子どもの貧困に対して教育ができることは? 「子どもの貧困」と「生きる力」について考える

お金と人

「子どもの貧困」という言葉を、知っているでしょうか。
読んで字のごとく、「貧困」の状態にある子どもたちを指します。

では、「貧困」状態の子どもたちがどれほどいるか、ご存知ですか。
日本に暮らす子どもの、約7人に1人と言われています。

「豊かな日本で、そんなに多くの子どもたちが『貧困』なはずがない」と思うかもしれません。しかしそれは「子どもの貧困」の意味を正しく理解していないからです。
「貧困」が子どもたちに与える影響、未来におよぼす問題には、まさに「今」対策が必要です。

一方で、教育の現場で重要視されている考え方があります。それが「生きる力」です。
「生きる力」を身につけることは、子どもを貧困から救うためにも、大きな意味を持つと思われます。
「子どもの貧困」、「生きる力」、どちらも私たち大人こそが、その中身を知っておかなければいけません。
本記事では、「子どもの貧困」の問題と、それに対し「生きる力」になにができるかについて、考えてみたいと思います。

子どもの貧困とは

木陰で休む少女

「貧困」というと、生活がままならない状態をイメージするかもしれません。しかし、「子どもの貧困」で論じられる貧困は、「相対的貧困」。衣食住がままならない「絶対的貧困」とは区別されます。

とはいえ、貧困であることには変わりはなく、それが子どもたちに与える影響も多方面で生じています。

「相対的貧困」

世帯の所得のうち、税金などをのぞいた、貯金や消費に使われる所得を、「可処分所得」と言います。

そしてその可処分所得を、世帯員数の平方根で割ったものが「等価可処分所得」。世帯員の生活水準を「実感覚に近い状態」で判断することができます。

この等価可処分所得の日本の中央値の、さらに半分以下の世帯が「相対的貧困」とされます。端的に言えば、日本の平均的な生活水準の、半分以下の生活水準の家庭を指します。

そして、そのような家庭で暮らす子どもたちがおよそ260万人。約7人に1人いるとされているのです。(2019年国民生活基礎調査の概況 厚生労働省)

日本の子どもの貧困問題は、現時点で多くの子どもたちが直面している問題なのです。

さらに日本の子どもの貧困率は、OECD加盟国で最悪の水準です。日本の大人たちはこの事実を認識しなくてはいけません。

子どもの貧困がもたらす影響とは

子どもの貧困が与える影響は多岐にわたります。例えば、経済的影響について考えてみましょう。

貧困の家庭だと「塾に通えない」「進学先が限られる」などの点から、貧困でない家庭と教育格差が生まれる可能性があります。そして教育格差は、最終学歴や、正規・非正規といった就業形態による所得格差につながり、ひいては生涯所得にまで影響をおよぼしかねません。

このように子どもの貧困は、これからの日本の経済損失に直接的に結びついてくる問題です。

「自分の身近な子どもが、貧困でなければいいや」などという問題でないことが、経済的影響からもわかると思います。

子どもの貧困の原因

子ども貧困はどうして起こっているのでしょうか。

その原因の一つは、貧困家庭の大人の所得が低いためです。例えば、ひとり親世帯の親の就業率はとても高いですが、非正規職であったり、ジェンダー格差から、所得水準が低い傾向が見られます。

所得水準が低い家庭や、事情により働けない家庭などへの社会保障制度も、外国と比べて日本が足りていない問題もあります。

2つ目の原因に、子どもたちが育ち、学ぶための費用がかかりすぎるという点があります。教育、住居、医療といった必要支出における私費負担が大きく、貧困を抜け出せない家庭が多く存在します。

小・中学生への就学援助制度や、高校等の生徒への高校生等奨学給付金などの公的な支援はあるものの、必要な家庭すべてにゆきわたるような状況にはいたっておらず、いまだ不十分な状況が続いています。

貧困が子どもの心に与える影響

貧困は、子どもたちの心にも影響を与えかねません。

経済的に厳しい家庭だと、塾や習い事など、ほかの子どもたちが経験するような機会を、我慢せざるを得ない状況が生まれます。社会的経験が欠如してしまう可能性があるのです。

もちろん、そのような経験が少ないことが、直接的に子どもの心まで貧しくするようなことはありません。貧しい家庭で育っても豊かな人間性を育んだ人たちはたくさん存在します。
そしてそのような子どもたちを、温かく育てた親がたくさんいるのも、紛れもない事実です。

しかし、子どもたちが「自分のせいでうちに負担をかけてしまっている」などと考えたらどうでしょうか。子どもたちの自己肯定感は失われ、生きる気力を失ってしまうかもしれません。

また親も人間。子どもを傷つけるような言動を、投げかけてしまうこともあるかもしれません。

しかし子どもも親も、貧困を理由にふさぎ込む必要はないはずです。

みんな希望を抱き、未来へ歩んで行ける社会を築くべきでしょう。そして、そのような姿勢が、結果的に貧困を減らすことにつながるのではないでしょうか。

その点で、教育のなすべき課題は大きいと言えます。

子どもたちに希望を与え、また子どもたち自身が、希望をみずから見つけられる力をいかに養うか。それは教育にかかっていると言っても過言ではありません。

そこで、着目したいのが、今日の教育現場において重要視される「生きる力」です。

「生きる力」について

補助輪付き自転車を漕ぐ少年とそれを支える兄弟

「生きる力」は現代を生きる子どもたちが、もっとも身につけるべき「力」です。学校教育に限らず、すべての大人が、子どもたちに「生きる力」を与える姿勢が必要だと言えます。

その概要について見てみましょう。

生きる力とは

生きる力は21世紀を間近にひかえた1996年に提唱されました。

社会がどんなに変化しても、自分で課題を見つけ、自分で学び、考え、判断し、問題を解決していく能力が、「生きる力」の本質です。

2020年度より小学校から順次スタートした、新しい学習指導要領の中でも、生きる力は最重要事項として位置づけられています。

生きる力が大切にするもの

「生きる力」で重要とされるのは知、徳、体をバランスよくはぐくむことです。

知は「確かな学力」。基礎的な学力を身に着け、自分から課題を発見する。そして自分の力で学び、自分で判断をして行動する能力を指します。

徳は「豊かな人間性」。自分自身を律して、他人を思いやり、協力し、物事に感動する豊かな心を養っていくことです。

体は「健康・体力」。たくましく生きていくために必要な、健康と体力です。

これら、知、徳、体を高め、「生きる力」を養うことは、貧困問題に対しても、大きな意味を持つと考えます。

子どもの貧困に対して、「生きる力」になにができるか

公園で楽しむ親子

ここからは「生きる力」を育むことが、「子どもの貧困」に対してなにができるのか、を考えてみたいと思います。

「生きる力」を身につけることは、貧困の中にある子どもにとっても、希望を得るきっかけになるのではないでしょうか。

「生きる力」は学ぶ姿勢を育てる

「生きる力」が提唱された背景には、混迷する社会があります。

IT化やグローバル化など、社会構造がめまぐるしく、そして根本から変化していく社会の中で、これまでの規範や価値観、生き方は、モデルとしての役割を失いつつあります。

そのような社会の中で、子どもたちは、自分で学び、自分で考え、自分で歩んでいく力を身につける必要があります。誰かが与えてくれた方法や、価値観ではなく、自分で希望を見出し、歩んでいく力が必要なのです。

「生きる力」は子どもたちに自信を与える

この「生きる力」の考え方は、貧困の中にある子どもたちが、希望をつかむきっかけにもなります。

貧困の子どもたちが抱きがちな「将来への希望がなく、学ぶ意欲をなくしてしまった」「モデルとなる大人がおらず、どこを目指したらよいのかわからない」といった思い。

そのような状態から、一歩抜け出すための力として、「生きる力」は大きな意味を成すのではないでしょうか。

「生きる力」を育てていく過程で、「貧困などに負けずに、希望をさがしていこう」と大人が働きかけることは、子どもたちの自己肯定感を、大いに回復させると考えます。

「子どもの貧困」解決のために、大人が「生きる力」の大切さを知ろう

手をつなぐ親子の後ろ姿

本記事では、「子どもの貧困」の問題に対し、「生きる力」になにができるのかを考えてきました。

「生きる力」は自ら希望を見つけ出す教育と言えます。そしてそれは貧困の中にある子どもたちにとっても、未来を切り開く勇気を与えるものではないでしょうか。

私たち大人は「子どもの貧困」が抱える問題を正しく認識しなければいけません。そして希望につながる「生きる力」を、子どもたちに授ける使命を担っているのです。

参考文献:
日本の子どもの貧困|セーブ・ザ・チルドレン
子どもの貧困対策|日本財団
子供の未来応援国民運動|内閣府政策統括官(政策調整担当)子どもの貧困対策担当