「生きる力」とは。学習指導要領で「生きる力」が大切にしていること

子どもと吹き出し

子どもたちの教育を考えるとき、頻繁に耳にする「生きる力」。常套句のように扱われますが、その中身について、私たち大人は正しく理解しているでしょうか。

英語やプログラミングなど、実用的な知識が生きる力?
厳しい競争社会のなかで、勝ち抜いていく能力が生きる力?

なんとなくの理解では、本当の生きる力を、子どもたちに示すことはできません。

本記事では生きる力が論じられる背景やねらいについて、「生きる力が大切にしていること」をテーマに解説していきます。

子どもたちが生きる力を身に着けるには、まず大人が正しい理解を持つことが重要です。ぜひ正しい認識を持ち、子どもたちの生きる力を、後押ししてあげたいものです。

生きる力とは

子どものかけっこ

そもそも生きる力という言葉は、どこから生まれ、なにを指しているのでしょうか。

学習指導要領が重要視する生きる力

生きる力という言葉は、最近になって生まれたものではありません。1996年に当時の文部省、現在の文部科学省が、21世紀を展望した教育の在り方として、生きる力の重要性を述べています。

要約すると、社会がどんなに変化しても、自分で課題を見つけ、自分で学び、考え、判断し、問題を解決していく能力。それが生きる力です。

それ以来、学校の教育課程(カリキュラム)の基準である「学習指導要領」において、生きる力は、子どもたちが身に着けるべき目標として、重要な位置づけをされるようになりました。

なお、学習指導要領はおよそ10年に一度改定され、2020年度小学校から順次、新しい学習指導要領に沿った学習がスタートしています。この新しい学習指導要領の中でも、生きる力は最重要視され、そしてさらに「進化」を目指すものとされました。

知、徳、体をバランスよくはぐくむ

生きる力を身に着けるにあたり、重要とされるのは知、徳、体をバランスよくはぐくむことです。それぞれ見ていきましょう。

知は「確かな学力」。基礎的な学力をしっかり身に着け、自分から課題を見つける。そして自分の力で学び、自分で判断をして行動する能力を指します。

徳は「豊かな人間性」。自分自身を律して、他人を思いやり、協力し、物事に感動する豊かな心を養っていくことです。

体は「健康・体力」。たくましく生きていくために必要な、健康と体力です。

知、徳、体。これらを調和的にはぐくむことが、生きる力を身に着けることにつながるのです。

このように生きる力は、実用的なビジネススキルを身に着けるような、薄い内容ではないということが分かると思います。

なぜ生きる力が大切なのか

生きるひらめき

そもそも、なぜ日本では、生きる力がこんなにも大切だと考えられているのでしょうか。その背景や、今の日本教育の抱える課題について解説します。

生きる力が重視される背景

はじめに生きる力が論じられて以来、グローバル化、IT、AI、あらゆる業務の自動化、スマホの普及等々、その進化は目まぐるしく世界を変化させています。いまやそれらは、未来のことではなく、子どもたちにとって現実的な日常として存在するものとなりました。

今を生きる子どもたちに、これからの社会がどう変化していくか、明確に示すことは、大人ですらできません。もし示せることがあるとすれば、社会はこれからも急速に変化をしていくであろうということだけです。

そんな予測困難な社会の中で、子どもたちが身に着けるべきは、自分で考え、自分で学び、自分の力で行動する力。まさに生きる力になるのです。

生きる力が求められる現状

自分の力で考え、学び、行動する。そのような生きる力が求められる世界の中で、今の日本の子どもたちには一つの傾向があります。それは、情報を見つけ出すことには長けていても、数ある情報の関係性を解釈したり、自分の知識や経験と結びつける能力に乏しいことです。

このような思考力・判断力・表現力等の不足は、日本の子どもたちの現状課題と言えます。

思考力・判断力・表現力の向上を大切にする

生きる力を身に着けるには、自分で物事の課題を見出し行動するための、思考力・判断力・表現力の向上が欠かせません。学校でのあらゆる学習にも、そのような姿勢が重要視されます。

先生が言うことを暗記するだけの「つめこみ教育」ではなく、主体的に考える能力が大切です。

国語であれば、自分の思いや経験を言語化し、相手に伝えられることを重視します。
算数であれば数字を通して、自身の考えや物事を、表現していくような姿勢が求められます。

英語をはじめとした外国語学習は、以前から重要と言われていましたが、これからは語学の技術を学ぶというよりも、自分からアイディアを発信していく能力を磨かなくてはなりません。

私たちを取り巻くあらゆるシステムも、「プログラミング」を学び成り立ちを把握し、自ら動かすものという実感が必要です。

このように、学校教育の全般において、子どもの思考力・判断力・表現力の向上を意図し、子どもたちに生きる力が備わることを念頭に置いておかなければいけません。

学校だけでなく保護者や地域の協力も大切にする

笑顔の男の子と女の子、協力

もうひとつ、子どもが生きる力を身に着けるにあたり、重要な要素があります。それが学校での教育だけでなく、保護者や地域の協力も必要とする点です。

社会に開かれた教育課程

生きる力を大切にする、新しい学習が目指すのは、「社会に開かれた教育課程」です。子どもたちの生きる力をはぐくむには、学校での学びや経験を、家庭や日常生活で「活かすこと」が大切です。

保護者は子どもたちに学校での学びについて働きかけ、対話し、成長・進化を促す役割を担います。

そうすることで子どもたちは生きる力を学ぶだけでなく、培い、真の力として身に着けていきます。その過程での、保護者や地域との連携は、これまで以上に重要になってくるのです。

保護者の働きかけと子どもの学力の関係

文部科学省が新しい学習指導要領の理解を深めるため作成したリーフレットには、保護者による働きかけがある子どもは学力が高い、という傾向について綴られています。

学校や友だち、地域のことについて家庭で会話をすること。地域や社会に貢献することの大切さを重視すること。あるいはゲームやスマホのルールを決めるなど、親子の対話の重要性が記されています。

子どもが生きる力を身に着けるには、学校で学び、知識を蓄えるだけでは実践にいたりません。保護者の確かな理解と、働きかけが不可欠です。

子どもの生きる力は、大人の確かな理解から

かけっこ足の画像

本記事では、学習指導要領にて重要視される「生きる力」について、その概要や背景、課題について解説してきました。

現在子どもたちの学校教育は、岐路に立ちつつあると言えます。

これまでの、先生が言ったことを、子どもが覚えるという一方通行の教育ではなく、子ども自身が自ら考え、判断し、構想していく姿勢と能力が求められています。

それを象徴的に表す言葉が、「生きる力」と言えるでしょう。

しかし子どもの生きる力を磨くには、大人の教育への姿勢も重要です。

生きる力が何を示しているのかしっかりと理解し、社会的背景もかんがみたうえで、私たち自身がこれまでの価値観や考え方に固執せず、柔軟な思考を持つことが求められるのではないでしょうか。

とはいえ、それは決して難しいことではありません。
子どもたちに、学校で何を学んだか話しかけ、思いを引き出し、認め賞賛し、時には考える機会を与える。愛情を注ぎ、背中を押し、たまに激励する。

そういった働きかけが、子どもの学びを身になるものとし、本当の生きる力を育てるのではないかと考えます。

子どもの生きる力を育てるため、まずは私たち大人が、「生きる力」をしっかりと理解することが重要になるでしょう。