ビジネスやスポーツで導入されることの多いコーチングを、子育てに活かそうという動きが広がっています。コーチングは、受け手自身の中にある力を引き出し、人々に活力を与えるもの。教育の分野でも大いに活用が可能です。
ただし子育てにコーチングを取り入れる場合、親から子へ行われるものが多く、親が対象となることはほとんどありません。
しかし子育ての主役は、子どもであると同時に親でもあります。コーチングを子どもではなく親が受けることにも、たくさんのメリットが見い出せるのです。
本記事では、親へのコーチングにどのようなメリットがあるか、さまざまな角度から考察してみたいと思います。親へのコーチングについて知ることで、これまでの子育てにはなかった新しい視点が、きっと見つかるはずです。
親へのコーチングとは
まずは親を対象としたコーチングがどのようなものなのか、コーチングの意義を含めて解説します。
子育てでもっとも苦労を経験するのは親と言ってよいでしょう。コーチングはそのような親たちに対しても、大きな効果をもたらします。
親子コーチングとは異なる
「親子コーチング」という言葉がよく聞かれます。親子コーチングは、親が子どもへ一方的に指導を行うのではなく、子どもの思いを引き出す姿勢で行われます。
そもそもコーチングは、人々の成長のカギをそれぞれの内側に求めるもの。目標達成や問題解決の答えは個々がすでに持っている、というマインドで行われます。コーチはいくつかの手法を通して、本人が秘めている力を引き出す役割を担います。
子どもを対象とする場合、子どもに質問をし、子どもの言葉を傾聴します。親はそれを叱ったり褒めたりせず、判断を加えずに新たな問いかけを行います。そういったやり取りを通して子どもは自らの考えについて思いを巡らすようになります。
自分の意志で思考し、発言することで、子どもの自主性が養われます。それと同時に「自分は無条件で存在・思考を認められている」という、自己肯定感が育っていきます。
親を対象としたコーチングも同じようなアプローチで行われますが、対象は子どもではありません。子育てを「行う」親が、コーチングを受けるのです。
子どもへは直接コーチングを行わない
親へのコーチングでは、子どもへ直接コーチングを行うことはしません。プロのコーチが親を対象とし、コーチングを実施します。
とはいえその場合の、コーチの親への態度は、子どもを対象としたものとさほど変わりません。親が子育てに対して思っていること、子育てで目指したいゴールなどを、自分の言葉で表現していきます。
そのうちに、子育てに対して無意識に抱いている願望や悩み、問題などが鮮明になっていき、親はそれを自覚するようになります。
自分の考えや思考のクセは、自身のものでありながら気づくのが難しいものです。コーチングではそのような内なる声を「視える化」し、思いがけず抱いていた錯覚や、自覚できないでいた希望などを引き出していきます。
親へのコーチングで子育てはこう変わる
それでは親へのコーチングは、子育てにどんな効果を与えるでしょうか。
ここからは親だけでなく、子ども、ひいては社会との関係において、親へのコーチングにどんなメリットが期待できるか、考察していきます。
親自身が自分の個性を知ることができる
子育てはどうしても子どもばかりが中心となり、親自身の個性は軽視されがちです。しかし当たり前ですが、親にも個性があります。
自分の考え方のクセや、物事の捉え方の傾向を知ることで、子どもへの向き合い方、子育ての考え方が、以前より自由になるでしょう。
発想が豊かになり、困難に直面した際も、解決策や打開策が柔軟に考えられるようになります。
子育てへの向き合い方が変わる
子育てを行っていると、意識しない間にも親の中に「子育てはこうでなければいけない」という発想が固着化していきます。
「子どもは〇歳までに、これができないといけない」「親は子どもに対して、こう指導しなければいけない」。そのような思いにとらわれていると、それが思うように叶わなかった際に、大きなストレスになります。
その点コーチングは「こうでなければいけない」と指導することはありません。親は自分が抱いていた考えの偏りを客観視でき、自分が作り出していたルールに縛られることがなくなります。
子育てに関する知恵を得ることができる
親へのコーチングでは、コーチが親へ知識や考え方を伝授することもあります。普段は考えが及ばなかったような発想でも、コーチングを経験した素直な心で聞けば、大人はしっかり理解できるでしょう。
そのような経験を通して、子育てに関する正しい知恵を身につけていくことができます。
子どもの主体性が育つ
親へのコーチングは、結果的に子どもにも良い影響を与えます。親が正しいコーチングマインドを身につけ子どもに接すれば、子ども自身の発想を重要視できるようになるでしょう。
それを尊重していくうちに、子どもは自信をもって、自らの考えや行動を決定できるようになります。
子どもの主体性を正しく育てるために、まず親がコーチングを体感することが大切です。
子どもの個性を伸ばせる
子どもの個性を育てることは、子育てにおいて強調されることが多いです。しかし、誰かに強制されて伸ばす個性は、健全な個性と言えません。
「褒められることをやる」「怒られることをやらない」のではなく、物事の良し悪しについても自分で判断し、良いと思う考え・行動を起こす。
子どもが正しいコーチングを受けていれば、このように自らを伸ばしていけるようになります。そういった成長こそ、個性を伸ばすということではないでしょうか。
子ども思いやりの心が養われる
親が子どもへ正しいコーチングの姿勢で接すれば、子どもも周囲に同じようにふるまうようになるでしょう。自分の考え方を押し付けたり、一方的な価値基準で優劣をつけたりすることがなくなり、思いやりを持って他人へ接することができるようになります。
確固たる自分の考えを持ちつつも、他人の考えも尊重する。そのような態度がコーチングでは養われます。
これからの社会を生きる力が身につく
教育の分野では、これからの子どもに重要なのは「生きる力」だとされます。予測できない未来、多様化する価値観の中で、自分の考えをしっかり持ち、自分で目標を定め、自分で困難を切り開いていく力が求められています。
そのような考え方を身につけるために、コーチングは大きな力を発揮します。そのためにはまず、親が正しいコーチングについて知る必要があります。
社会における子育てのあり方が変わる
親も子も、コーチングを受けて自身で物事を判断する姿勢を持てば、世の中の子育てのあり方自体が変わっていくでしょう。
自由な発想に基づく「生きる力」が重要視される今、子育てにおいてもコーチング的姿勢が求められます。そのためにまずは、親がコーチングを知り、大人が変わることが何より大切です。
親へのコーチングは親・子・社会を変える
この記事では、親へのコーチングがどのようなもので、どんなメリットがあるのかについて解説してきました。
子どもへのコーチングはとても大切です。しかし、そのコーチングを行う親が、まず変わる必要があります。親へのコーチングが広がれば、親自身、子ども、そして社会における子育てのあり方自体が変わっていきます。
人々が思いやりで満ち溢れ、それぞれが活力を得て生きていける社会へ、親へのコーチングは大きな力を発揮するでしょう。