みなさん、こんにちは、そして、初めまして。編集部メンバーのYです。
私は2011年から2019年まで、公立高校の英語教員をやっていました。
非常にラッキーなことに、デンマークの小中学校に、一週間ほど研修に行く機会があり、日本の教育を客観的に見ることができました。
この記事では、デンマークの教育と比較することで見えた日本の教育の強みと弱みについてご紹介します。
この経験で得たことを是非みなさんに共有して還元したいと思います。
日本の教育の強み
この章では、日本の教育の強みについてご説明します。
デンマークの教育と比べると、日本の教育は、「和」に非常に力を入れていると感じました。
「和」によって、集団生活に馴染むことができ、協調性を育むことが出来ます。では、詳しく見ていきましょう。
集団を重んじる教育
デンマークを始め、海外の多くの国では、ホームスクーリング(子供が学校に通わずに、家庭で保護者が子どもの教育を行うこと)が認められています。
確かに、ホームスクーリングによって教育の選択肢が広がりますが、私は、ホームスクーリングには、個人的には反対です。学校は勉強だけを学ぶための場ではないと考えています。
学校生活を通じて、友達の作り方や人間関係を築き上げる力、クラスメイトや先生とのコミュニケーションの取り方等、様々なことを学ぶことが出来ます。
そして、日本では、授業中は先生の話を静かに聞く、校則を守るといった「空気を読む」「皆と足並みを揃える」ということも重視されます。 このような教育を通じて、子ども達は「我慢」や「協調性」を身につけることができ、大人になり、社会に出て、様々な世代や立場の人々と協力しながら、一緒に働くことができるようになると思うのです。
行事や部活動を通じて子どもの様々な一面が見られる
デンマークの学校で、年間行事予定表を見せてもらったのですが、学校行事の数が非常
に少ないです。日本のように,文化祭、合唱コンクール、体育祭といった行事がありません。
部活動もありません。子ども達は、各自で習い事をしており、放課後はそれぞれの習い事に向かいます。
教員にしてみると、学校行事や部活動は非常に負担です。しかし、行事や部活動を通じて、普段の学校生活や学習中には見ることができる点は教員の醍醐味です。そして、多くの場合、子ども達の良いところを見つけることが出来ます。
「あの子、英語は苦手だけど、装飾のセンスがあるなぁ」
「あの子、普段は大人しくて、何を考えているのかよくわからないところあるけど、今目がキラキラ輝いているなぁ」
そんな、子ども達の魅力や長所を見つけ出し、通知表に書いたり、保護者面談で保護者に報告することができる点は日本の教育の強みだと思います。ここで見つけることができた長所をや能力を子ども達自身がしっかりと把握し、更に伸ばしていけたら素晴らしいですね。
学習指導要領によって教育の平等性が保たれている
日本では、学習指導要領に基づいて教科書が作成され、教科書を使って授業が行われます。教科書による違いは多少ありますが、このようなシステムによって、全国の義務教育校は、平等に教育が受けられています。
デンマークにも学習指導要領に似たようなものはあるようですが、日本ほど厳密ではなく、教科書もないようです。そのため、授業のたびに、教員が授業で活用する資料を準備します。
そして、デンマークの授業は、日本のような知識伝達型ではありません。その日の学
習テーマに関する質問を生徒に投げかけ、そこからディスカッションが始まるというスタイルが一般的です。
つまり、クラスによって授業の進行方向が変わってしまう可能性があります。また、各教員が授業で使用する教材を用意することから、教員の力量が問われてしまうというデメリットもあります。
日本の教育は、そのような点から考えると、教育の機会も、教育で学ぶ内容も全国中で統一されており、学校間や教員間による差はあまりないため、平等であると言えます。
日本の教育の弱み
この章では、デンマークでの教育と比べた、日本の教育の弱みについてご紹介したいと思います。
日本の教育は、選択肢が狭く、非常に画一的で、個性を伸ばすことが難しい環境であるということを改めて学んだ研修になりました。
レールから外れたら再起不能
日本は、6歳になる年に小学校に入学し、その後は中学、高校に通います。大学にいきたい場合は、浪人することもありますが、高校卒業と共に入学します。そして、大学を卒業したら、すぐに就職し、定年まで働く…というのが日本での生き方です。
「レール」のように画一的です。このレールから外れてしまうと、やり直しが効かず再起不能といったところがあります。
しかし、デンマークをはじめとする、他国の状況は大きく異なります。まず、6歳になるからといって小学校に入学するわけではありません。日本と同様、早生まれがあります。早生まれの子は、体力、学力、コミュニケーション能力等様々な面で発達の遅れが出てしまいがちです。そのような子はまだ、小学校に入学する準備が出来ていないということで、小学校への入学が一年見送られます。
このようなことは、デンマークだけでなく、他の外国でもよくあることです。そのため、クラスにいる子と年齢が違うということが一般的なのです。
他にも、外国には Gap Year(ギャップ・イヤー)というものが存在します。高校卒業後、すぐに大学に入学せずに、または、大学卒業後すぐに就職せずに、1-2年間、アルバイト、ボランティア、インターンシップ、留学、または世界一周旅行などすることで、自分自身を見つめ直し、自分が何をやりたいのかを考えるための時間のことを指します。
日本とは異なり、海外では、「◯歳で大学に入学しなくてはいけない」といったルールがないのです。それぞれの子どもの成長に合わせて、社会が待っていてくれるし、認めてくれているのです。
このような環境で学ぶことによって、「個性」が伸ばしやすくなると、私は考えます。この点は日本も見習ってもらいたいと強く願います。
暗記中心で答えが一つしかない教育
「鎌倉幕府が成立したのは何年?」
「ア~カの語句を文法的に正しく並べ替えなさい。」
日本のテストって、答えが一つしかない設問ばかりですよね?
私も、自分が学生だった時は、テスト前になると、暗記マーカーを使って教科書の重要事項に線を引いて、赤シートで隠しながら重要事項を暗記したものです。
しかし、デンマークでは異なります。
「死刑制度について、あなたはどう思いますか?」
「学校に行くのは義務?それとも権利?」
このように、授業中に先生が子どもたちに尋ねる質問も、テスト(試験は口頭諮問)も、回答に制限を与えないオープンクエスチョンが中心なのです。
オープンクエスチョンに答えるためには、まず、知識が必要です。上記の例だと、死刑制度がある国はどんな国があるのか、そして、どのような刑があるのといったことです。
その知識をもった上で、更に自分の意見をもち、まとめ、相手に伝える必要があるのです。非常にレベルが高いですが、幼い頃からトレーニングすることで、身につけることができます。
そして、デンマークの先生達のすごいところは、どのような答えが出ても、否定せず、受け入れていることです。
否定されることがないので、子ども達も、のびのびと、自由に自分たちの考えを発言します。
このように、子ども達に「考えさせる」教育をすることで、考える力が身につくだけでなく、自分なりの考え方、「個性」が身につくのだと思います。
受験がゴールになってしまっている
デンマークには「入試」がありません。卒業時に卒業試験という、筆記試験と口頭諮問を受けます。この試験には合否がなく、7段階で評価され、この成績が次の進学先を決めることになります。
日本の教育は、受験がゴールになっていると思います。高校の教員だった時、高校3年生の指導は大変でした。
「英語、受験で必要ないし」
「もう受験終わったから、勉強する必要ないし」
「3年生の二学期の成績ってもう関係ないんでしょ?」
高校三年生の2学期になると、こんな声がクラス中で聞かれるようになり、悲しい気持ちになったことが何度もあります。
ゴールや目標がない中で闇雲に勉強するのは、モチベーションの維持が難しいとは思いますが、「受験のための」勉強という考えが、日本の教育現場からなくなることを願うばかりです。
まとめ
デンマークでの教育も日本での教育も、いずれも強みと弱みがあります。
しかし、他国の教育について学んだことで、日本の教育を客観的に見つめ直す良い機会になりました。
日本では、まだまだ子供たちの「個性」を見つけ、それを伸ばしていくための土壌が教育現場に足りないように感じられます。
教育現場で実際に働いてみて、日本の教育は迷走していると愕然とすることが何度もありました。
教育は未来への投資です。
他国の教育の良い点をどんどん学び、取り入れ、日本がより良い教育を提供できる国になることを心の底から願うばかりです。