みなさんは「発達障害」って聞いたことありますか?
文部科学省によると、小中学校には、発達障害を持っている、またはその可能性がある子供が全体の6.5%もいるそうです。
「ひょっとしたらウチの子のことかも」
「僕のクラスにいるあの子、発達障害かもしれない」
心当たりがある方もない方も、この記事を読むことで、下記についての理解が深まります。
- 発達障害とは
- 各発達障害の特徴や治療と周りがするべき支援
- 私の高校での発達障害を抱えた生徒にまつわる体験
- 特別支援学校について
- 親が発達障害を認めることの大切さ
私がこの記事で皆さんにお伝えしたいことは、お子さんが発達障害を抱えていることは恥ずかしいことではないこと、むしろ、早めに発見してあげて、お子様にあった環境でサポートすることがとても大切であるということです。詳細は記事内でご説明します。
この記事を読むことで、発達障害に対する理解が深まると共に、見方や考え方が変わることを切に願います。
発達障害とは?
発達障害者支援法によると、「発達障害は自閉症、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。
近年、発達障害に対する研究が進み、社会的な関心も高まっていることもあり、発達障害をもっていると診断を受ける子どもの数が増加しています。
発達障害は生まれつきの特性で、多くの場合、複数の発達障害を持っている子どもが多いです。
まずは、それぞれの障害がどのような特徴をもっているのかを理解する必要があります。
代表的な発達障害と特徴
この章では、代表的な発達障害について特徴を簡単に説明しています。
前もってお伝えしておきますが、これらの特徴はあくまで代表例です。そして、多くの子どもが一つだけでなく二つ以上、複数の発達障害を抱えていることが多いです(例:自閉症スペクトラムを抱えている子どもは他にも、アスペルガー症候群やADHDを持っている可能性もある)。
この前提を踏まえてもらいながら、それぞれの障害の特徴を見ていきましょう。
自閉症スペクトラム
自閉症スペクトラムは生まれつきの脳の異常によって引き起こされるものであると考えられており、20〜50人に1人の子供が自閉症スペクトラムを抱えていると言われています。男の子の方が女の子の2〜4倍自閉症スペクトラムを発症する可能性が高いというデータもあります。
自閉症スペクトラムを抱える子どもには下記の特徴が3歳になるまでに見られます。
- 対人関係を築くことが苦手
- コミュニケーション能力の欠如, 人との適切な距離感がわからない
- 常同的または限定的な興味関心と行動
- 五感が非常に過敏、または非常に鈍感
アスペルガー症候群
アスペルガー症候群は自閉症スペクトラムの一つに分類され、知能や言語による遅れは見られません。しかし、社会性、想像力や共感力の欠如、低いコミュニケーション能力、強いこだわり、そして五感が極端に敏感または鈍感であるという特徴が見受けられます。具体的には下記のような特徴を持ちます。
- コミュニケーション能力が低いので、友達ができづらい
- 特定のものに対するこだわりや執着が強く、興味が限定的
- 毎日がルーティーン化され、予定変更があるとパニックを起こす
- 周囲から「変わっている」と思われている
注意欠陥多動性障害(ADHD)
ADHDは、その名称からも想像できると思いますが、下記のような特徴を備えており、7歳までに発現すると言われています。
- 落ち着きがない(ずっと座っていられない、順番待ちができない)
- 不注意である
- 衝動的
- 整理整頓やスケジューリングが苦手
これらの言動は中枢神経系に何らかの異常があるために見られると言われています。
学習障害 (LD)
学習障害は全般的な知的発達の遅れはないのですが、読む、書く、話す、計算する、または推論する能力のいずれかの習得や使用に対して大きな困難を伴う障害です。具体的には下記のような特徴があります。
- スムーズに読めない、または読んだものを理解できない
- 書き間違えが多い、英単語が覚えられない
- 数字の大小を区別できない、暗算がスムーズにできない
発達障害を持った子どもの高校での指導経験
この章では、実際におそらく発達障害を抱えたであろう生徒の学習指導と就職指導を経験した私の経験についてお話します。
学習障害を抱えた生徒を学習指導した例
学習障害を持ったA君について
私が初任で赴任した学校は、いわゆる教育困難校です。
中学校の時に、不登校で学校に全く行けなかった生徒、中学校には行っていたけど、勉強には全くついていけなかった生徒、問題行動の多い生徒、そのような生徒が多い学校でした。
その学校で、学習障害を抱えた子どもの教科担当をしました。ここでは、その子をA君と呼ぶことにします。
上記でも簡単に説明させていただきましたが、学習障害を持つ子は、一見普通の子のように見えます。A君も同じでした。大人しい子ですが、コミュニケーション能力には全く問題ありません。部活動にも所属しており、3年間卓球部員として活動していました。成績もそこまで悪いわけではありません。
しかし、英語の能力だけが著しく低かったのです。上記にもありますが、学習障害の特徴の一つとして英単語が覚えられないというものがありますが、彼の場合、これに当てはまります。
漢字と異なり、アルファベットには意味がありません。例えば、漢字を書く際、漢字を忘れてしまっても「おそらくこれは『人』に関することだから人偏(にんべん)を使うのではないか」と推測することができますよね。しかし、アルファベットの場合、それができません。ひらがなやカタカナと同じです。
A君が書く英単語や英文を見ると、黒板や教科書に書かれている「単語」や「英文」を書き写しているというよりは、アルファベットという「記号、シンボル」を書いているように見えるのです。
A君の英語の成績
そのため、彼は英単語を覚えることも理解することも全くできませんでした。A君によると、中学校の頃から、英語で20点以上を取ったことがないそうです。よって、中学校で学んだであろう英単語すら書けません。
テスト前に個人的に何度も補習しましたが、結局、英単語や英文を理解できないとテストは解けないので、いつも赤点でした。
病院に行って、学習障害という診断を受けたわけではないようでしたが、私は彼が学習障害であると考え、担任と共に、職員会議で彼の学習状況を報告し、特別な配慮が必要であることを訴え、彼には特別課題を与える許可を得ることができました。
それは、テストの範囲だった教科書の英文を全て5回ずつ書き写すというものです。その課題を期限までに終わらせることで、英語の成績を30点で出すというものです。
A君に、その特別課題をこなすことで、赤点を取ることなく、進級することも可能であることを説明しました。A君は説明を理解し、その課題にきちんと取り組みました。言うまでもなく、彼は卒業するまでテストの度に、その課題をこなしました。彼はとても良い子で、その特別課題のことを周りに吹聴することも、授業態度が悪化することもなかったです。
A君は英語の単位を落とすことなく無事に卒業できました。
「教科書の本文を書き写す」だけでA君は何も身につけられていません。単位を取得するための苦行でしかないのです。学校側としても、「とりあえず」の対応であって、A君の発達障害そのものに向き合った対応ではないですし、発達障害に対しての根本的な解決法にもなっていません。
「英語の単位を落とさずに、無事に高校を卒業する」というA君の願いは無事に叶えられましたが、私は今でもこの特別課題や対応に、これでよかったのかと疑問を感じます。
保護者には言えない
子供たちは1日の大半を学校で過ごします。そのため、学校の教員は、発達障害を持っているであろう生徒に気づきやすいです。
しかし、それを保護者に伝えるのはタブーとされています。
学校の先生はあくまで「教育」のプロであって、多少の発達障害に関する知識や経験があっても、障害について自信を持って診断を下せる「医者」ではありません。
また、保護者面談等でこのような話題を出してしまうと、「先生はうちの子を障害者扱いするんですか?」と保護者を逆上させてしまい、トラブルに発展する恐れもあるので、婉曲的に伝えることや、医療にかかることを提案することもできません。
厳しい言い方になってしまいますが、お子様の発達障害に気づくべきは保護者なのです。周りは誰も教えてくれません。
自閉症スペクトラムを抱えた生徒の就職指導した例
次に、私が同じ高校で、3年生の生徒の就職指導をした時の話をします。
この生徒のことをB君と呼びます。B君は、非常に真面目で、成績には問題はありませんでした。
家庭の都合と本人の希望により、高校卒業後は就職を希望しているとのことでしたが、コミュニケーション能力は絶望的でした。
上記にありますが、自閉症スペクトラムの特徴の一つとして、他者と上手にコミュニケーションが取れないというものがあります。
面接練習をしていても、その場にそぐわないことを言ってしまったり、面接官の質問の意図を読み取ることができないのです。
例えば、面接で、「最後に何か質問はありますか?」という逆質問に対して、「ボーナスはいくらですか?」、「残業はしたくないのですが、ありますか?」等聞くべきでないことを聞いてしまいます。
他にも、「今日はここまで、どのようにして来ましたか?」という質問に対して、「今日は6時に起きて、そこから出る準備をして7時に家を出て、それから…」と、的外れな回答を延々と答えるのです。
就職活動に面接は絶対あります。毎日のように面接練習をし、よく聞かれる質問については暗記するまで練習しました。
しかし、練習も虚しく、1回目に受けた企業は落ちてしまいました。
その後も2社目、3社目と受けるのですが、次々と落ちてしまいます。採用担当者に面接のフィードバックをいただくと、担当者全員が「良い子そうですが、コミュニケーションに難があるので…」と言われる始末。
気づいたら、12月になっており、卒業まであと3ヶ月になってしまいました。
そんなある日、進路指導部長に、「ここまできたら最終手段だよ。人材不足で、誰でも内定が取れる業界、介護、美容、パチンコ屋のいずれかを受験させなよ。フリーターで卒業させるよりマシでしょ。」と言われてしまいました。
時期も時期だったので、採用を募集している企業も限られていましたし、本人も焦っていたのもあり、結局、B君は介護職を受験して、内定を得ることができました。
しかし、卒業して3ヶ月ほどしてから、その介護施設よりお電話をいただき、B君は入社してから1ヶ月してから急に来なくなり、解雇したというお話を伺いました。
介護施設の採用担当者曰く、同僚だけでなく、介護をするお年寄りの方とのコミュニケーションでも苦労をしていたようです。
恐らく、周りと上手く人間関係が構築できずに、孤独感やストレスを感じてしまい、仕事に行くのが嫌になり、逃げてしまったのではないかと思います。
発達障害を持った子どもの進路先に「特別支援学校」も選択肢に
前章では、発達障害を抱える子供が抱える苦労や苦しみについて、私の体験を元にお話させていただきました。
高校生になると、身体的にも精神的にも大人に近づき成熟しつつあるので、生活スタイルや性格を変えるのは困難を極めます。それゆえに、高校卒業後に就職し、教育というこれまでは「守ってもらっていた」環境から、自立して働くとなると、環境に馴染めず、周りにも理解してもらえず、辞めてしまうことに繋がります。
脅しのようになりますが、そのような子は再就職するためのノウハウもスキルもないことが多いため、引きこもりになってしまったり、生活保護を受けることになったりと、明るい将来が見えません。
このようなことを防ぐには、お子様が幼い頃に、保護者の方がよく観察し、早めに気づき、勇気を持って関係機関に相談することが大切です。
そして、場合によっては「特別支援学校」への入学も視野に入れることをおすすめします。
この章では、私が特別支援学校に研修に行った際の経験についてお話させていただきます。
特別支援学校にいる子どもたち
皆さんは、特別支援学校というと、どのようなイメージをお持ちになりますか?
「身体障害や知的障害を持ったお子さんが通われる学校」というイメージをお持ちなのではないでしょうか?
私は、教員になるまで、特別支援学校に対してそのようなイメージを持っていました。しかし、実際に研修に行ったあと、イメージが大きく変わりました。
特別支援学校には、確かに重度の知的障害や身体障害を持つ子供が多くいますが、「普通」に見える子も沢山いました。
「なぜこの子が特別支援学校にいるのだろう?」と疑問に感じたので、担任の先生に聞いてみたところ、特別支援学校には様々な生徒がいるとのことでした。もちろん身体障害、知的障害を持ったお子さんもいますが、他にも発達障害を持っていたり、親から虐待を受けていて、親から引き離し保護する目的で特別支援学校に通っているお子さんもいるそうです。
意外だったので、非常に驚いたのを今でも覚えています。
卒業後の自立を目指した特別支援学校の教育
特別支援学校での教育は、卒業後に自立して社会で生きていける人を育てることを目標にしています。
研修に伺った際に、高校3年生の生徒たちに職業教育が行われていました。
そこでは、スーパーのレジ打ちの練習や、選挙の際に候補者のポスターが貼られる木製の掲示板作りをしている子供たちの姿があったのです。
特別支援学校では、小学校・中学校・高校とは異なり、「勉強」をするというよりも、社会で自立して生きていくための「スキル」を身につける場であるということを学び、衝撃を受けました。
特別支援学校に通うことで、このようなスキルを身につけて社会に出ることができるので、社会の中でも落伍者になる心配がないのです。
いかがでしたか?発達障害を抱えた子どもの普通高校からの就職と特別支援学校からの就職は大きく異なるということが分かっていただけたのではないでしょうか?
スキルを身につけられると、それが社会的な自立に繋がります。また、社会的に障害であると認められると、周囲もそれに合わせます。
普通高校に通いって就職すると、社会で役立つスキルはないし、「普通の子」と同じ扱いを受けることになっていまいます。一番苦しむのは、発達障害を抱えているお子さんです。
お子さんの特性を幼いうちから観察し、気づき、そして勇気を持って医療機関に連れていき、適切な支援や進学をすることで、お子様の人生を大きく変えることに繋がります。
発達障害は恥ずべきことではない
「障害」と聞いて、恥ずかしいと考えたり、自分に責任を感じてしまう保護者も多いですが、発達障害は、必ずしも遺伝的要素が絡んでいるわけではありません。生まれつきのものなので、子育てや躾が間違っていたのではないかとご自分を責めたり、子どもの努力が足りないからではないかと考えないでください。
発達障害の原因
発達障害の原因は「遺伝的要素」と「環境的要素」の二つが絡み合っていると言われています。
しかし、まだ詳細は分かっていません。一卵性双生児の双子であっても、1人だけ発達障害で、もう1人は違うということもあることから、遺伝的要素だけが原因ではないようです。
つづいて、「環境的要素」についてですが、これはお子さんが母体にいた時に外から受けた刺激のことを指します。例えば、お母さんが食べていた食事やストレス、そして汚染物質などがこれに含まれます。
しかし、これもはっきりとした研究結果が出ていないことから、発達障害の原因はよく分かっていないのが現状です。
そのため、お母様が責任を感じたり、恥ずかしいと思うことは何もありません。そして、お子様の責任でもないのです。このことを強く強調したいです。
もし、お子様を観察していて、「うちの子、もしかしたら」と感じたら、勇気を持って、まずは公的機関に相談しましょう。
普通の学校に行って、普通の教育を受けさせたいとお考えになる気持ちも十分わかりますが、厳しいことを言うと、それは保護者の自己満足やエゴであると私は思います。お子様のために、お子様にとってベストな選択や教育はどのようなものなのかを考えてあげる必要があります。
お子様の未来を考えられるのは、お父さん、お母さん、あなただけなのです。
発達障害の相談機関
お子様が発達障害を抱えているのではないかと思ったら、まずは無料で相談できる地域の専門機関に相談しましょう。
場合によっては、専門の医療機関を勧めてもらえます。
下記が地域の発達障害専門機関になります。
- 市町村保健センター
- 児童相談所
- 子育て支援センター
- 発達障害者支援センター
何度も言いますが、発達障害は、お母様のせいでも、お子様のせいでもありません。そして、専門機関に相談し、プロからのアドバイスをもらうことでより良い方向に進むはずです。
恥ずかしがらずに、勇気を持って行動に移してください。
発達障害の診断や検査について
この章では、発達障害の診断や検査がどこで、どのように行われるのかをご紹介します。
発達障害の診断について
発達障害の診断を下せるのは医者だけです。よって、発達障害の検査を受けるためには小児科、児童精神科、または小児神経科にいく必要があります。大学病院や総合病院でも検査は可能です。
発達障害の検査について
発達障害の検査は下記のようなものがあります。
- 血液検査
- 脳画像診断
- 医師による問診や行動観察
- 心理検査
- 発達検査
- 関係者からの聞き取り
- スクリーニング検査
これらの検査を複合的に組み合わせて、発達障害の有無の診断をおこないます。
発達障害の治療や支援について
残念ながら、現在の科学技術では発達障害を完治させることはできません。
ADHDに対しては、落ち着かせるための薬物療法を用いることもあるようですが、基本的には、家族や関係者による発達障害への理解とサポートが必要です。
しかし、幼少期に医療にかかり、早めに療育をスタートさせるほど、社会や集団に馴染みやすくなったり、障害の程度が軽くなるといった効果もあるので、早期発見・早期診断・早期療育が大切です。
発達障害は「障害」ではなく「個性」!温かく見守ってサポートしよう
いかがでしたか?この記事を通して私が皆さんにお伝えしたいことは下記の通りです。
- 保護者の方には、幼い頃からお子様の様子をよく観察していただきたいということ
- 発達障害について知識を持ってもらい、お子様にそのような傾向がある場合は、勇気を持って地域の専門機関に行って相談をし、必要がある場合は、医療機関にかかることが大切であること
- もし発達障害であると発覚しても恥じることではないということ
- お子様を苦しめないためにも、お子様の明るい将来のためにも、「特別支援学校」という進学先を選択肢の一つに加える勇気を持ってもらいたいということ
発達障害は、お子様が幼少の時に発見し、診断・療育することで、かなり症状はよくなり、社会や学校に順応しやすくなります。
お子様が発達障害を持っていることを認めることは非常に勇気が必要ですし、ショッキングなことです。しかし、それを認めないのは、親の自己満足やエゴです。苦しくて、辛い思いをされるのはお子様なのです。
困ったことがあったら、地域の専門機関や医療機関に相談して、お子様に適切なサポートをしましょう。
参考:
https://www.teensmoon.com/pdd/definition/
https://junior.litalico.jp/about/hattatsu/institution/