「表面上の人付き合いはできるけど親密な関係になると重荷に感じる。無責任なのかな」
「他人にはすごく気を遣うのに、なんで私は家族にだけ怒ってしまうんだろう?」
そのような悩みを「自分の性格だ」と捉えていませんか?
または
「あの子は問題行動ばかりを起こす」
と言われるような子どもがそばにいませんか? 問題児扱いされたり、精神疾患や発達障害と名付けられるような特性を持っていたりするような子です。
大人であるあなたの「性格」も、子どもの「問題行動」「発達障害」といわれる行動も、実は愛着スタイルが関係しています。
愛着とは乳幼児期に形成されるものです。この子どもの時に形成される愛着の形が、その人の人生を左右するほど重要なものだとご存じでしたか?
今回は愛着とは何か、愛着がなぜ重要なのか、どうすれば「性格」を治したり「問題行動」を減らしたりできるのか、それらについて解説しましょう。
愛着とは何か?
愛着とは、心理学者のボウルビィやエインスワースらの研究によって確立されてきました。愛着とは人間に限らず動物全般に見られるものです。通常は母親と子どもの間で見られます。
本来動物は、生まれた子どもは母親に絶えずくっつき、母親も子どもを決して離しません。このようなスキンシップや授乳といった行為を通じて、オキシトシンというホルモンが分泌されます。
愛着のホルモン、オキシトシンとは?
オキシトシンとは、「愛情ホルモン」「幸せホルモン」「絆ホルモン」とも呼ばれます。そのように呼ばれるのは、安心感や幸福感を生み出し、ストレス耐性を高め、親子やパートナーなどの親密な関係を維持する働きを持つためです。さらには他人に対して寛容で共感的になり、社会性も高く、不利なことがあってもはねのける力も持っています。
愛着の形成に問題がない親子関係においては、オキシトシンの分泌と受容物質が健全に発達します。逆に不安定な親子関係においては、オキシトシンの分泌と受容のバランスが崩れ、子どもの性格や行動に現れます。
愛着の要となるのは「安全基地」
安全基地とは心理学者であるエインスワースが提唱した言葉です。愛着の形成において、この安全基地が必要不可欠となります。
安全基地とは、本人を守り、肯定し、安心感を与える存在です。代表的なのは母親でしょう。子どもが幼いうちは安全基地にぴったりとくっつき、やがて外界の探索をはじめ、危険を感じると安全基地のもとへ帰ってくる、そして危険が去ればまた探索します。安全基地の偉大さは、その人がそばにいなくても思い出すだけで心が落ち着き、新たなパワーがわいてくるという点です。
このような安全基地は母親に限りません。仮に母親が不安定な人であっても、父親が安定した人であれば子どもの安全基地となります。また両親がいなくても祖父母や、その他の年長者が安全基地となることもあります。
そして愛着形成において重要な安全基地となるには、条件があります。
安全基地の条件とは?
安定した愛着を形成する安全基地(例えば母親)は以下の特徴が高いことがわかっています。
- 子どもへの共感能力
- 子どもの求めていることを察する能力
- 子どもの欲求に速やかに応答する能力
- 自分自身の感情に流されない能力
- 子どもの主体性を尊重する能力
わかりやすく言うと、赤ちゃんが泣いているときに母親がすぐに抱き上げて、何を求めているのかあの手この手を尽くしている状態です。しかし、赤ちゃんだとなかなか正解を見つけ出すのは難しいですよね。それでもその子には、母親が自分に愛情をかけてくれていると伝わっています。
もし泣いていても放置していたり、感情的になって怒鳴ったりしては、たとえ母親が愛情を持っていたとしてもその母親を安全基地とは呼べません。
では今度は、もう少し年齢の上がった思春期の子を想定しましょう。
ある日、子どもが朝になって「学校へ行きたくない」と言い出したときを考えてみてください。
共感能力や洞察力が高ければ、子どもが何らかの問題を抱え苦しんでいることや、子どもの心が休息を求めていると感じて休ませるでしょう。子どもが話したくなさそうであれば無理に聞き出さず、子どもが話したがっているときには二人きりの時間を作る、そして共感し肯定しながら耳を傾けることができれば、子どもにとって安全基地となります。「お母さんは自分の話を否定せずに聞いてくれる」という安心感が必要なのです。
ところが上記にあげた能力が欠けていれば、
「何言ってんの! 馬鹿なこと言ってないで早く準備しなさい!」
「好きにすれば? 私は知らないから、自分で勝手にしたら」
「私だって仕事に行きたくないわよ!」
「お母さんとお父さんで問題を全部解決してあげるからね!」
と言って子どもを傷つけ、子どもの主体性をも奪ってしまうことになります。これでは、とても子どもにとっての安全基地とはなり得ません。
愛着がなぜ重要なのか?
愛着と安全基地の関係は分かったけど、なぜそれが重要なのでしょうか?
それは、どのような愛着を形成するかによって、精神面のみならず体の発達や健康にも影響するためです。そして、その子が幼いころに身につけた愛着は、パーソナリティの土台となり7~8割の人において生涯にわたって持続する、と言われています。
安定した愛着のもとであればオキシトシンが活性化されますが、反対に不安定でバランスが悪いと下記のような状態を示します。
- 親密な関係になると重荷に感じ逃げてしまう。
- 誰にでも尽くして利用される。
- 親密な相手の言動に敏感で、傷つきやすく怒りやすい。
- 献身的で優しいかと思えばすぐに怒る。
- 子ども時代、栄養状態や世話が行き届いていても、愛着が安定しているグループに比べて成長が遅い。
- 愛着が安定しているグループに比べて、成人後、病気にかかるリスクや離婚率が高い。
愛着の形成が子どものみならず、成人後の人生にまで影響することがお分かりいただけたでしょうか。それでは次に、その愛着が一体いつ形成されるのか、どのように形成されるのかについてお話します。
愛着形成の時期は?
愛着が形成される時期:生後6か月
何らかの事情で母親が不在になったり養育者が交代しても大きな混乱はありませんが、愛着の形成は始まっています。対人関係や社会性の発達に影響が出ると考えられています。
愛着が形成される時期:生後6か月~2歳
このころから子どもは母親を見分け、愛着形成にはこの時期が重要だとされています。人見知りが始まるのは、母親との愛着形成が始まっていることの証です。
この時期を過ぎてから養育者が交代すると、新しい養育者に馴染めない傾向があります。ただしもう二度と育めないかというと、そうではありません。
愛着が形成される時期:10代初め
子どものころに親との愛着が不安定なものであっても、その後の他者との関係において、愛着の形は変容します。先生、親戚、近所の大人、友達などが安全基地となる場合です。
例えば、家庭環境が不安定なもので親との愛着が形成されなかった、いわゆる「問題児」がいるとしましょう。その子の不安定な愛着が問題行動となって表れていましたが、学校の先生が安全基地になって向き合ってくれた途端に、1年とたたずに落ち着いたという事例があります。
愛着の形成のポイントやコツは?
では愛着形成のポイントやコツはあるのでしょうか?
主に妊娠、出産、授乳によって、母子ともにオキシトシンが分泌、受容されることで愛着が形成されます。しかし愛着形成は、これらの行為や血の繋がった母親であることに限りません。
行為を行う人は、子どもにとっての安全基地であることが1つ目のポイントです。安全基地にも条件がありましたよね。
そして2つ目のポイントは、子どもの求めに応じてスキンシップをすることです。昔は「抱っこばかりしていると弱い子になる」と言われた時代もありましたが、今は、子どもが求めた時にはたくさん抱っこして触れ合うことが大切とされています。
このようなポイントや安全基地の条件を満たしていれば、父親や新しい養育者が安全基地となり愛着を形成することができます。
特に男性は、子どもとのスキンシップによって「アルギニン・バソプレシン」という愛着に関係するホルモンが活発になり、家族を守ろうとする傾向が高まります。これもまた愛着を形成する上で重要なホルモンですが、仕事から帰ってきて子どもの寝顔を見るだけでは意味がないことも知っておきましょう。最近では育児に積極的な男性も増え、「授乳以外は父親でもできる」と発信していますね。
3歳児神話ってどうなの?
ここまでの話で注意していただきたいのは、いわゆる「3歳児神話」と安易に結びつけないことです。
確かに愛着の形成は2歳までが重要ではありますが、だからといって「3歳までは母親の手で育てる」ことが大正解というわけではありません。
それは次に紹介するエピソードからも明らかでしょう。下記に挙げるのは「キブツ」と言われるイスラエルの集団農場での実験的な試みです。
かつて、進歩的で合理的な考えの人たちが、子育てをもっと効率よく行う方法はないかと考えた。その結果、一人の母親が一人の子どもの面倒をみるのは無駄が多い、という結論に達した。それよりも、複数の親が時間を分担して、それぞれの子どもに公平に関われば、もっと効率が良いうえに、親に依存しない、自立した、もっと素晴らしい子どもが育つに違いないということになったのである。
(『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』電子書籍発行:2011年10月28日、著者:岡田尊司、発行所:株式会社光文社)
その「画期的な」方法は、さっそく実行に移された。ところが、何十年も経ってから、そうやって育った子どもたちには重大な欠陥が生じやすいことがわかった。彼らは親密な関係をもつことに消極的になったり、対人関係が不安定になりやすかったのである。さらにその子どもの世代になると、周囲に無関心で、何事にも無気力な傾向が目立つことに、多くの人が気づいた。
(中略)
ただし、同じようにキブツで育っても、夜は両親と水入らずで過ごしていた場合には、その悪影響はかなり小さくなることも明らかになった。
(太線強調は執筆者による。)
例えば乳幼児期に保育所に預けていたとしても、自宅にいる間に家族水入らずで温かな時間を過ごしていれば、子どもとの愛着は形成されるということです。
さらには厚生労働省からも「3歳児神話の根拠はなく、愛着の質が重要である」と発表されています。
1-5 三歳児神話には、少なくとも合理的な根拠は認められない。
(略)母親が育児に専念することは歴史的に見て普遍的なものでもないし、たいていの育児は父親(男性)によっても遂行可能である。(中略)欧米の研究でも、母子関係のみの強調は見直され、父親やその他の育児者などの役割にも目が向けられている。三歳児神話には、少なくとも合理的な根拠は認められない。1-6 大切なのは、子どもに注がれる愛情の質である。
もちろん、乳幼児期という人生の初期段階は、人間(他者)に対する基本的信頼感を形成する大事な時期であり、特定の者との間に「愛着」関係が発達することは大切である。しかし、この基本的信頼感は、乳幼児期に母親が常に子どもの側にいなければ形成されないというものではない。愛情をもって子育てする者の存在が必要なのであって、それは母親以外の者であることもあり得るし、母親を含む複数人であっても問題視すべきものではない。両親が親として子育て責任を果たしていく中で、保育所や地域社会などの支えも受けながら、多くの手と愛情の中で子どもを育むことができれば、それは母親が一人で孤立感の中で子育てするよりも子どもの健全発達にとって望ましい、ともいえよう。大切なのは育児者によって注がれる愛情の質なのである。
『厚生白書(平成10年版)』厚生労働省
(太線強調は執筆者による。)
子どもの4つの愛着パターンの紹介
それでは次に、子どもに見られる愛着のパターンについてご紹介します。なお、愛着とは10代初めまでに変化することから、この時期は「愛着パターン」と呼ばれます。
1.安定型
- 子どもが保護者から離されると泣いたり不安を示したりするが、過剰な反応ではなく、保護者が現れると素直に喜び甘える。
- ストレスを感じた時に適度な愛着行動(親密さを求める行動)を示す。
- 約6割の子どもがこのパターンを示す。
- 発達段階に応じて、探索活動の幅を広げる。危険や不安な時には母親のもとへ帰ってくる。
2.回避型
- 保護者から引き離されても再会しても無反応。
- ストレスを感じても愛着行動を起こさない。ストレスを感じていないわけではない。
- 児童養護施設で育った子どもに見られやすいが、親の関心や世話不足、愛情不足で放任された子にも見られる。
- 約1~2割の子どもがこのパターンを示す。
- 成長するにつれて反抗的や攻撃的な問題が見られる。
3.抵抗/両価型
- 保護者から引き離されると激しく泣いて過剰な不安を示す。
- 保護者と再会しても拒んで嫌がるが、一旦くっつくとなかなか離れない。
- 約1割の子どもの子どもがこのパターンを示す。
- 親が関心を向けてくれる時と無関心な時の差が大きい場合や、親が神経質で過干渉な場合が多い。
- このパターンの子は不安障害になるリスクが高い。
- いじめの被害にあいやすい。
4.混乱型
- 回避型と、抵抗/両価型が入り混じったタイプ。一貫性がなく無秩序。
- 無反応であったり、激しく泣いて怒ったり、攻撃を恐れたり、逆に親を攻撃したりする。
- 虐待を受けている子や、親の精神状態が不安定な場合に見られる。
- このパターンの子は境界性パーソナリティ障害になるリスクが高い。
大人の愛着スタイルの紹介
子ども時代の愛着パターンが10代初めからだんだんと固定化されると、今度は「愛着スタイル」と呼ばれます。このころに定着した愛着スタイルが、その後の人生へも影響を及ぼします。
1.安定型(自律型)
- 子ども時代に保護者と安定した愛着を持っていた。または、家庭や親との問題を乗り越えた。
- 人の反応を肯定的にとらえ前向きな姿勢である。
- 相手を信頼し尊敬している。主張すること=相手を否定すること、とは思わない。
- 人間関係も安定している。社会的地位や仕事への満足度が高い傾向にある。
- 仕事と趣味のバランスが良く、自身の健康管理も怠らない。
- 他のグループに比べて離婚のリスクも少ない。
- 大切な存在の喪失に対しても、悲しみや辛さを表現し、死を受け入れ、故人への愛着を保ちながら緩やかに新しい生活に馴染んでいく。
2.不安型(とらわれ型
- いつも相手の顔色を窺い「人に受け入れられているか、嫌われていないか」が重要である。
- 拒絶されたり見捨てられることを強く恐れている。
- 自分とは「取り柄のない愛される価値のない存在だ」とみなし、自己評価が低い。
- 必ずしも従属的なタイプばかりではなく、「相手が自分を裏切ろうとしているのではないか」と猜疑心から支配的なタイプにもなる。
- すぐに恋愛モードになり、親密になればなるほど境界線が曖昧になり依存してしまう。
- ストレスや苦痛や言葉に過敏である。
- ネガティブな感情にとらわれやすく、傷ついたと思うと怒りを長引かせやすい。その怒りが他者だけではなく自分にも向けられるので、うつにもなりやすい。
- 他人の機嫌を取るサービス精神が旺盛なことを活かせば、甘え上手で人に守ってもらいやすい。頼る相手を間違えなければ、自分より有力者の助力を得られる。
3.回避型(愛着軽視型)
- 親密さを重荷に感じて人と距離を置く。人に依存せず、依存されたくない。
- 仲間と過ごすことをネガティブにとらえる。人との葛藤や衝突も苦手で自ら身を引く。
- 反対に、葛藤を避けるために、短絡的に反応して攻撃的な言動に出ることもある。
- 本当につらい記憶は蓋をされ、本人も思い出せない。
- 仕事や勉強を重視する傾向があるが、打ち込んでいるというよりも逃げ場所として利用している。
- 気づかないうちにたまったストレスが身体的な症状となって表れる。
- 大切な存在の喪失に対して平然としているが、代わりに体の不調となって表れることが多い。何年もたって突然悲しみが湧き起こることもある。
- 感情に左右されないため、冷静で客観的な判断を求められる専門職に向いている。
4.恐れ・回避型
- 回避型と不安型が入り混じっている。
- 人と距離を置きたい半面、人の反応に敏感で見捨てられ不安が強い。
- 一人でいることは不安で仲良くしたいと思うが、親密になることにストレスも感じる。
- 人を信じたいが信じられないジレンマから、疑り深く被害的認知を起こしやすい。
- 不安型の人のように人に甘えることもできないが、回避型のように一人でも平然とはしていられない。
不安定な愛着が発達障害や精神疾患に関係する?
安定型の人はストレスに適切に対処する傾向が高いですが、不安定型愛着(回避型、不安型、恐れ・回避型)の人は、しばしば精神疾患や発達障害と関わっています。
不安定型の人は、子どものころから他者に否定的に扱われ
「反応が乏しくて可愛くない」
「問題行動ばかり起こす厄介者」
「親の言うことが聞けない」
などの烙印を押されがちです。そうした周囲の態度がより一層、子どもの心を傷つけ拍車をかけています。
発達障害と似た特徴を示す
例えば、回避型や不安型の愛着スタイルの人を見てみましょう。その人の愛着スタイルからきている表面的な症状を見れば、自閉症スペクトラムやその他の発達障害を疑われることがあります。特に子どもの時点では問題行動や落ち着きのなさから、注意欠陥多動性障害を疑われ、問題行動によっては何らかの診断名が付くこともあります。
不安定な愛着スタイル(愛着障害)が精神疾患と診断される
若年層において、「うつ病」「不安障害」「パニック障害」「双極性障害」「境界性パーソナリティ障害」など複数の診断名が付いている複雑なケースも、不安定な愛着スタイルがもとになり愛着障害が起きていることがあります。その場合、どれだけ大量の薬を使っても根本的な苦しさは取り除かれません。
必要なのは、傷ついた愛着に対する手当です。これを愛着アプローチと呼びます。
症状に注目し病気を治療しようとする医学モデルから、症状を引き起こしている愛着に注目する「愛着モデル」に基づいた対応に切り替えたことで、上記の特性や症状が緩和されるケースがあります。
次に愛着アプローチについてみていきましょう。
愛着アプローチによって愛着スタイルは改善される
愛着アプローチが注目するのは、表面的な症状ではありません。愛着アプローチにおいては、症状の改善を目標にするのではなく、愛着を安定させストレス耐性を高めることをゴールとしています。言い換えると「その人らしさ」の獲得を目指しているのです。
さて、これまで愛着が子どもの性格に少なからぬ影響を与えることと、その愛着は保護者や周囲の人間との関わり方の中で形成されることを見てきました。ここまでご覧になった方には、子どもが何らかの問題行動や症状を示したとしたら、それは子どもだけの問題ではないということがお分かりいただけるでしょう。
本当に問題があるのは、子どもと安定した愛着を形成できなかった環境にあります。この考え方は家族療法に通じるものがあり、家族療法において、このように症状や問題のある子どもを「問題を背負わされた患者(IP=identified patient)」と呼びます。
ただし家族療法との違いは、カウンセリングや面接の手法にあります。愛着アプローチでは1対1の関係が原則です。
愛着アプローチと家族療法との違いは?
家族療法は、家族を一つのシステムとしてみた時に生じている問題にアプローチしていきます。愛着を改善するという観点で言えば、こうした家族療法も有効です。家族療法において、支援者は家族を一堂に集めて面接をします。
しかし愛着アプローチにおいては、特に取り組みの前半段階において、本人と家族を別々に面接することが求められます。そもそも、愛着とは1対1で培われるものだからです。不安定な愛着を抱えている人にとって、三角関係のような複数の関係は疎外感や不安感を抱きやすくなります。
そこで、まずは本人と支援者が1対1で面接し、支援者が仮初の安全基地となります。支援者はその間に、ず家族とも1対1で面会し関係を作りましょう。家族もまた不安定な愛着を抱えている人々ですので、彼らにも安全基地が必要です。
十分な準備ができたら、次の段階として本人と家族が面会します。この時にも、家族療法のように支援者が家族の間に立つのではなく、支援者はあくまで立ち会うという形にとどめます。本人と家族で向き合う力をつけていくことが必要なのです。
愛着スタイルごとにアプローチが異なるので注意しよう
また、愛着スタイルごとにストレスへの対処や何に反応するのかが全く異なるため、アプローチする場合は注意しましょう。
不安型の愛着スタイルの人に対しては、相手の気持ちに共感することが大切です。不安定型の人は「本音を言いたいけど拒まれるのが怖い」という気持ちから、本音とは裏腹な行動をとることがあります。そこで支援者が「いい加減にしてよ」という感情を持つと、不安型の人は即座にその気持ちを感じ取るのです。
不安型の人には「どうしたの?」「嫌なことがあったの?」「言いたくても言えなかったんだね」「気づいてあげられなくてごめんね」といった、本人の気持ちを優先する姿勢が大事です。
回避型の人に関しては、逆に共感や感情に訴えられても無駄な時間としかとらえられません。回避型の人と安定した関係を持つ場合は、彼らのルールに従い余計な話をしないことが第一歩です。
例えば、回避型の人は自分の世界を大切にしています。もしも「カードゲーム」「漫画」などの趣味があるとしたら、その世界を彼らに教わる気持ちで接してみてください。そして相手の嫌がる話をしないことです。そうしたやり取りを繰り返すうちに、彼らにとって「この人は余計なことを言わない安心できる人だな」と感じてもらいやすくなります。そこから関係を作っていきましょう。
愛着スタイルを安定させて生きづらさを解消しよう
さて、生きづらさを感じている人の中には、機能不全家族や親子関係において傷つけられ、愛着が形成されず不安定な愛着スタイルを持った人がいます。
また母親自身が不安定な愛着スタイルを持っていると、子どもも不安定な愛着を持ち苦しむことになります。この時に、両親のどちらかが安定型であるか他の年長者が安全基地となれば、子どもは安定型の愛着スタイルを獲得し、その後の人生の歩み方も変わるのです。
これは子どもに限りません。もしも今、あなた自身が愛着に傷を抱えているのなら、今からでも愛着を安定化させることはできます。そのためには、まず安全基地を手に入れることです。これは家族やパートナーであることが理想的ですが、カウンセラーやメンター、コーチングのような第三者の力に頼ることも効果的です。ただし、そういった支援者とも相性があることを知っておきましょう。
そして安全基地を手に入れたら、今度はあなたが誰かの安全基地となることもできます。愛着の傷を乗り越えた人は、しばしば優れた支援者となって誰かの心を癒す能力を発揮するのです。
愛着アプローチの目的は、愛着を安定化させ、ストレス耐性を高め、その人本来の生き方を手に入れることです。あなた自身やあなたのそばにいる子どもが傷ついていても、これからの人生をあなたらしく、その人らしく生きていくことはできるのです。
愛着スタイル診断:外部サイト
最後におまけです。愛着スタイルは、成人愛着面接など臨床の場で用いられる診断方法もありますが、オンラインで簡単にチェックすることもできます。愛着障害について多数の図書を出版している、岡田尊司氏の書籍を元に作られた診断テストがあります。もし気になるようでしたら、一度受けてみると一つの目安になるでしょう。
「なんで自分は恋人に恵まれないのだろう? 自分は恋人に尽くしているのにいつも裏切られる」(不安型)
「どうしてあの人は結婚して子どもができた途端に冷たくなったんだろう?」(パートナーが回避型スタイル)
「人に頼りたいけど、どうしていいのかわからない」(恐れ・回避型)
と感じている人の行動には、もしかしたら愛着スタイルが関係しているかもしれません。
診断テストはこちら。『愛着スタイル診断テスト』
なお、執筆者は「恐れ・回避型(回避型スコアの方が高い)」という結果となりました。被虐待児ではありませんが、いわゆるちょっとした毒親育ちです。この傾向を知ることで、これまで性格だと思っていたものが本来の性格ではなく、これから変えていくことができると気づきました。結果に悲観的になることはありません。自分を知ることから、変わっていくのです。