コーチングとティーチング。いずれもビジネスの現場で、しばしば取り上げられる言葉です。
特にコーチングは昨今、キャリア育成などの場面で重要視されていますが、その内容や目的について、正しい認識がされていないことも多くあります。
ところで、これらの考えは、ビジネスの場でのみ活かされるものでしょうか。そんなことはありません。いずれも人間の成長を促すものであり、教育においても重要な考え方です。
コーチングとティーチング、それぞれの狙いやメリットを知ることは、これからの教育を考えるうえで、大きなヒントを与えてくれます。
本記事では、コーチングとティーチングの違いや、それぞれの意義を解説し、特にコーチングが教育に与える良い効果について、考えてみたいと思います。
コーチングとティーチング
コーチングとティーチングは、いずれも能力開発や人材育成の場面で論じられるものですが、その性質や目的はそれぞれ異なります。
企業などで、コーチングの手法を取り入れることがありますが、正しく理解してない人が行うと内容がティーチングのようになってしまい、正しい効果が得られない場合があります。
教育でコーチング的手法を用いる場合、相手はクライアントではなく、子どもです。その効果は、成長、人格形成、自己肯定感などに対し、大人以上に直接的な影響を与える可能性があります。
教育にコーチングを取り入れる大人は、その中身について正しく認識しておく必要があるでしょう。
ティーチングとは
先に、「ティーチング」の内容について解説します。「teach」は元来、「指し示す」という意味を持ちます。
自分が持っている知識や技術、ノウハウなどを、相手に教えることを指しています。
ティーチングされている側は、教える側から一方的に情報を得て、それを習得することを目的とします。
例えば、仕事のやり方や手順を、上司が部下へ伝える場合、ティーチング的手法を用いることがほとんどです。部下には知識もスキルもないので、上司から一方的に教わるしかありません。
この場合、両者には「教える側」「教わる側」という上下関係ができやすく、一方通行の関係になりがちです。
コーチングとは
一方でコーチングはどうでしょうか。
「coach」の語源は「馬車」。馬車が乗っている人を目的地に送り届けるように、コーチングでは、教える側が、教わる側を目標に向け「導いていく」姿勢が重要視されます。
導くと言っても、首輪をつけて引っ張っていくわけではありません。
コーチングでは、教える側は相手に対し、基本的に何かを教示したり、習得させたりはしません。
大事なのは、本人がすでに持っている知識、技術、考え方を活かすこと。質問や問いかけを行いながら、その人が目標達成にいたるまでの考えや行動を引き出し、支援することがコーチングの役割です。
ビジネスで言うと、上司が部下に何かを覚えさせるのではなく、すでに部下が持っているスキルやアイディア、やる気や思いを、上司が上手に引き出しながら、ともに問題解決を図ろうとする姿勢が求められます
この場合上司と部下に、明確な上下関係はなく、比較的対等な立場でコミュニケーションが行われます。
コーチングとティーチングの違い
このように、混同されがちなコーチングとティーチングですが、そのやり方や目的はかなり異なっています。
ティーチングが一方的に知識やスキルを、教えることであるのに対し、コーチングは相手の考えや行動を、引き出してあげる態度が重要です。
学校教育について考えた場合、どちらかというとティーチングのイメージが強い印象です。
学校の教科学習、塾での受験指導、普段の生活指導、「こうあるべき」を教えるという面では、いずれも内容がティーチングに寄りがちです。
しかし、コーチングの姿勢は、これからの時代の教育を考えるうえで、とても意義深いものだと言えます。
コーチングとティーチング それぞれのメリット
それでは両者には、どのようなメリットがあるのでしょうか。このことを理解していないと、両者の良さを教育に活かすことができません。
ティーチングの特徴
ティーチングでは、教える側がすでに身につけている知識を、一方的に教えていくため、比較的早く、相手に知識や技術を習得させることができます。
また多くの相手に対し、同時に、同じ内容を習得させることが可能です。
その特性上、教わる側がまだ知識や技術が不足している場合や、価値観を大勢で統一したい時などは、効果的な方法です。
コーチングの特徴
一方コーチングでは、本人の知識や考え方に基づき、成長が促されます。
目標達成までには時間がかかり、集団を一斉に同じ方向へ成長させることはできませんが、本人が自分から成長していこうとする態度や、行動を引き出すことが可能です。
ティーチングの「答え」は一つかもしれません。しかし、コーチングの「答え」は一つではありません。目標の設定、それを達成するための行動、手段、考え方などは、人それぞれ異なります。
コーチングを教育に活かす
コーチングは、明確な答えを一様に習得するのではなく、一人ひとりの目標へ、それぞれの方法でむかっていく指導です。
ここからは、コーチングを教育で活かすとはどういうことか。そのために、大人にどのような姿勢が求められるのか、考察していきます。
子どもの自主性を育てるために
従来の学校の授業のステレオタイプなイメージは、ティーチング的なものでした。
教科書に載っている事柄を先生は生徒たちに一斉に教え、その習得度が高ければ「〇」、低ければ「×」で、判断するきらいがありました。
ただし容易にイメージできるように、子どもたちはそのような教育スタイルを「つまらない」と感じるもの。自分から学んでいこうという姿勢はなかなか期待できません。
しかしこれからの、予測不能な未来を生きる子どもたちに必要なのは、自分で考えて、自分で判断し、自分で積極的に学んでいく姿勢です。
それを養っていくためには、ティーチング的手法だけでなく、コーチング的手法も大切でしょう。
「覚えさせられる」「やらされる」教育では、子どもの自主性はなかなか育ちません。一方で、本人が自主的に自分の考え、スキルを用いて前に進もうとしたとき、子どもの自主性は育ち、生きる力が身についていくはずです。
教育者が持つべきコーチングの姿勢
子どもが自ら学ぶ意欲を養うために、教育にコーチングを取り入れることには、大きな効果が期待できます。
ただし、それがしっかり機能するには、導く大人が、コーチングを行うにあたっての姿勢を理解していなければなりません。それはどのような姿なのでしょうか。
まずは生徒が進んで発言し、考えを述べられる雰囲気を作ることです。問題を解決しようとする際、「正解」を言えないと恥ずかしいという空気はなくさなければいけません。
仮に子どもの考えや発言が「間違い」だとしても、それが浮かぶに至った考え方や、それを捻り出そうとした意志は、大いに評価してあげたいものです。
答えが分からず迷っている子どもにも、模範解答や解を教え込むのではなく、以前学んだことを参考に、どういう風に考えたらいいと思うか、はたらきかけてみてはどうでしょうか。
そのような経験を通して、子どもたちは他人からなにかを教わるだけでなく、自分から積極的に学んでいこうという態度が養われていくと考えます。
教育にはコーチングとティーチング 両輪が必要
本記事では、コーチングとティーチングの違いを紹介しながら、コーチングを教育に活かしていく意義について、解説してきました。
主にビジネスでは、知識の習得度が未熟だったり、タスクが緊急だったりする場合にティーチングを、逆に社員の潜在能力を引き出し、身につけた知識やスキルを活かして、自己解決していく能力を伸ばす際にコーチングが用いられます。
その点では、子どもたちの教育には、ティーチング、コーチング両者の考えが必要でしょう。基礎的な知識、技術、規範、態度。そういったものを、ティーチングの姿勢で教えることは必要です。
しかし、そこで得た能力を活かし、自ら学び、成長し、未来を生き抜いていくためには、コーチング的な視点から子どもたちを導くことも重要ではないでしょうか。
そしてそれが良い結果を生むために、子どもたちを導く大人が、コーチングの意義や指導する際の態度について、理解しておく必要があるでしょう。