「発達障害の子には、感覚過敏がある」という特徴は、多くの人が聞いたことがありますよね。
しかし具体的に、感覚刺激の受け取り方に偏りがあるというのはどんな状態なのか、よくわかりませんよね。
この記事では、そもそも人間が感じる7つの感覚刺激についての解説や、具体的にどう対処すればいいのか解説します。
感覚刺激とは
人が受け取る感覚刺激には7つ種類があると言われています。
- 前庭感覚
- 視覚
- 聴覚
- 嗅覚
- 味覚
- 触覚
- 固有受容覚
それぞれについて解説します。
前庭感覚
動きを感じる感覚です。
例えば、ぐるぐる回るときやスピードを出したときに感じる感覚です。
前庭感覚を他の子より感じやすい子は、足元が不安定な場所を怖がったり、ブランコ、ジェットコースター、滑り台などを怖がったりします。
逆に前庭感覚を感じにくく、前庭感覚が好きな子はブランコやジェットコースターなどを好んだり、自分でぐるぐる回ったりします。
また、換気扇やタイヤなど回るものを見ることでも前庭感覚が入ると言われており、くるくる回るものを見るのが好きな子は前庭感覚を好む傾向があります。
視覚
ものを見るときの感覚です。
視覚情報を感じやすい子は、掲示物がたくさん貼ってある教室や大勢の子がいる教室では刺激が多く落ち着かない、電気が常に消えかけのときのようにちかちかして見える、などの訴えをすることがあります。
そのため、暗いところを好んだり、急に暗いところから明るい部屋に行くと異常にまぶしいと訴えるなどの特徴があります。
聴覚
音を聞くときの感覚です。
聴覚を感じやすい子は、特定の家電製品の音を怖がったり、トイレの手を乾かす機械の音を怖がったりします。
また、ざわざわとしている環境ではどこに耳を傾けていいかわからず、うるさい教室の中で先生が指示を出しても指示が通りにくい特徴があります。
聴覚は感情と繋がっていると言われているため、聴覚過敏の子は普通よりストレスが多く、イライラしやすい特徴があります。
嗅覚
においを感じるときの感覚です。
嗅覚が敏感だと、食べ物の好き嫌いが多かったり、さまざまな匂いの混ざった空間で気持ち悪くなったり不快な思いをすることがあります。
味覚
味を感じるときの感覚です。
偏食があるお子さんは、味覚が他の人より敏感な可能性があります。
また、味覚だけではなく嗅覚、触覚、視覚なども敏感だとより偏食を起こしやすいです。
見た目が嫌、匂いが嫌、口に入った時の食感が嫌、味が嫌、などさまざまな原因で食べ物の好き嫌いは起こります。
偏食は決してわがままではないと理解するのが大切です。
触覚
触られたときに感じる感覚です。
触覚が敏感なお子さんは、異常にくすぐったがる、近くに人がいると落ち着かない、粘土や泥遊びを嫌がるなどの特徴を持ちます。
また、逆に触覚を感じにくいお子さんは、怪我をしてても気付かないことがあります。
たまに骨折していても気付かないお子さんもいるため、周りが注意して観察することが大切です。
固有受容覚
骨や筋肉が「動いた」と感じる感覚です。
固有受容覚を感じにくいお子さんは、私たちが少し動かしただけで「動いた」とわかる感覚を感じ取れないため、身体の動きが大きくなったり不器用に見えたりします。
一見友達に対して乱暴に見えるお子さんは、ひょっとするとそのくらい強く友達の肩を叩かないと、自分の身体が動いていると認識できていないのかもしれません。
また、動物や物などを乱暴に扱っているように見えるお子さんも、この固有受容覚を感じにくい可能性があります。
感覚刺激の偏りに対する具体的な対処法
では感覚刺激の受け取り方に偏りがある場合、どのような対処方法があるのでしょうか。
感覚刺激の受け取り方に偏りがあるお子さんは、一見敏感に見えても鈍感さも兼ね備えていることがあり、その凸凹に困っている場合が多いです。
周囲はお子さんの様子をよく観察し、適切に評価したうえで対応する必要があります。
全ての状態を解説するのは難しいため、一例を挙げつつ対処法を解説します。
前庭感覚
前庭感覚を感じ取りやすく、ブランコや滑り台などを異常に怖がるお子さんに、無理やりやらせるのはよくありません。
無理やりやらせるのはただ恐怖心を植え付けるだけなので、本人が「これなら安心してできる」という状態で取り組めるようにしましょう。
具体的には一緒にやってみる、本人が怖がらない程度に揺らすなどから始めると受け入れやすいです。
また、椅子に座るときに姿勢が崩れやすいお子さんはこの前庭感覚の受け取り方に偏りがある場合があります。
決して本人はふざけているわけではないので、怒らないことが重要です。
姿勢を保ちやすいよう机やいすの高さを調節する、姿勢が崩れていてもいいことにするなどの対応をしましょう。
特に発達障害を持つお子さんは同時総合機能の障害と言う「2つのことを一度に同時にするのが苦手」という特徴を持ちます。
そのため、姿勢を保つことに集中すると先生の話に注意を向けられない特徴があります。
話しを聞いているのであれば姿勢が崩れていても注意する必要はありません。
視覚
視覚情報を受け取りやすいお子さんは、教室に掲示物がたくさんあるとどこに注意を向けていいかわからず集中できません。
教室に貼る掲示物は極力減らすことが大切です。
また、教室では後ろの席だと大勢の子が目に入り、視覚情報が多すぎて混乱することがあります。
なるべく前の方の席にするなどの配慮があると、集中しやすいです。
聴覚
聴覚が敏感なお子さんは日々大きなストレスを感じています。
嫌な音は、「ずっと聞いていれば慣れる」ものではありません。
黒板を爪でひっかく音が苦手、大きい声が苦手という人にずっと聞かせ続けたら慣れるどころかイライラは強くなるばかりです。
そのため、嫌いな音はなるべく避けてあげることが大切です。
あまりにもストレスになってしまう場合は、イヤーマフや耳栓などの道具を使うことも考慮すると良いでしょう。
嗅覚
匂いに敏感なお子さんは、偏食や好き嫌いに繋がりやすいです。
偏食や好き嫌いは決してわがままではありません。
感覚レベルで嫌なものを無理に食べさせると、ひどい場合は戻してしまうことも。
感覚刺激の受け取り方は一生のうちで変化してくるものなので、食べられないものがあったとしても無理に食べさせないようにしましょう。
ある一定のものが食べられなくても、栄養不足で困るということはありません。
食べられるもので栄養はとり、無理に偏食指導はしないことが重要です。
味覚
嗅覚と同じく、味覚が敏感なお子さんは偏食が出やすいです。
小さい頃は「これで栄養が足りるのか」と悩む親も多いです。
しかし、味覚が敏感なお子さんは、その他の視覚、嗅覚、触覚などが敏感な場合も多く、さまざまな理由から偏食が出ています。
無理に食べさせることはせず、今食べられるものから少しずつ広がればいいくらいの気持ちで気長に見守りましょう。
触覚
服が濡れると嫌がる場合はすぐ着替えましょう。
泥や土に触るのを嫌がる場合は無理に触らせる必要はありません。
どうしても触らなくてはいけないときは、「すぐに洗える」という状況を作り安心感を持たせることが大切です。
また、保育園や幼稚園では液体のりを指で塗らなくてはいけないことがあります。
お子さんが嫌がる場合はすぐに手を拭けるようにタオルを準備する、スティックのりを使ってもいいことにするなど個別の対応をしましょう。
固有受容覚
固有受容覚を感じにくいお子さんは、人と関わるときに力が強くなってしまうことがあります。
「優しく」と言葉で伝えても、本人は優しく関わっているつもりのことも多々あります。そんなときは、「これくらいでいいよ」と、本人の手を持って実際に動かすと伝わります。
また、成長してもおもちゃや鉛筆、下敷きなどを噛んでしまう場合はまず原因を探ることが大切です。特にストレスではなく、単に固有受容覚の刺激を求めている場合は「これなら噛んでもいい」もの(するめやガムなど)を与えるのも一つの手です。
まとめ
感覚刺激の受け取り方の偏りは、どのように感じているか本人にしかわかりません。
周りはよくお子さんを観察し、どんな刺激が好きで、どんな刺激が苦手なのか理解する必要があります。
基本的に嫌いな感覚刺激は、慣れさせようと思っても慣れるものではありません。
そのため、嫌いな感覚は取り除いてあげることが大切です。
感覚刺激に対し敏感なお子さんは日々多くのストレスの中で頑張っています。
周りが理解し、対処することで少しでもお子さんが安心して生活できるよう支援することが重要です。