「アクティブ・ラーニング」の目的と内容とは?新しい学習指導要領が目指す「アクティブ・ラーニング」の視点を理解しよう

集団登校、朝礼

2020年度、小学校から順次実施された新しい学習指導要領では「生きる力」を育むことが重要視されています。

そして身につけたい資質・能力として「知識及び技能」に加え、「思考力、判断力、表現力など」「学びに向かう力、人間性など」の3つの柱が掲げられました。

そこで大切なのは、子どもたち自身が自ら学び、表現していく姿勢です。

それを醸成するために、重要視されているのがアクティブ・ラーニング。学校をはじめ、さまざまな教育現場でアクティブ・ラーニングは取り入れられていますが、それは単に実施すればよいというものではなく、その意義を理解しておく必要があります。

本記事ではアクティブ・ラーニングの目的や内容、その意義について解説します。今日の教育に携わるすべての人に、認識しておいてほしい内容です。ぜひご覧ください。

アクティブ・ラーニングとは?

ひらめき

まずはアクティブ・ラーニングとはどのようなものなのか、その目的や内容について解説していきます。

学習指導要領に取り上げられる以前からアクティブ・ラーニングの概念は教育現場に取り入れられてきました。

そこで大事なのは、アクティブ・ラーニングの手法を実践するだけでなく、その意義や目指すところを教育者が認識して、子どもたちに向き合うことです。

この考え方は、学校の教師のみならず、保護者、地域、フリースクール等、教育に携わるすべての大人が理解しておくべきことと言えます。

アクティブ・ラーニングの目的

これまでの学校教育は、先生の教える内容を生徒が受動的に学び、知識を詰め込んで、習得度をテストで測るといったスタイルが一般的でした。

しかし、世の中はIT技術の発展や、グローバル化などを受け、日々劇的な変化を遂げています。

PCやスマホが普及し、あらゆる知識に個人がアクセスできる時代になりました。しかし一方で、「なにが正しくて、どのように生きていけばよいのか」確固たる正解はなく、社会のあり方は、予測困難なものとなっています。

そのような世界を生きる子どもたちにとって大切なのは、単に知識を詰め込むことではなく、自分から学び、課題を発見し、判断し、行動していく、「主体的な姿」だと言えます。

そのような能力を育てる上で、重要とされるのが、能動的な学習、アクティブ・ラーニングです。

アクティブ・ラーニングは、「学習者が能動的に学習に取り組む」学習法であり、その学習を通して、子どもたちが自ら学ぶ姿勢を身につけていくことを目的としています。

アクティブ・ラーニングはアメリカで生まれた教育概念

アクティブ・ラーニングは、今回の新しい学習指導要領ではじめて生み出された考え方ではありません。

その学習概念が定義されたのは、1980年代から1990年代にかけてのアメリカでのこと。その内容は、「学生が実際に物事に取り組み、自分の行動について考える」というものです。

そのための手法も生み出され、今日の学校教育でも実践されていますが、重要なのはその意義を教育者がしっかりと理解し、それがどうして今日の日本の子どもたちにとって大切なのか、理解しておくことです。

それを理解しておかないと、ただ手法をなぞるだけのものになり、子どもたちを正しく導くことができません。

アクティブ・ラーニングの内容

アクティブ・ラーニングの内容として、「ケースメソッド」と呼ばれる学習法があります。ケースメソッドは、実際に起きた事例などを題材に、学生がその解決策を自分から考えるもの。

明確な解答を求めるのではなく、自分から「答えのない問題」に答えを導き出していく能力が必要になります。

また、「協調学習」も、アクティブ・ラーニングの重要な考え方です。協調学習は学生同士が対話し、意見を出し合いながら、協力して答えを出していく学習です。

答えを出すためには、自分の考えを相手にわかるように説明しなければいけませんし、他人の考えも理解する必要があります。

アクティブ・ラーニングでは、このような学習を、ディスカッションなどを通して体験していきます。

アクティブ・ラーニングの手法例

それでは、アクティブ・ラーニングの代表的な手法を2点紹介します。

まずは、PBL(Project Based Leaning)と呼ばれる手法です。

PBL(Project Based Leaning)

  1. なんらかの課題を学生に提示する。もしくは自分で課題を見つけてもらう。
  2. グループ内でアイディアを出し合い、課題解決に必要な情報を集めて、解決のための道筋を定めていく
  3. 自主学習を行い、課題解決のための知識や情報を集め、その方法をグループで話し合う
  4. 学習内容を発表する

この手法を通して、学生は自ら考え、他者の意見も聞き、協力して解決策を想定。そして自分で情報を集め、知識を応用して自分の言葉で表現する、という過程を体験します。

次に、ジグソー法と呼ばれる手法を紹介します。

ジグソー法

  1. 学生全体へ課題と、複数の学習内容を共有する
  2. グループを作り、それぞれのグループ内で学習内容をメンバー1人1人に割り振る
  3. 一度グループを解散して、今度は学習内容別で「エキスパートグループ」を作る
  4. それぞれの「エキスパートグループ」で学習内容について学び、元のグループの他のメンバーに、その内容を伝える方法を考える。
  5. 元のグループに戻って、各メンバーの学習内容を総合して、はじめの課題に取り組む

 

 

ジグソー法の過程で学生は、学習内容を理解するだけでなく、他人に伝える表現力、そのための責任感、他人との協働による合意形成などを経験していきます。

いずれのアクティブ・ラーニングでも、学生は「自分から学び、表現していくこと」の難しさを知るでしょう。他人の意見を理解しつつ、自分の思いを伝えることに苦労することもあるはずです。

しかし、そのような学びを通して、自ら考え、行動していく、「生きる力」が養われていくのです。

アクティブ・ラーニングで大人が考えるべきこと

世界地図でグループ学習

いくつかの手法を通して、「自ら学び、他者と協働の上、表現すること」を苦労しながら学んでいくアクティブ・ラーニング。

意味のある活動ですが、ただやるだけでは、子どもたちにその意義は伝わりません。また、アクティブ・ラーニングが失敗し、かえって子どもたちを傷つける恐れすらあります。

大切なのは、アクティブ・ラーニングの意義を、大人がしっかりと理解して、その意義のもと、正しい指導を行うことです。

新しい学習指導要領の目指すアクティブ・ラーニング

そもそもなぜ、新しい学習指導要領で、アクティブ・ラーニングが重要視されているのでしょうか。

平成29・30年に改定された新しい学習指導要領について周知するため、文部科学省が作成したリーフレットに関する資料、「リーフレットを読み解くためのヒント」には下記のように記されています。

「アクティブ・ラーニング」と聞くと,グループ・ディスカッションや子供たちがプレゼンテーションをする授業形態をイメージされるかもしれませんが,新しい学習指導要領が目指す「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)の視点からの授業改善」とは,子供たちの「学び」そのものが,「アクティブ」で意味あるものとなっているかという視点から授業をより良くしていくことを指します。
出典:新しい学習指導要領リーフレット 制作後記~リーフレットを読み解くためのヒント~:文部科学省

つまり、アクティブ・ラーニングを実施するうえで重要なのは、活動の精度というよりも、生徒が学習を能動的(アクティブ)に行えているかという視点です。

アクティブ・ラーニングの授業がうまくいったか否かよりも、子どもたち1人1人が、学習を自分のものとしてとらえているかが重要となるのです。

そのように考えると、アクティブ・ラーニングの考え方は、その手法を経験する時間だけでなく、あらゆる学習に関わってくることになります。

それは学校現場のみならず、家庭、地域、フリースクール等、子どもの教育に関わる全ての場面で必要となる視点と言えるでしょう。

アクティブ・ラーニングの問題点

アクティブ・ラーニングにはいくつかの問題点が指摘されています。

例えば、アクティブ・ラーニングに参加する学生が議論を深めるにつれ、言い争いになってしまい、関係が悪くなってしまう点。

あるいは、意見を述べるのに苦手意識のある学生が、うまく参画できずに自信を失ってしまうことなどが挙げられます。

ましてや、生徒が教師の顔色をうかがい、承認を求めるような態度で臨む学習では、本来のアクティブ・ラーニングの意義とは異なるものになってしまいます。

そういった事態を防ぎ、子どもが「能動的に学習する」という本来的なアクティブ・ラーニングの学びを得るには、大人のしっかりとした監督が必要です。

大人はアクティブ・ラーニングの意義を理解する必要がある

小学生の列とドリル

本記事では、新しい学習指導要領でも重要視されているアクティブ・ラーニングの概要と、その意義について解説してきました。

アクティブ・ラーニングは、子どもたちが、自分で考え、自分で情報を得て、自分で行動していく、能動的な姿勢を育てる学習です。

その姿勢は学校教育だけでなく、子どもの教育にかかわるあらゆる場面で、重要視されるべき考え方です。そしてその意義を、大人はしっかりと理解しておく必要があります。

ディスカッションや、グループ学習で、「論破」が目的になったり、自身の表現がうまくできない生徒の、自己肯定感が下がったりするような事態は適切ではありません。

大人が満足する答えを導き出した者が勝ちというような学習ではないのです。

重要なのは、子どもが自ら考えて、答えを導き出そうとする姿勢を大人が後押しすることです。それはひいては、自分の人生を、自分で切り開いていく能力を育むことにつながります。

その点では、教師だけでなく、すべての大人がその役割を担っているのです。

子どもが、混とんとした時代を生き抜く力を身につけていくために、大人は、アクティブ・ラーニングの意義について、しっかりと理解しておく必要があるでしょう。