「子どもが言うことを聞いてくれなくてイライラする」
「子育てに疲れてしまって自分の時間が取れない」
「周囲に理解者がいなくて孤独感を感じる」
子育てには、さまざまなストレスがつきまといます。その対処法としていろいろな方法が聞かれますが、どれもしっくりこないという親も少なくないことでしょう。
そのようなときに、提案したいのが「親へのコーチング」です。コーチングはビジネスやスポーツなどの場で導入されていますが、子育てのストレスで悩む親にも良い効果が見込めるものです。
それはもしかしたら、親自身が自分の心も見つめていないからかもしれません。自分が自分を理解していないのに、外から与えられた対策だけ講じても、根本的な解決にはなりません。
本記事では親が子育てに抱えるストレスと、そこで弱ったメンタルに「親へのコーチング」がどのような良い効果を与えるかについて、考察していきます。
子育てに悩む親御さんはもちろん、これからの教育の在り方について考えている方も、ぜひ参考にしていただければと思います。
親が子育てに抱えているストレスとは
親が子育ての過程で抱えてしまうストレスは、いったいどういったものでしょうか。まずはそこに共通する思いを観察し、コーチングにどのようなアプローチができるか、見ていきたいと思います。
親が自分に向き合う時間がない
子育てを行っていると、生活はどうしても子ども中心になります。大人は自分のやりたいことや、自分の思いを後回しにして、子ども優先での行動をとることが多くなるでしょう。
仕事と子育てを両立している親は、子どもが風邪を引いたりすれば周囲に頭を下げて、子どもの体調を最優先に行動せざるを得なくなります。
そのような生活を送っているうちに、ふと「どうして自分がこんなに大変な思いをしなければならないのか」とイライラしてしまうこともあるでしょう。それと同時に、大切な子どもを憎らしく思ってしまう自分を嫌悪してしまうこともあります。
自分が本当に望んでいることは何なのか。自分はいったいどうすればイライラを抑えられるのかなどを冷静に考えられずに、ただイライラした気分に振り回されてしまうことも少なくありません。
子どもが言うことを聞いてくれない
「何度叱っても子どもに成長が感じられない」
「泣いたり反抗したりするばかりで、自分の言葉が届かない」
「子育てが簡単じゃないことぐらいわかってはいるけれど、どうしても子どもの振る舞いや態度にイライラしてしまう」
このように、言うことを聞かない子どもに悩む親は大勢いることでしょう。
それなのに、「他の子どもはしっかり言うことを聞いている」「うちの子が良い子に育たないのは、自分の育て方に原因があるの?」などと、自分を責めてしまうこともあります。
子育てに孤独感を感じる
特に母親が抱えてしまいがちなのが、子育てに関する孤独感です。パートナーや周囲の協力を得られないように感じ、自身の殻に閉じこもってしまうことがあります。
「周囲は子どもの可愛い面ばかりを見ていて余裕があるけど、自分は言うことを聞かない子どもにも向き合わなければいけない」「辛いのを我慢して、子どものために尽くすのは母親の当然の務めだ」などと一人で抱え込み、弱音を吐くことは母親失格だと思い込んでしまうこともあります。
自分の辛さを周囲に相談したり、誰かに助けを求めたりするのは恥ずかしいことだと思っているうちに、孤独感をますますつのらせてしまいます。
このように子育てをしている親は、子どものこと、周囲のこと、そして自分自身のことで、多くのストレスを抱えてしまいがちです。
コーチングがメンタルに与える良い効果とは?
そこで提案したいのが「親へのコーチング」です。
まずは、コーチングを行うことで、受け手(クライアント)のメンタルにどのような効果が見込めるのか、コーチングの特性に着目しながら、考察してみましょう。
自分のメンタルの状態を理解できる
コーチングにおいてコーチは、クライアントに対して何か指導を行ったり、効果的なアドバイスをしたりすることはありません。「こうすればメンタルを回復できる」といったノウハウを伝授するようなことは、コーチングでは行いません。
その代わりにコーチは、クライアントに対し問いかけを行い、クライアント自身が自分の思いを語ることを促します。はじめのうちはクライアントも、自分の思いを言葉にすることに抵抗を感じ、うまく言い表せないこともあります。
しかしコーチはその言葉を傾聴し、思いを確認、整理し、さらに問いかけを行い、思いを引き出していきます。そのうちにクライアント自身が、自分が何を考えていて、何を望んでいるか。何を恐れていて、どうしたらそれを克服できるかなどを、自覚できるようになります。
そのようにして、クライアントは自分で自分のメンタルの状態がどうなっているか、気付くことができます。漠然と感じていたイライラや不安の原因が、どのようなものだったのかが、はっきりとしてきます。
ストレスの対処法に目を向けることができる
コーチングでクライアントは、自分の問題を発見すると同時に、それを解決するための方法を、自分で見つけていくこととなります。
漠然と感じていた怒りに無条件に反応してしまっていた状態から、怒りの正体がわかることで、そこへの現実的な対処法や、向き合い方が鮮明になってきます。
イライラに振り回されていても、結局事態は悪化するばかりで何も良いことはない。そうではなくて、イライラするのは仕方ないにしても、その原因になっている問題を、現実的な方法で改善していく方が良い、という建設的な考えを抱けるようになります。
自己肯定感が高まる
コーチングを行ううえで、コーチが持つべき「コーチングマインド」は、問題を抱えるクライアント自身の中に答えはすべてある、と信じることです。
クライアントの中に、目指すべき姿はすでにあって、それを叶えるための方策も知っている。コーチの役割はそれを引き出すこと、というスタンスです。
そのためコーチはクライアントを全肯定します。それは褒めて気持ちを高ぶらせたり、叱咤激励して鼓舞したり、というものではありません。
クライアントを褒めも、叱りもせず、思いを引き出しているうちに、クライアント自身が自分の問題に気付き、解決策を自覚していきます。
その過程でクライアントは「自分には自分の状況を良くしていく潜在的な力がある」と感じ、自分の存在を認められるようになります。そうして自己肯定感が高まっていきます。
親へのコーチングが子育てのストレスに与える効果とは
それでは、「親へのコーチング」によって、子育てのストレスに対する親の気持ちに、どういった変化が起こるか、考察していきましょう。
コーチングは外的な力で、劇的に状況を変える妙薬ではありません。しかし、ストレスやイライラへの向き合い方、考え方に根本的な変化を生じさせます。
親が自分の状態に気付くことができる
親へのコーチングを通して、親は自分が何にストレスを感じているのかを見つめることとなります。それまで反射的に感じていたストレスを見つめて「ストレスの要因(ストレッサー)は何か」「それにどんな風に感じたのか」を冷静に考える機会を得ます。
そうすれば「大切に感じていたことが、子育ての忙しさでできなくなって、自分は怒りを感じていたんだ」と気づき、「子どもを大切に思うからこそ、自分も大切にして、すっきりした気分で子育てにあたろう」と建設的に考えられるようになるかもしれません。
「そのためには休む時は罪悪感など抱かず、全力で休もう」「自分の英気を養うために、時には家族を本気で頼ろう」などと、心境が変化することもあるでしょう。
子育てへの考え方が整理できる
子どもが言うことを聞かないと、それは親である自分自身の問題だと、自分を責めてしまうことがあります。あるいは他人の子と自分の子を比べて、自身の子育てのいたらなさを感じてしまうことも。
しかしそのような負の感情を抱え続けていると、子どもに過干渉になったり、逆に子育てに無気力になったり、子どもとの適切な距離感を見失ってしまう可能性があります。
しかし、コーチングを受け冷静に考えてみると、自分が感じていた負の感情が、勝手に作り出した理想や「こうでなくてはならない」という強迫的な思いに縛られていただけだと気付くこともあります。
そうなれば「『うまくいって当然』という理想は捨てよう」「他人の真似はできない分、自分は子どもをこんな風に愛そう」などと、前向きな気持ちが抱けるかもしれません。
親が自分を肯定できるようになる
コーチングはクライアントの存在そのものを肯定し、クライアント自身から答えを導き出す活動です。そのため「親へのコーチング」の場合、親は全肯定されることとなります。
子育てに孤独感を感じている親も、協力してくれない「他人」ではなく、自分自身から答えを出さなければいけません。
そうなれば「子育ての協力を得られない苦しい自分」に閉じこもるのではなく、「なんとか協力を得られないか、ダメもとで家族に相談してみよう」「辛いときは子どものためにプロの手を借りよう」など、打開策が思い当たるかもしれません。
孤独感の殻に閉じこもり、ネガティブな感情で子育てに向かうのではなく、自分を変えられるのは自分だけという意志のもと、親自身の自己肯定感を高めながら、改善策を模索するポジティブな姿勢が生まれる可能性があります。
コーチングを通して親のメンタルを改善しよう
本記事では親が子育てに感じてしまうストレスの内容や、「親へのコーチング」がそれにどのような改善をもたらすのか、について考察してきました。
ストレスやイライラは、どうしようもない外的要因に無条件に反応してしまい、その解決策がすべて外的要因次第になってしまう、といった状況です。
しかしコーチングが求めるのは、外の状況はそれはそれとして、自分の目指すもの、乗り越えるべき課題、解決する方法を、自身の内側から導き出す姿勢です。
親は子育てを行う過程で、言うことを聞かない子どもや、子育てに協力してくれない家族、そしてそれに無意識的に反応している自分にストレスを感じるものです。親へのコーチングでは、そんな親のストレスの原因を明確にし、能動的に解決にあたる姿勢を引き出します。
能動的な姿勢は、まさにこれからの子育てで、子どもたちに身につけてほしい姿です。そのためにまずは大人が、そのような姿勢を身につけたいものです。
ぜひそれを引き出すコーチングの意義を多くの大人が理解し、子育てなどさまざまな現場で活かされることを願っています。