「あの子の親は何か問題がありそう」
「家庭環境への支援が必要だと感じているがどうしたらいいだろう?」
そのように悩んでいる保育士の方は少なくありません。
保育士は昔からの夢だったという方の中には「子どもが好きだから」というだけではなく、「自分が子どものころに苦労したから今度は自分が保護者を支援したい」という方も珍しくありません。この視点は非常に大切で、厚生労働省の保育所保育指針内では子育て支援が定義づけられているほどです。
今回は「子どものためにも保護者支援に注力したい」方へ向けて、この記事では「どうしたらより良い保護者への支援が出来るか」というきっかけを促すものとなっています。
保育士から保護者への支援における注意点!
子どもだけではなく保護者にも「受容・寄り添い・共感」を忘れない
もしあなたが「自分の家庭環境を振り返って、今度は自分が保護者を支援したい」という気持ちを持った方なら、一度、子育て支援という難しい言葉から離れて初心に立ち返りましょう。保育士のみならず、対人援助に最も大切なのは傾聴と信頼関係の構築です。厚生労働省の保育所保育指針内から抜粋すると、
- 保護者のおかれている環境や気持ちをありのままに受け止める「受容」
- 保護者に対する「敬意」と「自己決定の尊重」
- 「プライバシーの保護」と「守秘義務」
- 保護者の不安や悩みに「寄り添う」
上記の点を重視していることがわかります。
子どもも大人も、人に話を聞いてもらうという「受容」「寄り添い」を求めています。『人を動かす』の著者であるデール・カーネギー氏は、人を動かす原則の中に「批判も非難もしない。苦情も言わない」ことを第一に挙げています。それは保護者への敬意、相手への思いやりとも言えます。だからこそ保護者の自己決定を尊重し、保育士の意見を押し付けないという姿勢に繋がります。プライバシーの保護や守秘義務は言うまでもありません。誰かが勝手に、あなたのプライバシーや秘密を他者に話したとしたら、もうその人のことは信用できませんよね。
保護者から保育士への実際にある不満やクレーム
「保護者を支援したい」という気持ちは、「子どものためにも親が変わる必要がある」とも言えます。ですが、その支援したいという気持ちとは裏腹に、保護者からは不満やクレームにつながることがあります。
- 上から目線で命令されている気分で不愉快
- 保育士の何気ない一言や表情で「馬鹿にされた」と感じた。
- 訳知り顔でアドバイスをされたが、子育て経験がない人に何がわかるものか。
これらは保護者からの発信や、保育士が実際に言われた言葉として、ネット上では広く散見されます。
その原因は「保育士」と「保護者」の抱えるストレスの違い
保護者もストレスやプレッシャーを常に感じています。仕事、育児、家事をこなさなければならず、保護者自身の時間はほぼありません。家庭によっては、保育所に預けて就労していることを非難されているかもしれません。子どもの言動や子どもの将来は、すべて母親の責任だというプレッシャーもあります。
もしあなたが「家庭環境で苦労してきた」人ならば、まさにストレスを抱えた保護者の姿を見てきたのではないでしょうか? いつも何かに追われているような、あるいは全てを放棄したような、何らかの問題を抱えた保護者の姿を目の当たりにしてきたでしょう。そのことによって子どもにどのような影響が出るかも、実体験があると思われます。
保育士が保護者への支援を継続していくための5つのポイント
子どものためにも家庭環境の改善が必要です。ではどうしたらいいのか? それは家庭によりけりなので、一概に「こうしたらいい」という正解はありません。だからこそ、継続的な支援が必要になってきます。
ここからは、あなたが保護者への支援を継続するために必要な5つのポイントを紹介します。
保育所と家庭で子どもへの対応・方針は統一する
家庭と保育所での対応が違えば子どもの混乱につながり、ひいては保護者へのストレスや保育所への不信感にも繋がります。
ここでは保育所の方針を押し付けるのではなく、保護者からの聞き取りを丁寧に行うことに注意してください。保育士は支援をする立場であり、保護者の気持ちや意見を尊重することを忘れないでください。保護者への傾聴と信頼関係の構築が要となります。その土台が出来ていないと前述したような「保育士の押し付け」「上から目線」という苦情につながりかねません。
保護者の負担を減らせる支援の情報提供を行う
「受容・寄り添い」による傾聴は保護者の安心感にはなりますが、現実問題の解決にはなりません。情報提供を行ったり繋げたりすることも一つの手段です。公的サービスの他にも、インフォーマルサービス(ボランティアやNPO団体)、民間企業のサービスの利用も視野に入れましょう。
また保育士は新時代の子育て世代を支援する立場であることから、最新の子育てを広めていくことも可能です。
「最近では子どもの強みを伸ばす子育てが主流なんです」「家事代行や買い物代行、シッターを利用している人も多いですよ」「子供を預けてお母さん自身の時間を楽しんでいる時代になってきてますよ」
など、相互の信頼関係によりますが、ちょっとした言葉がけで、これまでの「自己犠牲的な子育て」から「親も楽しむ令和の子育て」を発信していくことが出来るのではないでしょうか?
そのためにも、保育士自身が常にアンテナをはって情報収集を行うことが求められます。
先輩や上司に相談する
それでも保護者対応は難しいものです。「自分だけではうまくいかない」と感じたら、早めに先輩や上司に相談しましょう。若手の保育士だからこそ、どんどん年長者を頼りましょう。責任感や遠慮があるかもしれませんが、問題がこじれる前に、先輩や上司への早めの相談は社会人として必須です。
外部のスーパービジョンを受ける
先輩や上司に相談しても、解決しない時や納得できない時があります。解決しなくて困っている、保育所本来の理念や方針に反しているから納得できない……そんな時は外部のスーパービジョンを受けましょう。今ではコーチングやメンターという言葉も広まってきていますね。保育士の講習会などに参加して、講師と繋がったり受講者同士で人脈を広げたりするのも有効です。
カウンセリングを受ける
若手の保育士は、やる気に反して空回りしたり、業務の多さに忙殺されたり、社会人になり環境の変化が起こったりして、精神的なストレスを抱え込みがちです。「保育士になることが夢だったのに、仕事に行きたくない」という人は多くいます。「子どものためにも親を支援したい、家庭環境を変える必要性を感じている」という熱い気持ちを大切に抱き続けるためにも、保育士自身のメンタルケアが必要です。
カウンセリングというと敷居が高く聞こえるかもしれませんが、実際はどのような人のどのような話でも聞いてくれる、ある意味で「守られた場所」です。
まとめ
保育士の仕事は子どもだけではなく保護者への子育て支援も含まれます。そのためにも、保護者への「受容・寄り添い」に基づいた傾聴の姿勢や、信頼関係の構築を忘れないことが大切です。そして保育士自身のスキルアップのためのスーパービジョンを受けること、メンタルケアも怠らないことが、長い目で見た時に、あなたが保護者を支援することに繋がります。そしてそれが子どもたちの笑顔になっていくのです。
参考:
『保育所保育指針解説』平成30年2月、厚生労働省、
『人を動かす 文庫版』発行日:2016年1月20日、著者:D・カーネギー、訳者:山口博、発行所:株式会社創元社
『気づけない毒親』電子発行版:2019年6月24日、著者:高橋リエ、発行所:毎日新聞社
『カウンセリングについて|困ったときの相談先 – 厚生労働省』
『「チーム」と複眼的思考 ― チームアプローチ力とは何かについて考えるために―』
『悩みを抱える子育て家庭に寄り添い支援できるのは、保育現場だった!?保育ソーシャルワークを全国へ?』