キャリア・パスポートとは?まずは大人がキャリア・パスポートの意義を考えよう!

家族写真

「これからの世界はどんな風になるの?」
「これからの社会で正しいものってなに?」
「ぼくたちは、何を目指して、どんなことを身に付ければいいの?」
このような素朴な質問を子どもから投げかけられても、困ってしまう大人は多いのではないでしょうか。
また、なにかしらの回答をしたところで、それが正解かはわかりません。
なぜなら、大人にもこれからの社会のあり様などわからないからです。
ただしそんなとき一つ、子どもたちに答えられることがあります。
それは、「自分で学び、自分で考え、自分で判断する。その力が必要なんだよ。」ということ。
その学びを深めるにあたり、新たに教育現場で導入されたのが「キャリア・パスポート」です。
本記事ではキャリア・パスポートの概要とその意義、そして私たち大人が考えるべきことについて考察していきます。

キャリア・パスポートが生まれた背景

学習中のひらめき

2020年小学校から順次、新しい学習指導要領がスタートしました。そこで導入されたのがキャリア・パスポートです。
まずはキャリア・パスポートが導入された背景と、キャリア・パスポートがどんなものかについて解説します。

キャリア・パスポートと生きる力

新しい学習指導要領で重要視されているのは、「生きる力」です。学校で学んだことが「生きる力」となって、先の人生につながることを目標としています。
IT、AI、あらゆる仕事の自動化、国際化、スマホの普及等々、目まぐるしく変化する社会。
そんな未来を生きる子どもたちに必要なのは、「これからの社会がどんなに変化して予測困難になっても、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、それぞれに思い描く幸せを実現する」力です。
この「生きる力」を身に着け、「将来、社会的・職業的に自立し、社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現する」ための能力を「キャリア教育」では培っていきます。
そして、このキャリア教育において導入されたのがキャリア・パスポートです。

キャリア・パスポートの意義

これまでのキャリア教育は、いわゆる進路指導や就業体験といった、狭い範囲でとらえられてきました。しかしこれからの社会において大事なのは、もっと広い視点で、色々な学びを自身のキャリアに生かしていくことです。
それぞれの教科の知識を覚えるのは大事ですが、そこでの学びをどのように「生きる力」として発揮していくか。それは小学校から高校、そして大人になるまで、ずっと考え、進化させていく必要があるでしょう。
授業だけではありません。部活も、運動会も、習い事も、すべて未来を生きるための「生きる力」に換えていくことが大事です。
そのような学びと考察を、継続的に記録していくのが、キャリア・パスポートです。キャリア・パスポートは、学びのプロセスを記録し、自身の成長を自己評価していくためのものです。

キャリア・パスポートに何を書くか

子どもたちは成長しながら、さまざまな知識と学びを蓄積していきます。成長する過程で、好きなものが変わり、将来の夢が変わり、興味もうつろいながら、本当に何が好きか、自分はどう生きていきたいかを決めていきます。
その学びは、小学校6年間、中学校3年間などと期間で区切るものではなく、ずっと続いていくものです。
キャリア・パスポートはこの一貫した学びの記録であり、振り返りながら未来を考える、ポートフォリオの役割を果たします。記録をしながら自分の興味、学び、未来について向き合うことになり、その成長が形として残ります。

キャリア・パスポートは 「自己有用感」も醸成する

「数学の公式を覚え、テストで100点取った。」で終わるのではなく、「僕は事実をシンプルに表す数学に惹かれた。大学では統計学というのを学んでみたい。」とすれば自分の適性や興味を認識できます。
国語の教科書を音読して終わるのではなく、「国語の教科書の話に感動した。私も人に感動を与えられる仕事がしたい。」とすれば具体的な目標も見つかりやすくなるかもしれません。
「家庭科の調理実習が楽しかった。」で終えるのではなく、「料理の力はすごい。栄養学を学んで、本気で料理のプロを目指してみたい。」と夢を語れるようになるかもしれません。
学びを深めるにつれ、より今の自分、未来の自分が具体的になり、思いは強くなり、自身の信条となり、「自己有用感の醸成や自己変容の自覚」に結びつくでしょう。
「自己有用感や、自己変容の自覚」は、そのまま生きる喜びにつながるものです。子どもたちが、自分を大好きになるはずです。キャリア・パスポートにはそのような効果も期待できると考えます。

キャリア・パスポートと大人の関係

絵を描く少年

たいへん意義深いキャリア・パスポート。私たち大人はどのように扱えばよいでしょうか。
キャリア・パスポートは学校でのみ使うものではありません。生徒一人一人の「生活すべて」に関わる、学びの記録です。先生だけでなく、保護者、地域の人たち、つまり大人はみんな、関わってくるものです。

教師は「対話的に関わる」ことが大切

キャリア・パスポートの記述や自己評価の指導において教師は、子どもに対し「対話的に」関わることが重要です。
「子どもの意思に反する記録を強いたり、無理な対話に結びつけたりしないよう」配慮しなければいけません。
そのためには、子どもたちそれぞれの目標の修正をアドバイスしたり、個性を伸ばしてあげようという姿勢が大事です。

キャリア・パスポートに模範解答はない

キャリア・パスポートには「模範解答」はないでしょう。
また、いつも「楽しい」「ポジティブ」な内容である必要もないと言えます。迷い、悩み、時には後退してもいいのです。「キャリア・パスポートに記述する」ことでそれも「成長の一部」となるでしょう。
大人はそれを見守り、アドバイスしてあげる姿勢が大事だと考えます。

キャリア・パスポートには家族や地域住民も関わる

キャリア・パスポートは、「教科学習」「教科外活動」(学校行事や部活など)に加え、「学校外の活動」の、3つの視点で振り返ることが留意点に挙げられています。
つまり学校活動だけでなく、地域活動や家庭内での取り組み、習い事なども、しっかりと記録していく必要があるのです。そのため、キャリア・パスポートは、決して学校だけの「教材」ではありません。
保護者や地域住民、すべての大人がその意義を理解しておく必要があります。

キャリア・パスポートは、大人が未来を考えるきっかけにもなる

子どもたちの未来を考えるにあたっては、私たち大人が社会の姿と、これからの子どもたちの学習について考える姿勢が不可欠です。
キャリア・パスポートは、そのきっかけを、大人にも与えてくれるかもしれません。

キャリア・パスポートの意義をまずは大人が考える

にこやかな三者面談の様子

本記事では新しい学習指導要領のもとでスタートしたキャリア・パスポートについて、その概要や意義について解説してきました。
キャリア・パスポートの記録においては、教師や学校関係者はもちろん、すべての大人が指導的立場にあたります。
「キャリア・パスポート(例示資料)小学校指導者用」にはこうあります。
「わからないことは しつもんしましょう みんながたすけてくれます どんどんしつもんしよう」
子どもから何かを質問されたとき、私たちはキャリア・パスポートの意義を理解し、未来を明るく感じてもらえるような答えができるでしょうか。
また、「キャリア・パスポート(例示資料)高等学校指導者用」にはこのような記述があります。
「人が、生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見いだしていく連なりや積み重ねが、『キャリア』の意味するところです。」
高校生からキャリアについて相談される前に、私たち自身が自らの役割や価値について、考えているでしょうか。
子どもたちがこれから身に着けていくべき「生きる力」、そしてその記録である「キャリア・パスポート」は、私たち大人が考えるべきことを、提示しているように思います。

参考資料
平成29・30・31年改訂学習指導要領(本文、解説):文部科学省
キャリア教育:文部科学省
「キャリア・パスポート」の様式例と指導上の留意事項
キャリア・パスポート(例示資料)小学校指導者用
キャリア・パスポート(例示資料)高等学校指導者用