愛着についての記事を読んだ後に、このように感じた方はいませんか?
「私たち夫婦は、たぶん私もパートナーも不安定型の愛着スタイルだなぁ。今後、うまくやっていけるのかな?」
「夫婦で『子どもが欲しい』と話しているけど、私は不安定型愛着だとわかった……子どもを幸せにしてあげられるか不安になってきた……」
「あそこの夫婦は必ずしも安定型同士には見えないけど、なんで家族仲がいいの?」
不安定型の愛着スタイルについて知れば知るほど、不安や疑問も出てきますよね。特にご自身の家庭をお持ちの方は、これからの夫婦関係や子どもへの影響が気になるところでしょう。
今回は不安定型同士のパートナー関係でも家庭をうまく築いていくことはできるのか? ということについて、実際の例を紹介しながら見ていきます。
『愛着スタイル診断テスト』はオンライン上でもセルフチェックができるので、お時間がある時に試してみてください。ただし悲観的になるのではなく、「こういう傾向があるんだ」という認識にとどめておきましょう。
愛着スタイルの4パターン
前回の愛着の記事においてもご紹介しましたが、改めておさらいしましょう。愛着とは子どもと保護者との間で結ばれる特別に親密な関係のことです。例えば怖いことや不安なことがあったときに、子どもが落ち着くために、お母さんに抱っこしてもらうといった行動ですね。そして安定した愛着には安全基地が必要です。先の例でいうと母親が当てはまります。
愛着の中でも「愛着スタイル」といった場合は、その愛着の形が他人に対してどのような形で現れるのかを分類したものをいいます。
1.安定型(自律型)
幼いころから安全基地を得ていた、もしくは愛着の傷を乗り越えた人に見られます。他者に寛容で共感的、信頼と尊敬をもって接するので対人関係は安定し、社会性もあります。他のグループに比べて病気や離婚のリスクが少ないです。
ただしあまりにショックな出来事があったり、不安定型の人に引きずられたりすると、愛着スタイルが不安定型に変化することもあります。
2.不安型(とらわれ型)
人に嫌われるのではないか、捨てられるのではないかという不安にとらわれています。共感性が高すぎるために、他人の顔色を過剰に伺い献身的に尽くしがちです。不安型の人は恋愛モードになりやすく、恋人やパートナーに依存しがちですが、一方でサービス精神が旺盛で甘え上手なところもあります。
不安型の人に対しては、本人の気持ちを優先してあげることが大切です。また不安型の人の求めには速やかに対応しましょう。
「メールしたのに何で返事してくれなかったの!?」
「重要な内容じゃなかったから、後でいいかと思った。それくらいでうるさく言うなよ」
このようなやり取りは不安型の人を傷つけてしまいます。
3.回避型(愛着軽視型)
冷静で感情に左右されることがありませんが、突如として怒りのスイッチが入るため「冷静なのにキレやすい」と評価されることも。
回避型の人は、感情的な結びつきや共感といったものを軽視する傾向があります。感情よりも実益重視な部分もあるため、冷静な判断が求められる専門職に向いているともいえますね。回避型の人が他者と関係を持つとき、ベタベタした関係よりも、共通する世界を持つことが重要です。回避型の人にとっては、「親密になる=責任が生じる関係」でありそのストレスから逃げだすという例が少なくありません。これは無責任にも受け取られますが、互いの利益が合致すれば最良のパートナーとなります。
4.恐れ・回避型
不安型と回避型が入り混じっているスタイルです。仲良くなりたい、だけど親密な関係にストレスも感じる。不安型のように上手く甘えられない、かといって回避型のように孤独が平気というわけでもない。そのような複雑な気持ちを抱えています。回避型のように心の鎧が固い面もありますが、一度心を開いてくれるとすんなり関係が構築されることもあります。
安定型×不安定型のパートナー関係では安定型が支える
ここまで愛着スタイルを見て来ると、「安定型×安定型がいいんだな」と思われるでしょう。実際に、対人関係において安定型同士の方がうまく進みます。
不安定型×安定型
では「不安定型×安定型」ではどうでしょうか? 実は、この場合も安定型同士と遜色ないぐらい関係が落ち着いています。これは安定型の人が不安定型の人にとっての安全基地となり、不安定型の人へのサポート能力を発揮するためです。また安定型の人の中には、自分自身が家族の問題や愛着の傷を乗り越えたパターンもあります。その場合、支援者としても優秀なので、パートナーの傷に寄り添いながら癒すことができるのです。安定型の人はパートナーを支えて相手の不安を癒しつつも、子どもに対してもフォローを怠らないので子どもも安定型となる傾向があります。
不安定型×不安定型
そして「不安定型同士」ですが、こちらは些細なことからトラブルが起きやすい組み合わせです。
例えば、不安型の女性と回避型の男性がいるとします。不安定型の女性は甲斐甲斐しく相手に尽くすのですが、同時に相手からの愛情も過剰に求めます。それに対して回避型の男性はうんざりし、二人の間で衝突が絶えないパターンです。
あるいは、不安型の女性と不安型の男性でも、共依存や支配関係が生まれる傾向にあります。不安型の人は不安が強まると疑り深くなり、攻撃に転じることがあります。
「じゃあ不安定型の私たち夫婦は今後離婚する可能性が高いの?」
「夫婦仲が良いと思っていたけど、もしかして子どもには悪影響なの?」
と思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。次に紹介するのは、不安定型同士でも理想的なパートナーになれるという話です。
不安定型×不安定型でも成功例はある
実際に不安定型同士のカップルの事例はあります。そして不安定型同士で築かれた家庭であっても、ある条件を満たせば子どもにとっては安心できる家庭となり、子どもの愛着形成に支障もありません。
その条件というのが、「パートナーの片方が愛着の傷を克服した、または克服の途中にある」「自分自身が相手にとっての安全基地であり、自分にとっても相手が安全基地である」ということです。克服が完了してなくてもいいですが、克服しようともしていない人では、共倒れになる可能性が非常に高いとされます。
回避型×不安型の成功例
例えば、エリク・エリクソン。発達心理学やアイデンティティ理論によって名が知られており、心理学を勉強した人ならば聞いたことがあるでしょう。彼にはジョアンという妻がいましたが、二人とも不安定な愛着を抱えたもの同士でした。エリクソンは親密になったジョアンが妊娠したと知るや否や、父親になることにしり込みします。しかし彼自身が「父親がいない子ども」であり、その苦しみを知っていたがゆえに、子どもに同じ苦しみを味わわせないと決心しました。それから彼の愛着の傷の克服が始まったのです。
結婚してからも、エリクは家事には無関心で、ジョアンにまかせっきりだったが、ジョアンは、エリクに比べれば、はるかに自立した女性だった。彼女は、エリクの人生にしっかりとした秩序と骨組みを与え、独自の道を歩んでいけるように支えたのである。家庭では「邪魔者」「問題児」扱いしかされなかった二人だが、理想的ともいえる家庭を築くことになる。
『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』電子書籍発行:2011年10月28日、著者:岡田尊司、発行所:株式会社光文社
これは、回避型の人が家庭を疎かにしている間、不安型のパートナーが世話を熱心に行うという組み合わせですね。回避型の人にとっては、不安型の女性のおかげで家庭が安全基地になっていたことを意味しています。
不安型の人も外界に出てストレスにさらされるよりも、家庭内の世話をするというピッタリな仕事を見つけた理想的な例でしょう。エリクソンが回避型の傾向を持ちながらも克服しようとした(子どもに同じ苦しみを味わわせない)ことも、大きな要因ですね。エリクソンは回避型ではありましたが、診療中に子どもの世話を優先したり、家族との団らんの時間を大事にしたりというエピソードも残っています。夫婦はともに不安定型ではあったけど、子供を含めた家庭という視点で見ると安定していたと言えるでしょう。
回避型×回避型の成功例
また回避型同士でも共通の趣味や世界を持っていれば、お互いにとって最良の関係が結べるというのが以下のエピソードです。
ある研究者の夫婦は、おしどり夫婦として仲間内にも知られている。
『回避性愛着障害 絆が希薄な人たち』電子書籍版発行:2014年1月10日、著者:岡田尊司、発行所:株式会社光文社
だが、いつもいっしょの時間を過ごしているというわけではない。二人とも研究者なので、毎日遅くまで研究に追われている。(中略)
いっしょにいる時間が少なくても、二人の関係が揺らぐことがないのは、趣味や関心が共通していることが与っていた。夫はバイオリンを弾き、妻はフルートを奏でる。どちらも、セミプロ級の腕前で、月に一回くらい、いっしょに演奏をする。
共通する趣味があり、そこで結びついてさえいれば、お互いに満足している。それ以外にベタベタしたいとも思わない。
とはいえ、これはかなり限定的なものです。誰もがこのようにうまくいくわけではありません。
年の差カップルももしかして……?
その他にも、親子ほどの年齢差があるカップルが幸せそうなケースも、時には愛着の傷が絡んでることがあります。例えば、父親と娘のような年齢差のカップルを想像してください。これは、幼少期に父親の愛情不足だった人同士の組み合わせとも考えられます。そこには、
- 夫は、幼い妻に対して父親のようになることで、自分の「理想の父親像」を満たす。
- 妻にとっても、かつて得られなかった父性愛を得られる。
このような関係が隠れてます。もっとも、全ての年齢差カップルがこのパターンというわけではありません。
不安定型同士が結びつく秘訣は「愛着の克服」と「安全基地」
これまで見てきたように、不安定な愛着スタイル同士であっても、互いに不足しているところを補い合うと理想的なパートナーシップとなり得ます。さらに子どもにとっても、両親や家庭環境が安定しているので、親子間の愛着形成も安定したものとなるでしょう。
そして、そうした理想的な関係を結ぶためには、下記の2点が要となります。
- 片方が愛着の傷を克服している、または克服しようとしている途中である。
- 自分が相手にとっての安全基地となり、自分にとっても相手が安全基地であること。
この条件を満たしてこそ、不安定型同士でも安定したパートナーシップを結ぶことができ、子どもにとっても安心した家庭環境が生まれます。お互いの不足部分を補い合い、一時的な関係ではなく安定したものとなる……こうしたことを「相性」と呼ぶのかもしれませんね。
不安定型愛着スタイルに気づいたら大きな一歩
もしもあなたやあなたのパートナーが不安定型の愛着スタイルであると気づくと、これまでのパートナー関係における困りごとの正体が見えてくるでしょう。
- 「自分は一生懸命なのに、私以外の家族が思うように動いてくれない」
- 「なんとなく家にいづらくて帰りたくない」
- 「困難を乗り越えたと思ったら別れを突き付けられた」
これらの悩みが愛着スタイルが原因だとすれば、その傾向と原因を知ることで克服することはできます。もしあなたがパートナーや家族との関係で悩んでいるのなら、一度、愛着に詳しいカウンセラーなど第三者に相談してみてはいかがでしょうか?
子どもや夫婦関係のことをきっかけに相談したら、もっと昔からの愛着の傷が原因だったと判明することがあります。あなた自身、あるいはパートナー自身の不安定な愛着スタイルが原因で、困りごとが起きているのだとわかれば、問題が起きやすい状況や対処法が見えてくるでしょう。
愛着の傷を克服しようと動き始めれば、パートナーや夫婦関係のみならず、自分の親や我が子との関係まで改善される可能性は十分にありますよ。
参考:
『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』電子書籍発行:2011年10月28日、著者:岡田尊司、発行所:株式会社光文社
『回避性愛着障害 絆が希薄な人たち』電子書籍版発行:2014年1月10日、著者:岡田尊司、発行所:株式会社光文社
『不安型愛着スタイル 他人の顔色に支配される人々』発行:2022年11月30日、著者:岡田尊司、発行所:株式会社光文社