成長し、社会で活躍していけるようにすることが重要である。」

お気づきでしょうか。
「自己肯定感」という観点で見た場合、子どもの自己肯定感はもちろんのこと、保護者の自己肯定感が先に提示されているのです。

「自己肯定感の高い子どもの親に見られるもうひとつの共通点として、「親自身の自己肯定感が高い」ということも挙げられます。」
「親自身が楽しく幸せな人生を歩むことが大切。」

『自己肯定感が「高い子の親」と「低い子の親」。驚くほど全く違う、それぞれの特徴とは』
https://kodomo-manabi-labo.net/yokonakasone-interview-04

と教育ジャーナリストの中曽根陽子氏の発言にもあるように、まずは親の自己肯定感をあげることが重要なのです。

さて、自己肯定感とは自信とは違います。
ポジティブな面もネガティブな面も、幸せなことも辛いことも「あるがままの自分を受け入れる」ということです。
「あるがまま」に受け入れるということは、人間の精神において非常に重要なことです。例えば精神療法の一つである森田療法では「症状をコントロールするのではなくあるがままに受け入れる、それが本当の意味で回復につながる」という基本的な理念になっています。最近では耳にすることも増えたマインドフルネスという言葉も「ありのままを受け止める」ということを目指しています。

「マインドフルネスってスピリチュアルな言葉じゃないの? 怪しくない?」
と思う人も少なくありませんが、今ではその効果が科学的に立証され、医学やカウンセリングの場にも取り入れられています。
それほどまでに「あるがまま」「ありのまま」を受け止めるということは、大人も子どもも精神衛生上に不可欠な理念なのです。

解決策はあるの?

「愛着スタイルの変化と自己肯定感の低下が、子どもの幸せに関与してくることはわかった。ではどうしたらいいの? 今の仕事や子育てでいっぱいいっぱいです!」

はっきり言えば、解決策を社会全体が模索中です。

2022年10月24日に行われた集中審議の中で、嘉田由紀子氏は、社会学者筒井淳也氏の発言に触れながら「気楽に家族が作れるように」社会を整える必要がある、と言われていました。政府としても子育てを社会全体でサポートする必要はあると認めながらも、実現できていないのが現状です。
数式や機械のように「このエラーを直せば全部うまくいくよ」と言えるものではありません。子どもと家庭を取り巻く問題は現代日本にとっての課題です。
ですがヒントはあります。まず一番にできることは「自分を認めてあげること」そして共感、寄り添い、受容。
そして心に余裕ができたら、自分や子供の強みを見つけてみませんか?
次に、それを伸ばしていってみませんか?

強みと言われた時、

「私は得意なことなんてない」
「うちの子は勉強も運動も目立たないし、才能なんて……」


と思いませんでしたか?

強みというのは「努力していること」「自信のあること」の他にもあります。
例えばこんな経験はないでしょうか。

「あなたの話って分かりやすい」
「あなたってよく周りを見ているね」
「一人ぼっちの子に自然に声をかけてあげられるんだね」


そう、褒められた経験です。決して、苦労したり時間をかけたりして身に着けたものではないことで、褒められた経験はありませんか?
ついお世辞だと思って「そんなことないですよ」「褒めたら調子にのるからやめてください」と返していませんか?
褒め言葉を素直に受け取ってみてください。褒め言葉を否定すると、褒められたあなた自身の心も、褒められたのに否定された子どもの心も、傷ついてしまいます。
他の人にとってはできないこと、難しいことを、あなたや子どもは難なくやっているのです。だからこそ、それを見た誰かが「すごい!」と褒めてくれるのです。

おわりに

日本の子どもの精神的幸福度がワースト2位という問題から、保護者や子どもの、愛着スタイルの変化と自己肯定感が下がっていることを理由にあげました。
その解決策としては愛着スタイルを安定型にすることと、子どものみならず保護者の自己肯定感をあげることです。
しかし具体的に何をすればいいのか?
本来は社会のシステムから変わる必要がありますが、それを待ってはいられません。
だからまず個人でできることとして、「強み」に注目してみましょう。強みを見つけて、伸ばすことが、その人やその子の、自己肯定感につながります。

少し専門的な話をすると「ストレングスモデル」「ストレングスアプローチ」といいます。これは「できないこと」に注目してするのではなく、「できること」に注目する援助方法です。
このストレングスは、個人に限定せず、個人を取り巻く環境のことも含みます。
関連する話として、個人のストレングスを引き出すために第三者が関与する「エンパワメントアプローチ」があります。外部から働きかけ、本人の能力を引き出したり、抑圧された力を取り戻したりするアプローチです。
愛着スタイル、自己肯定感、強み……一見つかみどころのない言葉ですが、実は大人も子どもも、生きやすく活躍するためには欠かせないキーワードだと言えます。
それでも「どうしても自分では強みがわからない!」「うちの子の強みをのばすってどういうこと!?」とお困りでしたら、ワークブックや第三者の力を借りてみるのもオススメです。

参考:
『イノチェンティ レポートカード 16 子どもたちに影響する世界 先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か』
『こども政策の新たな推進体制に関する基本方針について』令和3年12月21日閣議決定
『回避性愛着障害 絆が希薄な人たち』電子書籍版発行:2014年1月10日、著者:岡田尊司、発行所:株式会社光文社
『気づけない毒親』電子発行版:2019年6月24日、著者:高橋リエ、発行所:毎日新聞社
『自己肯定感が「高い子の親」と「低い子の親」。驚くほど全く違う、それぞれの特徴とは』