「子どものためにも、私や家族が変わる必要があると思うんです」
「私や家族の関わり方が、あの子を苦しませているのかもしれないと気づきました」
「でも私は親にされてきたような子育てしかわからないんです。どうしたらいいですか?」
そのように相談に来られた保護者の方に対して、あなたができることは何でしょうか?
今回提案するのは、強みに基づいた子育てをまず相談者に施すということです。
「私が相談者を子育てするの? どういう意味?」と思われたでしょう。これは「親が子どもに」強みに基づいた子育てをするように、「支援者が相談者に」強みに基づいたサポートをするという意味です。
この記事では、相談者の悩みを受け止め共感することにとどまらず、前へ踏み出そうとする相談者の背中をそっと押してあげる、そんな支援をするポイントをお伝えします。
強み、ストレングスに基づいたポジティブ教育のメリットは支援にも使える
今は、強み、ストレングスに基づいた子育てや教育が注目されています。ポジティブ心理学の研究者であるリー・ウォーターズ氏が提唱したのが「ストレングス・スイッチ」「強みに基づいた子育て」です。
強みとは何か? 詳細で具体的な定義づけもありますが、リー・ウォーターズ氏が簡潔にまとめた定義は以下の通りです。
強みの定義とは?
ここで言われる強みとは、次のようなものです。
- 活力を与えてくれ、頻繁に活用して、いい成績が取れたりいい仕事ができたりするポジティブな特徴
- 生産的な方法で活用することで、目標の達成と成長につながる特徴
- 持って生まれた能力と、熱心な努力によって形成される特徴。
- みなに認められるとともに、周囲の人の人生にポジティブな影響を与える特徴。
強みに基づいた子育てが、子どもにいい影響を与えるのは想像するまでもありません。同時に、「強みに基づいた子育てをしたからと言って、子どもが調子に乗ることはない」とも断言されています。
「強みに基づく子育て」における保護者のメリットの紹介
強みを見つけて伸ばすことは、子どものみならず保護者にとっても良い影響を与えてくれます。
- 自分の強みを活用するため、親としてもひとりの人間としてもさらに有能になれる
- わが子のお手本になり、子どもが強みを活かす習慣を身につけられる
- わが子や周囲の人が強みを見つけられるように積極的に励ますことで、愛する者や大切に思う人とのすばらしい絆を結べる
親→支援者、子ども→相談者に置き換えてみたら……
前述したことを踏まえて、今度は「保護者」を「支援者」に、「子ども」を「相談者」に置き換えましょう。
支援者であるあなたが、相談者の強みを見つけて強みを活かすようサポートをしていけば、相談者自身の本来持っているエネルギーが目を覚まし、今度は相談者自身が子どもに対して「強みを見つけて活かす」「楽しい子育て」ができるようになります。あるいはパートナーに対して「強みに基づいた」接し方が発揮され、より良い関係が構築されることでしょう。もちろん、「強みを活かした支援」を行ったあなた自身も輝き始めます。
これ以上ない理想的なサイクルが生まれるわけですが、そのためには「強み」を見つける必要があります。リー・ウォーターズ氏は強みを見つけ出し、活かし、継続し、弱みに対しても応用できるように、複数のエクササイズを紹介しています。ここでは5つのエクササイズを紹介します。
1.支援者が相談者の強みを見つける
実はエクササイズに取り組む前に、既に大きな強みが現れていますよね。それは相談者が自身や家族の問題に向き合う覚悟と、よりよい未来を手に入れたいと願い、他者に相談する行動に出たことです。
- 自分や家族の問題に向き合う強さと勇気
- 良い方向へと変わりたいと願う希望
- 他者に助けを求められる、他者を信じることができる心
- 相談に訪れた行動力
- 支援を受けようとする柔軟性
「今日はどのような相談ですか?」ではなく、「ここに来られるまでにかなり悩んできたんですね」という労わりや「不安な中にも勇気をもって相談しに来てくれて、ありがとうございます」という強みと感謝を伝えることができたら、すでにリー・ウォーターズ氏の唱えるポジティブ心理学の出発点に立っています。
2.強み診断テストを活用する
強みを見つけるテストは研究者が開発していますから、信頼性は高く、客観的に見つめられます。もしも相談者ご本人が「私には強みなんてないんです」と否定されても、それは強みが隠されているだけです。テストにより自分でも気づかなかった結果が出ることによって、呼び覚ますきっかけになるでしょう。
しかしその結果がすべてだと妄信してはいけません。自分が考える強みと診断結果があわなくても、自分が考える強みを優先していいと言われています。
強み診断テストにも複数あります。
- ストレングス・エクスプローラー(10~14歳向け)
- ストレングス・クエスト(大学生向け)
- VIA-Youth(青年版)
- VIA-IS(成人版)
- ストレングスファインダー
3.支援者も一緒に自分の強みを見つける
支援者であるあなたも、上記のテストを一度受けてみると参考になるでしょう。その他には、以下のようなエクササイズが紹介されています。なお、ここでは親=支援者に置き換えています。
- 親=支援者の役割をうまく果たしたときの体験について、どう感じたら、相談者にどのような影響を与えたか、自分で活用したと思う自分の強みを書き出す。
- 強みに基づく3つのアプローチのうち、自分がどれに当てはまるかを知る。
・会話を通じて相談者の強みを伸ばす「強みコミュニケーター」
・コーチングと実践を重視する「強みアクティベーター」
・相談者の強みを発揮する機会や状況を作り出す「強みクリエイター」 - 他の支援者の体験談を知る
これらのエクササイズは幸運なことに支援者の日常の業務にも取り入れやすく、周囲の評価にも直結します。相談事例に対して関係者間での会議、同僚との雑談や上司との面談、外部の講習参加によって外部の支援者と情報交換も行えますね。
4.支援者と相談者が互いの強みを話し合い生活に取り入れる方法を考
お互いの強みを見つけ出したら、今度は実践していきましょう。これはすぐには難しいので、簡単な場面から取り入れることを心がけてください。そうやって小さな訓練を繰り返すことで、だんだんと習慣化して、支援者も相談者もそれぞれの普段の生活に反映させることができるようになります。
相談者の生活の中の困りごとを例にとって、相談者の強みを活かして、別の視点からとらえることができるかもしれない、という助言をするのです。繰り返しになりますが、いきなりトラブルに対して使うことは難しいので、まずは小さな場面から取り入れることを意識してもらいましょう。
助言というよりも、一緒に考え、一緒に実行可能な方法を探っていくという方ががいいですね。
支援者が強みを生かしたお手本を示す
そのためにもまず、支援者がお手本となるのもよい手法です。
例えば、私の強みはこのようなものです。
- 調和性
- 内省
- 責任感
- 最上志向
- 慎重さ
私は調和性を活かして「会議では積極的な発言よりも、場を和ませることで円滑に進ませる」ことができます。内省は自分の中でしっかり考え、知的好奇心が強く勉強熱心なので「相手が自分と違う主張をしても『そういう考え方もあるのか』と自分の新たな知識になる。相手を理解する一歩にもなるし、実際の仕事に反映させればこれまでより良い成果を出す」こともできます。
このように具体例を話すことで、強みとはどのように日々の中に取り入れることができるのか、困難な場面にどのように活用すればいいのかを示すのです。
子ども同士が喧嘩しているときに、反射的に「うるさい!」と怒るのではなく、私自身の調和性と内省を活かし「二人ともが楽しく遊べるにはどうしたらいいだろう。この子たちは何を感じているのだろう」とみることができれば、状況が良くなると思いませんか?
5.定期的にお互いの強みについて確認しあう
強みを見つけて、方法を探して、終わりではありません。繰り返し、相談者と支援者の強みを確認しあって、生活の中でどのように取り入れることができたか、弱みに対して強みを使ってカバーしていくにはどのようにすればいいのか、そのようなことを継続して確認することが大切です。
振り返り、自己評価、フィードバックと言ってもいいでしょう。習慣化させ、より磨き上げていくには欠かせないステップです。
まとめ:「強みを活かす」場所は子育てだけじゃない
これまで紹介したことは、実はコーチングの技術として根付いています。子育てのみならず職場や社会福祉の対人援助にも用いられています。実践するためには、漠然と「ほめればいいんでしょ?」という認識ではなく、具体的な知識と手法が必要になってきます。それができているか、いないかで、支援やコーチングの質が変わってきます。
改めて一度、強みに基づく子育てや、強みを活かした支援やコーチングについて学んでみてはいかがでしょうか?
相談者だけではなく、あなたや、あなたの周りの人をもポジティブにさせてくれるはずです。
参考:
『ストレングス・スイッチ 子どもの「強み」を伸ばすポジティブ心理学』電子書籍版発行:2018年9月21日、著者:リー・ウォーターズ、訳者:江口泰子、発行所:株式会社光文社