キャリア教育における子どもの個性の大切さを考える|子どもの強みを活かし自主性を育てよう

現在の学習指導要領において、強く推奨されているキャリア教育。キャリア教育は、「こんにちの社会を生き抜くための基盤を養うもの」とされていますが、私たち大人はその大切さや目的について、理解できているでしょうか。

また、昨今の教育や子育てでは、子どもの「個性を伸ばすこと」が強調されます。ただ漠然と「子どもの強みを伸ばしてあげたい」と考えている人もいるかもしれませんが、キャリア教育の目的と照らし合わせることで、その重要性がより鮮明に見えてくるはずです。

この記事では、キャリア教育の意図や目的を確認しつつ、その視点から、「子どもの個性を伸ばすこと」の大切さを考えてみたいと思います。教育者や、子どもに関する仕事をしている人が、子どもの個性の大切さについて、改めて考えるきっかけになれば嬉しく思います。

キャリア教育とは?

キャリア教育は、*「一人一人の社会的・職業的自 立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てる ことを通して、キャリア発達を促す教育」と 定義されています。

まずはキャリア教育が重要視されるにいたった背景や、キャリア教育が目指す姿について見ていきましょう。

中央教育審議会答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」

一部抜粋

社会構造の変化が背景にある

IT技術の発展などに伴い、現代の社会システムは大きな変容を遂げました。特に仕事・職業観については、従来の終身雇用制度などが崩壊するなど、「決まった形」が見えづらいものとなっています。

子どもたちにとって、社会に出て働くことは、とても実感の湧きづらいものとなりました。同時に、「未来をどのように生きたらよいのか」「キャリアを築くために、どのような方向ヘ進めばよいのか」という問いへの答えが、不明瞭なものとなっています。

キャリア教育は、このような混とんとした社会のなかで、子どもたちが「どのように生きていくか」を学ぶ学習だといえるのではないでしょうか。

キャリア教育が目指すもの

キャリア教育は、社会での「生き方」が不明瞭になったことを背景に示されたものです。言い換えれば、キャリア教育の目的は、子どもたち一人ひとりが、社会のなかで生き抜くための能力を養うことだといえます。

それは単に、職業訓練のような実践的なスキルを養うものではなく、生きるうえでの目標設定、考え方、行動の起こし方や他者との関わり方など、より根本的な能力を身に付けることを目的としています。そのため就職・就業に直接的に関わる場合だけでなく、成長のすべての段階で、学ぶべきものだといえるでしょう。

キャリア教育を知ることは、教育者を志す人たちにとって、現代の子どもたちの置かれた状況や、これからの教育の在り方について考える、大きなきっかけになるのではないでしょうか。

基礎的・汎用的能力について

文部科学省では、キャリア教育において「基礎的・汎用的能力」を育成するべきだと示しています。基礎的・汎用的能力を知れば、キャリア教育の方向性がより明確にわかります。

基礎的・汎用的能力は、大きく以下の4点に分類されます。

1. 人間関係形成・社会形成能力

2. 自己理解・自己管理能力

3. 課題対応能力

4. キャリアプランニング能力

それぞれの詳細については、キャリア教育で身につけたい能力とは?「4領域8能力」から「基礎的・汎用的能力」への記事をご参考ください。

これらの能力は、独立したものではなく、相互に関連・依存した関係であるとされます。自己理解や自己管理能力、キャリアや人生の課題について自ら考え行動していく能力が求められる一方、他者への理解や、他人の意見を聴く力も重視されています。

基礎的・汎用的能力は、キャリア教育の重要性を理解するためにたいへん有効であると同時に、これからの教育の柱となる考え方といえるでしょう。教育に携わる人は、これらの能力と、子どもたちの学びとの関係について、確固たる考え方を持っておきたいものです。

キャリア教育における子どもの個性を伸ばすことの大切さとは?

キャリア教育は、これからの時代を生き抜くための力を学ぶものであり、それを養うためには子どもたちが、自分自身のこと、他人のこと、社会のことなどを、広く理解する必要があります。

一方、教育や子育てでは、子どもの「個性を伸ばすこと」が重要視されることが多くなりました。この「個性を伸ばすこと」は、キャリア教育の方向性とも共通する部分を多分に含んでいます。

ここからは、子どもの個性を伸ばすことの大切さとキャリア教育との結びつきについて、考えてみたいと思います。

子どもや若者の自立が求められている

キャリア教育が重要視されるにいたった背景として、社会構造や職業観の変化が挙げられます。それに伴い、子どもや若者の自立の遅れが問題視されることとなりました。

「将来に希望が持てない」「自分に自信が抱けない」「良好な人間関係が築けない」「どのように生きていけば良いのか分からない」といった苦しさは、確固たる社会人像、キャリアイメージが崩壊してしまったこんにち、若者たちが抱く当然の悩みだといえます。そしてこのような思いが、彼らが社会で活躍することを阻害しています。

そんなとき、「個性を伸ばす」という考え方のなかに、その解決策を見出すことはできないでしょうか。子どもたちの個性を伸ばす役割を果たす教育者は、その点について考えてみる必要があるでしょう。

子どもの強みを引き出せば自主性が育つ

子どもの個性を伸ばすということは、それぞれの強みを引き出すことでもあります。同時に自らの強みを知り、進むべき方向性に自信を持った子どもは、自主的に行動する力も身につけるでしょう。

もちろん行動する過程で、ときには失敗して、挫折してしまうこともあるかもしれません。しかし、みずから希望を見出し、自身のアクションを選択するという経験は、どのような分野に進んでも活用できる能力です。

子どもの個性を重視している教育者は、個々のスキルを高めることだけでなく、子どもが自ら考え、選択し、思考錯誤していく姿勢を後押ししてあげると良いでしょう。そこで養われる能力は、まさにこんにちの若者が抱く「希望が見いだせない」という苦しみを打開する底力となるはずです。

周囲と調和する力も身につく

みずからの個性を伸ばしていく過程で、子どもたちは自分自身の希望や思いと向き合うことを経験します。それは同時に、他者も自分と同じように、なにかを望んだり、あるいは葛藤したりなど、さまざまな思いを抱えていることを知るきっかけにもなります。

個性を伸ばすことは、けっして他者を出し抜いて自分だけが成功することではなく、むしろ他人への思いやりを育てることだとも言えます。特に幼少期から、自分と他人の思いについて考える機会を得た子どもは、周囲へ気を配れる人へと成長するでしょう。個性を伸ばすことは、他人への共感力を養い、周囲と調和する能力も身に付けることができるのです。

他者への思いやりの心を育て、人間関係形成・社会形成していくことは、キャリア教育の基礎的・汎用的能力においても重視されています。子どもの個性を引き出したいと考える教育者は、この点についても深く理解しておく必要があるでしょう。

子どもの個性を伸ばすことは、キャリア教育とも結びつきが深い

この記事では、現代の教育において重要視されている「キャリア教育」の意義や目的を見直し、同時に子育てなどで注目されている「子どもの個性を伸ばす」という考えとの結びつきについて考察しました。

キャリア教育は学習指導要領のカリキュラムに組み込まれるなど、児童生徒の学校教育での学びの指針とされます。一方個性の伸長は、親も含む、多くの教育者が重要視している考え方であり、学校教育以外でも活かすことができます。

教育に携わる人は、漠然と「子どもの個性を引き出そう」と考えるのではなく、キャリア教育を通して、その重要性について深く考える必要があるのではないでしょうか。そうすることでより子どもの個性の大切さがより明確化するはずです。