アダルトチルドレンとは、機能不全家族で育ったために子どもらしい子ども時代を送れず、子ども時代の傷を抱えたまま大人になった人のことです。
「でも我が家は虐待なんかなかったし、私は恵まれて育ったと思ってるよ」
「だけど、なぜか人とうまく関われない」
「一人で物事を決められなくて、いつも親に相談しちゃう」
「皆が当たり前にできてることを、どうして私はできないんだろう」
このような思いを抱えた方は、もしかしたら「機能不全家族」と呼ばれる家庭で育ち、子ども時代に心の傷を受けた可能性があります。こうした人々は「生きづらさ」と呼ばれる特性をもっていますが、意外と本人は「性格だ」と思って自覚していないことがあります。
でもそれは本当にあなたの性格ですか? 親から「お前は〇〇な性格だ」と言われてそう思い込んでいませんか?
今回は、アダルトチルドレンとはどういう特徴があるのか、治療はできるのか、どうしたらいいのか……それらを一緒に確認しましょう。
大丈夫、アダルトチルドレンを克服して自分らしく生きることはできます。
虐待がなくても機能不全家庭で育てばアダルトチルドレンになる
アダルトチルドレンという言葉を知っている方は、もしかしたら「アルコール依存症の親と子どもの問題」「虐待家庭の問題」と思っているかもしれません。
ですが実際には、表面化していない問題を抱えた機能不全家族も存在します。一見すると「いい親」と言われる親が、実は子どもを抑圧していることも多いです。子ども時代に子どもらしく過ごせなかったり、親に安心感を与えられなかったりした子どもは、大人になってもその時の傷に悩まされ続けています。それがアダルトチルドレンです。
機能不全家族については別の記事にて詳細を書いていますが、改めて簡単におさらいしましょう。機能不全家族をかなりざっくり紹介すると下記のような家庭です。
- 親が親の責務を果たしていない
- 子どもが親の親代わりをする
- 親に身体的または心理的に支配されている。
次から、具体的にアダルトチルドレンの特徴についてみていきましょう。
アダルトチルドレンの特徴である「生きづらさ」とは?
機能不全家族の在り方は様々ですが、そこで育ったアダルトチルドレンの特徴は驚くほど似通っているとされます。以下に挙げるのは代表的な例であり、全てを列挙するのは難しいです。
- どれだけやっても自分は不十分だと感じている
- 本当のことを言った方がいい時に嘘をつく
- 自分に自信がない、自分に批判的
- 人の顔色を窺う
- 常に緊張している
- 人を信じられない
- 逆に、他人に過剰な期待をする
- 自分の責任じゃないことにまで責任を感じる、あるいは無責任すぎる
- 自分の好みや趣味がわからない
- 自分のやりたいことがわからない
- 自分で決められない
例えば「自分で着る服を決められないから、母親に相談しないと不安になる(自分の好みがわからない、自分の判断に自信が持てない)」というアダルトチルドレンの成人女性は少なくありません。
では、なぜこのような特徴が現れるのでしょうか?
アダルトチルドレンの原因は機能不全家族と毒親
先にも述べたとおり、アダルトチルドレンの原因は機能不全家族で育ったため、そして親子関係に問題があったためです。問題のある親のことを、最近では「毒親」(子どもにとって有害な、毒になる親)と呼ぶことも多いですね。毒親というのは疾患名でも心理学用語でもなく、刺激の強い言葉でもあるため、専門家でもこの言葉を嫌う人はいます。
しかしそのような専門家であっても、この親子関係の問題を軽視しているわけではありません。アダルトチルドレン、機能不全家族、毒親と言われる親子関係、不安定な愛着……これらは切っても切り離せない問題です。
原因1:機能不全家族の中で親代わりをしていた(親子逆転)
機能不全家族は何らかの理由で、「親が親の責務を果たさない」という特徴があります。そこで子どもが親代わり(親子逆転)になります。親の身体的・心理的なケアを行い、家族の面倒を見て、家事をしなければなりませんでした。しかしまだ子どもですから、大人のようにはできません。そのことが本人にとって「どれだけやってもうまくできない、自分の能力不足だ」という思い込みにつながり、自信のなさを生み出します。
原因2:毒親に否定され続けた
否定と言っても、いろいろなものに対する否定があります。
- 好きなものや趣味の否定(そんなものくだらない、ダサい、センスがない)
- 努力や結果に対する否定(お前はどれだけやっても無駄だ。1位以外価値がない)
- 人格の否定(お前は人間性がダメだ。異常者だ)
- 事実の否定(そんなことは言ってない。やってない。お前の思い込みだ
前述した「自分で服を選べない」という例ですと、昔から自分で選んだものを否定され、親の好みや命令を押し付けられてきました。子どもはそれに従うしかなかった、または従う方が問題が起きなかったのです。
4つ目の「事実の否定」もまた罪深いものです。事実の否定とはどういうことだと思いますか?
原因3:毒親による「事実の否定」
事実の否定は、ほぼすべての「毒親」と呼ばれる人々に通じる現象です。
例えば、子どもが何らかの不満を口にすると、親はそれを個人攻撃だと受け止めるのです。子どもがただ気持ちを表現しただけでも、親は攻撃されたと思い反射的に反応します。
- そんなことは起きていない。(問題の存在の否定)
- 今後はそんな問題は起きない。大した問題じゃない。(問題の矮小化)
- こういう理由があるから仕方ないだろう。(問題の正当化、言い訳)
例えば「私が小さかった時、お母さんにこう言われてすごく悲しかった」と言った子どもに対して、親は自分への攻撃と捉え「そんなことは起きていない。お前の思い込みだ!」と反射的に否定します。
このように言われると、子どもは何も言えません。物的な証拠はなく、自分の記憶しかないのですから。こうして悲しかったという気持ちを否定され、過去の事実の否定をされ、子どもはますます自信を無くします。「私の思い込みだったの? 悲しかったと思った私が間違っていたの? 私がいけないんだ」と。
悲しいことに、こうした親は本心から「そんな事実はなかった」「子どもの方がおかしい」と思っています。
アダルトチルドレンの生きづらさチェックリスト
アダルトチルドレンの生きづらさについて、ネット上では数多くのチェックリストが作られています。どれも間違いではありません。ここでは、スーザン・フォワード氏が作った「親との関係」に関するチェックリストをご紹介します。氏はアダルトチルドレンの生きづらさを、「考え」「感情」「行動」に分解しています。
下記のチェックリストを見ても、「あてはまらないこともないけど、これくらい普通の親子関係じゃない?」と思うかもしれません。そこでポイントとなるのは、ネガティブな心理的支配、即ち「後ろめたさ」「申し訳なさ」「罪悪感」「恐怖」「強い怒り」があるかどうかです。
親との関係における「考え方」
- 親は私の行動しだいで幸せに感じたり感じなかったりする。
- 親は私の行動しだいで自分を誇らしく感じたり感じなかったりする。
- 親にとって私は人生のすべてだ。
- 親は私なしには生きられないと思う。
- 私は親なしには生きられないと思う。
- もし私が本当のこと(例えば、離婚する、中絶した、同性愛である、フィアンセが外国人である、等々)を打ち明けたら、親はショックで(または怒りのあまり)倒れてしまうだろう。
- もし親にたてついたら、私はもう永久に縁切りだと言われるだろう。
- 彼らがどれほど私を傷つけたかを話したら、私はきっと縁を切られてしまうだろう。
- 私は親の気持ちを傷つけそうなことは何ひとつ言ったりしたりするべきではない。
- 親の気持ちは自分の気持ちよりも重要だ。
- 親と話をすることなど意味がない。そんなことをしたところで、ろくなことはないからだ。
- 親が変わってさえくれれば、私の気分は晴れる。
- 私は自分が悪い息子(娘)であることについて親に埋め合わせをしなくてはならない。
- もし彼らがどれほど私を傷つけたかわからせることができたら、彼らも態度を変えるに違いない。
- 彼らがたとえどんなことをしたにしても、親なんだから敬意を払わなくてはならない。
- 私は親にコントロールなどされていない。私はいつも親とは闘っている。
親との関係で感じる「感情」
ここでは全てを引用すると長くなるため、参考という形でご紹介します。
- 私は自分のした行動や、行動できないことや、親を拒否することで、親に対して罪悪感を感じる。
- 親に大声を出されたり、怒られたりすると怖い。
- 親に対して腹を立てるのは怖い
- 親が聞きたがらないことを親に言うのは怖くてできない。
- 親が愛情を与えてくれなくなることが怖い。
- 親に反対したり、反対して立ち上がったりするのは怖くてできない。
- 親が喜んでくれないと悲しい。
- 自分のせいで親を落胆させたとわかったら悲しい。
- 親の生活をよくしてあげられないと悲しい。
- 私が原因で、親の人生がダメになったと言われたら悲しい。
- 私の望むことをして親を傷つけたら悲しい。
- 親が、私の大切な人を好きでなかったら悲しい。
- 親から批判されたら腹が立つ。
- 親が私をコントロールしようとしたら腹が立つ。
- 私の人生について親から指図されたら腹が立つ。
- 私がどう考え、感じ、行動するかについて、親から口出しされると腹が立つ。
- 親から何か要求されると腹が立つ。
- 親が、私を通して親自身の人生を生きようとしたら腹が立つ。
- 私が親の世話をすることを、親が期待していたら腹が立つ。
- 私は親に拒否されたら腹が立つ。
こうした感情を自覚していなくても、身体症状に現れる場合があります。一般的には、頭痛、胃や腸の不調、身体のこりや痛み、疲労感、食欲不振または過食、睡眠への影響、吐き気などです。
次は行動についてです。
親との関係における「行動パターン」
ここでも全文引用ではなく参考という形で紹介します。
- 私は自分がどう感じているかに関わりなく、親の言うことに従う。
- 私が本当はどう考えているか、どう感じているか親に言わないことがよくある。
- 親とうまくいっていないときでも、うまくいっているように振舞うことがよくある。
- 親と一緒の時には表面的に合わせているだけで、「偽物」になっている。
- 親との関係において、自分の自由意志ではなく後ろめたさや恐れから行動している。
- 親を変えようと努力している。
- 親に、私の考えを理解させようと努力している。
- 両親が争っているときに仲を取り持とうとすることがよくある。
- 親を喜ばせるために自分を犠牲にする。
- 家の秘密を守るのは私の役目である。
- 私は自分が正しいことを示すためにいつも親と口論する。
- 私は自分の考えがあることを示すために、親が気に入らないとわかっていることをする。
- 親が私をコントロールできないことを示すために、私は大声でわめいたり毒づいたりする。
- 親に暴力を振るわないように自分を抑えつけなければならない。
- 私の我慢はもう限界を超え、親とは縁を切った。
アダルトチルドレンは克服できる?治療方法は?
上記のチェックリストをご覧になってどのように感じたでしょうか。ネガティブな心理的支配を受けていると判明し、あなたの正体不明の生きづらさや苦しさの正体が掴めたでしょうか?
「苦しさはアダルトチルドレンからくるものだった」と感じ、「思い返せば昔から家庭はああだった、親はあんな人だった……」と思い至ったら、あなたは一歩前進したことになります。
アダルトチルドレンと判明しても、悲観することはありません。あなたの力で克服することができます。では具体的にどのように克服したらいいのでしょうか?
正しい知識を得る
機能不全家族の時と同様に、まずは正しい知識を得ましょう。アダルトチルドレンの生きづらい原因はあなたのせいではない、ということを知る必要があります。
あなたの考え方や行動にどういったパターンがあるか、上記のチェックリストがヒントになるでしょう。恐れて抑圧されているのか、無気力で従順すぎるのか、あるいは怒りを煽られているのか。いずれも親に支配され、コントロールされている状態です。あなたはどのパターンでしたか?
行動パターンを変える
これは親のパターンではなく、あなた自身の行動や感情のパターンを変えるという意味です。
例えば、親に意見をすると、いつも喧嘩に発展する親子がいるとします。子どもが親に対して何か意見をすると親が強く反論してくるため、子どもも言い返し喧嘩になるのがいつものパターンです。
そこで起きていることは、
子ども:自分の意見や考えを表明し共感や寄り添いを求めている。
親:子どもに突然攻撃されたと思い反撃している。
子ども:なぜ自分の意見を否定するのか? なぜ自分のことをわかってくれないのか?
親:子どものためにこれだけやってるのに、否定された。
というすれ違いです。そこで、パターンを変えてみます。
子ども:「親の事情はわかってるし、これだけやってくれたことには感謝してる。だから親を責めるわけじゃないよ」
と前置きをしてみます。そして会話の節々に「あなた(親)の言うこともわかるよ」「あなた(親)を責めてるんじゃないよ」と、なだめるような言葉を入れてみます。
すると、この工夫をしただけで喧嘩にならず、建設的な話し合いができる場合があります。「親の方が被害的にとらえてるのに?」「回りくどい!」と腑に落ちないかもしれません。ですが、問題に気付いていない親よりも、問題に気付いたあなたの方が、冷静で客観的に話が出来る人間に成長しているのです。
もっと日常的にできることもあります。親への連絡頻度を下げてみることも、パターンの変化と言えます。日常生活の中でパターンを変えていくことも、あなたが親の支配から抜け出す手段です。
自分で自分を育てなおす
親に期待するから裏切られてしまうのだ。(中略)あの人たちを親と思うのはやめよう。その代わりに、自分が自分の親になるのだ。自分が親として自分にどうアドバイスするかを考え、「自分の中の親」と相談しながら生きていこう――。(中略)
『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』電子書籍発行:2011年10月28日、著者:岡田尊司、発行所:株式会社光文社
実際、その方法は、非常にうまくいった。理由のない自己嫌悪に陥ることがなくなり、常に前を向いて歩いて生きていけるようになったのである。
これは愛着障害の克服における一つの方法ですが、アダルトチルドレンにも有効です。アダルトチルドレンは、愛着障害を抱えていることがあります。なぜならば、本来は信頼し守ってもらえるはずだった存在に、傷つけられてきたからです。
親に親であることを期待するのをやめましょう。これは「許す」ということではありません。「許す」ということと「メタ認知」(親には親の事情があってあのような子育てしかできなかったんだ、と客観的に知ること)は違います。
感情を表現し管理する
アダルトチルドレンは、子どものころから怒りや悲しみを抑圧してきました。その結果として、対人関係において感情のコントロールが難しかったり、何十年もたってから突然感情が爆発したりすることがあります。そうなる前にそのため込んだ感情を処理しましょう。
- 自分が怒ったり悲しんだりしていると認識し、その感情を持っている自分を許してあげる。この感情は、自分にとって何か重要なことが起きている(傷つけられた、侮辱されたなど)ことを知らせるサインでもある。
- 感情を貯めないで、適切に処理する。怒っているなら、カラオケルームや大自然の中で叫ぶ。運動して汗を流す。家の中を掃除する。悲しいなら、心行くまで、じっくり深く悲しみ嘆く。思いっきり泣く。この嘆き悲しむのも回復のプロセスだと認識する。
これは一人ではしんどい時もあります。支えてくれるパートナーや友人など信頼できる人がいるなら、思い切って頼りましょう。そうした人がいない、あるいは頼るのが憚られるのでしたら、カウンセラーやセラピストを訪ねましょう。
カウンセリングを受ける
アダルトチルドレンの克服は一人では苦しいものです。そのような時には、気軽にカウンセリングやセラピーを受けてください。今は親子関係やアダルトチルドレンに詳しいカウンセラーも増えていますし、オンラインで受けることもできます。
初めての人は「何を話していいかわからない」と緊張しますよね。その気持ちをそのまま話していいんです。せき止められていた感情が自然とあふれ出るかもしれません。あるいはカウンセラーが寄り添って質問してくれます。
「自分のせいではない」と知り未来を向く力をつける
アダルトチルドレンの生きづらさは、乱暴に聞こえるかもしれませんが、親のせいです。「あなたのせいではない」と自覚してください。
「親には親の事情があったわけだから、親が悪いわけじゃない」と言いたくなりますよね。それも正解です。親にもまた救いが必要でした。だけど、それはあなたが責任を感じることではありません。
あなたは、あなたの人生を生きてください。これから先の未来、何十年と生きていくのはあなたです。簡単には前を向けません。アダルトチルドレンは親や過去にとらわれ苦しい思いをしています。彼らは苦しみながらも、病院やカウンセリングにかかって苦しみに対処しています。これもまた、未来へ進もうとしている姿です。
アダルトチルドレンとHSP(繊細さん)は似ているけど違う
HSP(Highly Sensitive Person)通称「繊細さん」として認知も進んできました。その特徴は、アダルトチルドレンに非常に似通った部分があります。しかしHSPとアダルトチルドレンは違うものです。
それは、HSPは先天的な気質や性格であり、アダルトチルドレンは後天的な環境要因によるということです。中には、先天的にHSPの気質を持ち、環境要因によりアダルトチルドレンでもあるという人もいます。
「生きづらさという特徴は一緒なのに、この違いを明確にする必要はあるの?」と疑問を持ちましたか? 答えは「はい」です。なぜならば対処法が違うからです。
アダルトチルドレンの生きづらさは、克服できるものです。HSPとアダルトチルドレンは、それぞれに対してアプローチが異なります。
アダルトチルドレンを克服して自分らしさを取り戻す
安全で安心な居場所であったはずの家庭が、何らかの問題を抱え機能不全家族となっていた、本来なら守ってくれるはずの親に傷つけられた、親に守られ育まれるべきだった子どもがが親代わりをしなきゃいけなかった、子どもが求めるものは得られず、子どもらしい子ども時代を過ごせなかった……アダルトチルドレンはそうした傷を抱えて大人になり、今も苦しんでいます。
何度でも繰り返します。アダルトチルドレンは克服できます。一朝一夕で解決する問題ではありませんし、回復する途中で何度も壁にぶつかって、「こんなことやっても意味なんかない!」と強い怒りや悲しみにとらわれることもあるでしょう。
それでも「親に支配されるのは嫌だ」「このままじゃ嫌だ」「私は私でありたい」と思ったなら、それはあなたの中で、あなたの意思を取り戻し始めた証です。この記事をここまで読んだあなたには、きっと、あなたにも思いもよらない強い力があります。一人で頑張る必要はありません。誰かに支えてもらいながら、あなたの自分らしさを取り戻しましょう。
参考:
『毒になる親』電子発行版:2013年12月20日、著者:スーザン・フォワード、訳者:玉置悟、発行所:毎日新聞社
『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』電子書籍発行:2011年10月28日、著者:岡田尊司、発行所:株式会社光文社