「私の親って毒親なんだよね」
「私、毒親育ちなんです」
そう聞いて、あなたはどう感じますか?
「苦労して育ててもらったのに感謝しないと!」
「衣食住は足りてるし、大学まで行かせてもらってるじゃない」
「親を否定するなんて!」
多くの人はそのように返します。あるいは、毒親育ちさんから、親にどのようなことをされてきたのか、どのように苦しかったのかを語られたら、あなたならどう返事をしますか?
「まあ、親御さんも大変だったのよ」
と言いますか?
これが、毒親育ちさんが経験する世間一般の反応です。
今回は、毒親育ちが生きづらい原因と、その解決のヒントを探っていきましょう。
毒親とは
毒親という語源は、スーザン・フォワード氏の著作『毒になる親 一生苦しむ子供』がもとになっています。毒親という言葉は昨今広まっていますが、この本の初版はなんと1989年! 30年も前から毒親問題はあったんです。
「最近の若い子はすぐに『毒親に育てられた』『親ガチャ失敗した』っていう!」
と思っていませんか? いいえ、最近の若者が作り出したものではありません。
もしかすると、そう思っているあなたの友人が、親子関係で悩む一人である可能性があるのです。
一方で、専門家でも「毒親」という言葉を嫌う人はいます。しかし、それは決して「親子問題はない」といっているわけではありません。
子どもへの影響は? 毒親育ちは生きづらい?
毒親に育てられた子どもは生きづらさを抱えることになります。子ども時代の欲求を満たされないまま大人になった「アダルトチルドレン」です。
より具体的な言葉で言えば、「愛着スタイル」への影響が問題となります。
愛着とは、母子関係の間で育まれ、子どもが自立するために必要な土台となるものです。愛着スタイルが安定型の人は、喜びを動機として動き、自分というものをありのまま(ネガティブなものも)受け入れ、他者を認め、自己開示が出来る人です。結果として、信頼の置ける対人関係を築くことが出来ます。
しかし毒親育ちであるアダルトチルドレンの多くは、不安定型、回避型の愛着スタイルを示します。不安型と回避型では特徴が異なりますが、根本には「親子間での健全な愛着が形成されなかったために、自分を抑圧して生きるしかなかった」という問題があります。
なぜアダルトチルドレンになるのか?
前述したように、アダルトチルドレンとは、子ども時代の欲求を満たされないまま大人になった人のことです。ここで大事な子ども時代の欲求とは以下のものです。
- 泣いたら親が好ましい反応を示してくれること。
- 子どもの喜びを一緒に分かち合えること。
- 子どもの辛さに寄り添ってくれること。
- 共感し、寄り添い、受け入れてもらうこと。
つまり、子どもが子どもらしく天真爛漫でいられることです。ところがアダルトチルドレンとなった人たちの子ども時代は、その真逆でした。
- 親に反応してもらえないから自分の感情を抑圧する。
- 親に怒られないように怯えて育つ。
- 親に気に入られようとする。
- 親を失望させないように、期待に応えようとする。
このような子ども時代を過ごすと、自分の感情や気持ちを抑圧され続け、大人になっても自分の感情がわからなくなります。また常に親の顔色をうかがって緊張状態が続いています。親の怒りを刺激しないように、親が疲れているなら励ますように、親の望んでいることに応えるように行動します。
それは親や周りの大人にとっては、手のかからない、おとなしくて賢い「いい子」に見えます。しかし子ども本人は、自分よりも親を優先しているだけなのです。子どもは生まれた時から、親に育ててもらえるように親に適応せざるを得ないのです。子どもは自由に振る舞えず、自分を押さえ込むことを選ぶしかありませんでした。
アダルトチルドレンにならないためには?
アダルトチルドレンは、子ども時代を抑圧して過ごしてきたことが原因です。即ち、子どもは子どもらしくいられればいいのです。具体的には、子どもが我慢せずに自分を表現できることです。
ではそのために親はどうしたらいいのでしょうか?
それは、子どもに共感し、寄り添ってあげることです。
子どもは本来、それだけを求めています。「お母さん、聞いて」と共感を求め、「私ね、嫌だったの」と言えば「そっか、嫌だったんだね」と寄り添うことです。たったそれだけのことで、子どもは「この人は私を受け入れてくれる」と安心します。
また「よくわからないけど、叩いちゃうの」と言えば、「よくわからないけど」を言語化してあげましょう。子どもは感情がないのではなく、感情を表現するすべをまだ学習していないだけです。だから「叩いちゃだめでしょ!」ではなく「どうしてかな? どんな気持ちだった?」「じゃあ、叩く代わりにこうしてみようか」と一緒に考えて、教えてあげてください。「叩いたらダメ」というのは、子どもの気持ちを否定し、ただ我慢させているだけです。
もちろん、叩くという行為はダメなことですから、その好ましくない行動を修正しないといけません。そのためにも「叩いた」ことではなく「なぜ叩いたのか?」に焦点を当てましょう。
外部の大人がしてあげられることはあるのか?
子どもにとって最初の人間関係は親子、特に母子となっています。毒親に育てられたアダルトチルドレンの場合、母親だけが毒親で父親は違う、というケースはほぼありません。なぜならば毒親ではない、つまり安定型の愛着スタイルの父親であれば、母親の不適切な対応があっても、父親のフォローによって子どもの心が育まれるからです。
では、親以外の大人が何かしてあげられることはないのでしょうか?
あります。それは、繰り返し述べている「共感し、寄り添う」ことです。
今の時代、子どもにとっての大人とは「親」しかいません。だから「親」が絶対的な存在となり、親の影響力が強まります。
ですが親以外の大人という存在が、子どもに向き合って共感し寄り添ってくれれば、子どもは親が絶対の存在ではないと知るのです。親に否定され続けて来ても、別の人が自分を受け入れてくれる、という安心感が生まれます。そして親も完璧な存在ではなく間違っていることもある、いろんな大人の価値観がある、ということを学んでいきます。
祖父母、親戚の大人、近所の大人、先生、カウンセラー……様々な大人との関わりが希薄なことも、現代にアダルトチルドレンが多い要因の一つです。
ただし注意点として、親子の介入は慎重に行いましょう。(緊急を要する場合は別です)
子どもにとって親は絶対の存在です。だから、頭ごなしに親を否定すれば、子どもはより強固に親を守ろうとします。親もまた第三者の介入を拒みます。必要なことは、親と子どもへの別々のアプローチです。
おわりに
毒親という言葉は、あまりに軽々しく広まってしまった風潮もあります。
しかし毒親という言葉は使わなくても、実は生きづらさを感じている人はいます。
「学校に行きたくない」
「なぜか、大人になってから何もかもがうまくいかない」
「周囲の人が出来ることが私だけできない」
「パートナーといつもうまくいかない」
「子育てしていると苦しい」
その問題を掘り下げていくと、実は親子関係に辿り着くことがあります。その問題に気付いたとき、激しく抵抗する人も少なくありません。ですが、まずは認めることが第一歩です。
一度「自分の問題の原因は親だった!」と思い切って認めてしまうと、それまでせき止められていたものが流れ始めます。最初は、感情の激流に翻弄されるかもしれません。しかし次第に、その感情を自分でコントロールすることが出来ます。
「親のせいだ!」から一歩進んで「あの時、私は辛かったんだね」「私は、お母さんにこうしてほしかったんだね」と、自分で自分を認めることが出来るようになります。
これは簡単ではありませんから、しばしば精神科医やカウンセラーの力を頼ることも有効です。また専門家に頼る時間がない方や、まだ抵抗感があるという方も、自分でできることはあります。それがセルフカウンセリングです。例えば、ノートに書きだす、ぬいぐるみを使ってロールプレイングをするなどがあります。
子どもや、かつて子どもだった大人の抱える生きづらさの原因と、彼らの求めているものが少しでも伝わったでしょうか?
一人でも多くの子供たちが安心して育ちますように。
参考図書
『毒になる親』電子発行版:2013年12月20日、著者:スーワン・フォワード、訳者:玉置悟、発行所:毎日新聞社
『気づけない毒親』電子発行版:2019年6月24日、著者:高橋リエ、発行所:毎日新聞社
『回避性愛着障害 絆が希薄な人たち』電子書籍版発行:2014年1月10日、著者:岡田尊司、発行所:株式会社光文社