日本の子どもたちの教育を考えるとき、国内だけでなく外国との学力比較や、日本の学力の相対的な長所・短所を認識しておきたいものです。
また、世界で問われる能力が、どのようなもので、どういう問い方をされるのか。これからを生きる子どもの教育者は、把握しておくべきでしょう。
そんなとき参考にしたいのが、PISA(ピザ)と呼ばれる学力調査です。本記事ではPISAの概要や、問われる内容、日本の傾向や課題などを解説します。
さらにPISAは、キャリア教育と関連する部分もあり、子どもたちの未来を考えるうえで、多くの気付きを与えてくれるものです。
フリースクールや不登校者支援を行う方など、すべての教育者に考えるきっかけを与えてくれるPISA。その中身を紐解いていきましょう。
PISAとは何か
まずはPISAの概要について解説していきます。目的や対象、規模や内容など、そのあり方を理解してください。
PISAの対象と規模
PISAは「Programme for International Student Assessment」の略で、OECD(経済協力開発機構)が行う国際的な学習到達度調査です。
対象となるのは15歳3カ月以上、16歳2か月以下の生徒たち。日本で言うと高校1年生です。
スタートしたのは2000年。以降3年ごとに実施されていて、2018年の調査は79の国・地域から約60万人が受ける規模となっています。
2021年の調査は新型コロナの影響で2022年に延期され、その結果が2023年に公表予定です。
日本は2000年の調査開始からPISAに参加しており、その結果を国立教育政策研究所が調査。文部科学省のホームページで結果を公表するなど、教育の今後の方向性にも大きな意味を持つ調査と位置付けられています。
また、学力以外にも、生徒の学習環境や生活背景などの情報も、併せて調査され、その結果からはさまざまな考察を得ることができます。
PISAの目的
PISAの目的は、その国の教育制度の長所や短所を明らかにし、政策立案にかかわる基礎的データを提供すること。あるいは国、地域ごとの学力比較や、中期的な学力の変化を調査することです。
PISAの結果は、日本の教育に何が足りないのか、そしてこれからの教育をどのようにしていけばよいのか、それを探る手がかりとなるはずです。
PISAで調査する内容とは
そこで知っておきたいのが、どのような内容が問われるか、という点です。それを知れば、いま世界で求められるのはどのような能力なのかが把握でき、それを養う教育が行えているか、を考えるきっかけになります。
PISAの特徴として、思考力や応用力を問う自由記述問題が出題される点が挙げられます。
知識を暗記し回答する問題形式とは異なり、得た知識や情報を、自分の人生に活かせるかどうかが問われるのです。
その点では「生きる力」やキャリア教育と、通じるものがうかがえます。
PISAで扱う分野は3つ。数学的リテラシー、科学的リテラシー、そして読解力です。日本は参加を見送りましたが、2018年から国際的な課題を扱うグローバル・コンピテンス調査も導入されています。
それでは、日本の生徒が回答している3分野を、それぞれ見ていきましょう。
数学的リテラシー
数学的リテラシーは、数学を活用し、解釈する能力を指します。数学的に物事を考え、建設的に考える能力が問われます。
今後の調査では、プログラミングのような、コンピュータサイエンスに関する能力も、重要視される可能性があります。
科学的リテラシー
科学的リテラシーは、「科学的な考えを持ち、科学に関する諸問題に関与する能力」を指します。
現象を科学的に説明する力や、データと証拠を科学的に解釈するような能力が求められます。
読解力
読解力は、書かれたテキストを理解し、利用し、評価し、熟考する能力です。
自分の目標を達成し、自分の知識と可能性を発達させて、効果的に社会に参加することを目的とします。
日本のPISAの結果と課題
さまざまな知識の「思考力や応用力」が問われるPISA。それでは日本の結果はどのようになっているでしょうか。
2018年の結果を参考に、どのような課題が見いだせるか考えてみましょう。
数学的リテラシー・科学的リテラシーは高水準
2018年の調査において、日本人の数学的リテラシーは6位(日本平均527点・OECD平均489点)、科学的リテラシーは5位(日本平均529点・OECD平均489点)と、高い水準を記録しています。
この2つの分野に関しては、調査開始以降、日本は常にトップクラスで推移していて、大きな変動も見られません。
今後コンピュータサイエンスに関する能力などが問われた際の、調査結果の変化が注目されます。
読解力の低下
数学的リテラシー・科学的リテラシーに対して、読解力は2018年の調査で順位を落としました。
2015年の調査では、8位(日本平均516点・OECD平均493点)であったのに対して、2018年は15位(日本平均504点・OECD平均487点)と、成績が下がっています。
OECDの平均点は上回っているとはいえ、調査開始時から、読解力は数学的リテラシー・科学的リテラシーと比べやや劣る傾向が続いています。
「読解力の自由記述形式の問題において、自分の考えを他者に伝わるように根拠を示して説明することに、引き続き課題がある」と文部科学省も見解を示しています。
「自分の考えの説明能力」は、日本の生徒が今後伸ばしていくべき課題だと言えます。
コンピュータの使用も課題?
さらにもう一点、日本の生徒の読解力が低下した原因が指摘されています。それは、「コンピュータの使用能力」に関係しています。
2015年のPISAから、コンピュータを導入した調査が行われるようになりました。このコンピュータでの回答に関して、日本の生徒が不慣れで、結果的に読解力の点数が下がったという指摘があるのです。
たしかに日本の高校生はスマホなどのデバイスには精通していても、パソコンの使用能力には個人差があります。
各分野の能力に加えて、コンピュータの使用という面でも、改めてそのスキルを見直す必要があるのかもしれません。
PISAとキャリア教育の関連
このPISAについて、キャリア教育の面からも重要性が語られています。
PISAが問うているのは、それぞれの能力をいかに思考し、応用していくかという点です。言い換えれば、各分野の学習を、自らの将来と関係づけて理解していくことが重要です。
その点で、「PISA型学力」として身につけようとする能力は、キャリア教育で育成しようとする能力と関連が深いと言えます。どちらも自分自身で思考し、応用し、自身のキャリアを築いていこうという態度が求められます。
PISAの結果は、日本のキャリア教育が考えるべき課題を、示しているのかもしれません。
PISAの結果から、キャリア教育の課題を考察する
本記事では国際的な学習到達度調査であるPISAの内容と、日本の結果の特徴、そしてキャリア教育との関連性について解説してきました。
現在世界的に求められる教育は、従来の知識量を問うものではなく、知識を自分のものとして思考し、応用していく能力です。
しかしながら、日本の調査結果を見ると「自分の考えを他者に伝わるように根拠を示して説明する」点に、まだまだ課題が見られます。
この傾向は日本の生徒だけでなく、私たち大人を含めた日本人全体の苦手な面とも言えるのではないでしょうか。
これからを生きる子どもたちの「キャリア」のために、まずは私たちが自分の弱点を知り、それを克服できるような道筋を考えることが重要です。
PISAの調査結果は、そういった根本的な課題を、子どもたちだけでなく、私たち大人にも示しているように思えます。
参考文献:
OECD生徒の学習到達度調査(PISA)|国立教育政策研究所
国際学力調査(PISA、TIMSS)|文部科学省
小学校キャリア教育の手引き(改訂版)|文部科学省