学びの多様化学校とは?「不登校特例校」からの名称変更の経緯と特徴を解説

2023年8月に開催された「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策推進本部」第2回において、従来「不登校特例校」と呼ばれていた学校に、新たに「学びの多様化学校」という名称が付けられました。

この名称は、文部省が実際に不登校特例校に通う児童生徒、教職員から募集したもので、これからの学校教育の在り方を考えるうえで重要な意味合いが込められています。

この記事では学びの多様化学校の名称変更の経緯や特徴について解説し、これからの学びのあり方や方向性について考えてみたいと思います。

学びの多様化学校とは?

まずは学びの多様化学校がどのような学校なのか、「不登校特例校」と呼ばれていた頃まで遡って、これまでの経緯や特徴などについて解説します。

不登校特例校から名称変更された

学びの多様化学校は従来「不登校特例校」と呼ばれていました。そもそも不登校特例校は、2005年に学校教育法施行規則改正で制度化されたもので、正式名称を「不登校児童生徒を対象とする特別の教育課程を編成して教育を実施する学校」といいます。

名称にある通りこの学校には不登校の児童生徒が在籍しており、学習指導要領に縛られない、子どもたちの実態に応じた柔軟な教育課程が設定されています。2023年8月の時点で、全国に公立・私立あわせ計24校が指定されており、将来的には300校設立という目標が文部科学大臣より示されています。

COCOLOプランが大事にする「学びたいと思った時に学べる環境」

2023年3月、文部科学省は「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策」(COCOLOプラン)をとりまとめました。「不登校特例校」の名称変更も、COCOLOプラン実現へ向けた取り組みのひとつです。このCOCOLOプランが目的として掲げているのが、「不登校により学びにアクセスできない子供たちをゼロにすること」です。

不登校対策というと、学校へ行けない子どもたちを学校へ戻す支援のように考える場合がありますが、COCOLOプランで着目すべきなのは、不登校の状態にある生徒児童の「『学び』へのアクセス」を重視している点です。それを示すものとして、COCOLOプランの重要なテーマのひとつに、「不登校の児童生徒が学びたいと思った時に学べる環境を整えること」が掲げられています。

一人ひとりのニーズに応じた学びの場や支援が用意されている、学校へ登校できなくてもオンラインを活用し「学び」へアクセスできる、学校に戻りたいと思った時にクラス変更や転校など、本人や保護者の希望に沿った対応が受けられる、といったことが「目指す姿」として示されています。

参考:[誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策について|文部科学省]

フリースクールとの違い|卒業資格が得られ進学も可能

学びの多様化学校へ入学するには、年間30日以上の欠席をしているなどの条件を満たしている必要があります。また、学びの多様化学校の教育課程を修了すれば、その学校の正式な卒業資格を得ることができます。

民間のフリースクールへ通う子どもは、あくまでも在籍は元の学校にあります。フリースクールへの登校が出席として認められるか、あるいは正式な卒業資格を得られるかどうかも、在籍のある元の学校が判断します。

この点が、学びの多様化学校とフリースクールの代表的な違いといえるでしょう。

卒業後に進学を希望する場合、学びの多様化学校では内申書などの進路書類も発行してもらえます。進路指導などの支援も受けられるため、高校などへの進学を考えている不登校生徒児童にとって、有力な選択肢となるでしょう。

学びの多様化学校の特徴

ここからは、学びの多様化学校の特徴や、学びの多様化学校が大切にしていることについて解説していきます。

学びの多様化学校には、通常の学校とは異なる、さまざまな特色・配慮が見られます。フリースクールの設立や、教育に携わりたいと考えている人にも、参考になることがあるかもしれません。

不登校児童生徒へ理解のある先生が多い

学びの多様化学校の特色のひとつとして、教職員や学校関係者の、不登校児童への理解が深いことが挙げられます。なかには学びの多様化学校の公募を経て先生になった人もいて、不登校の子どもたちも、「接しやすい」と感じられるかもしれません。

不登校は、どの子どもたちもなりうる自然な状態ではありますが、実際に学校に行けていないことで、心に不安を抱えている生徒児童も少なくありません。そのような不登校の子どもたちを受け入れる体制が整っている学びの多様化学校は、保護者の立場からも安心して通わせられる場といえるでしょう。

児童生徒が主体の学習スタイルを採用

学びの多様化学校の学習カリキュラムは、学校によってそれぞれ特色があります。授業の数や長さも、通常の学校より少なく設定されているケースが多いようです。登校についても、毎日通う学校もあれば、自宅での学習を主とした学校、自宅学習と学校での学習を両立する学校など、さまざまです。

学習スタイルも、子どもたちへ配慮されている場合が多いです。学習内容を自身で選んだり、時間割を自分で設定したりなど、子どもたちの学びやすさを優先している学校が多くあります。

不登校を経験している子どもたちは、「学ぶこと」自体に苦手意識を感じていたり、楽しさを感じられなかったりすることもあるでしょう。学びの多様化学校は、まさに学びの多様性を重視し、子どもたちが学びへアクセスしやすい状態を整えています。

柔軟なクラス編成・体験的な学びを重視

通常の学校では、同い年の子どもたちによる、数十名のクラス編成が一般的です。その点学びの多様化学校は、クラスの構成や人数、授業のあり方なども柔軟に設定されています。

年齢の異なる子どもたちが一緒に授業を受けたり、クラスのメンバーがそれぞれ自分の好きな内容を学んだりなど、自由度の高い仕組みが採用されているケースが多いです。

また、体験的な学びを重視する傾向が強いことも、学びの多様化学校の特徴。各種体験会や、ボランティア活動、宿泊合宿などの校外活動など、総合的な学習に重きを置いている学校が多く見受けられます。

いわゆる一般的な授業・科目ではなく、学びへの多角的なアプローチが用意されているため、子どもたちも自身の活躍できるフィールドを見つけやすいでしょう。社会での経験、人間関係の学びにも、触れることができます。

学びの多様化学校は新たな学習の形を示している

本記事では、学びの多様化学校の名称変更の経緯や、学習スタイルの特徴などについて解説しました。

従来「不登校特例校」と呼ばれていた学びの多様化学校ですが、その名称変更に見られるとおり、現在は不登校の子どもの支援という側面よりも、1人ひとりの学びを尊重する傾向が重要視されていることがうかがえます。

大人の社会が大きな変革のなかにあるように、子どもたちの置かれる状況も、これまでとは異なる姿へ変化をとげています。未来を生きる力、学びのあり方などについて、私たち大人こそがまず再考する必要があるのかもしれません。

学びの多様化学校は、これからの学びのあり方を考えるうえで、大切なメッセージを与えてくれる存在です。特に、フリースクールの設立や、教育に携わりたいと考えている人にとっては、今後の教育の在り方を考える、大きなきっかけとなるはずです。

現在、30校に満たない学びの多様化学校ですが、設立目標数は300校。これからの広がりについては注目する必要があるでしょう。