アスリートや経営者など、多くの人が取り入れているコーチング。スポーツやビジネスの世界では、その重要性が広く認知されています。しかし、コーチングは大人にだけ有効なものではありません。それは子どもに対しても、良い影響を与えるものです。
コーチングの姿勢で子どもに向き合うことは、子どもの自主性や自己肯定感の育成につながります。そうして養われる能力は、これからの時代を生きるうえで不可欠なものになるでしょう。
本記事では、コーチングが子どもの自主性や自己肯定感を高める要因や、子どもに対するコーチングの方法について考察していきます。
子どもにコーチングが必要な理由とは?
大人が行うコーチングは主に、クライアントの目標を明確化し、それを達成するための方法を、クライアント自身の思考と行動から導くことを目的としています。
ビジネスの成功や、スポーツでの好成績など、大人は結果をある程度想定し、戦略的にコーチングを取り入れるかもしれませんが、子どもの場合はそのような明確なゴールがあるとは限りません。
では、コーチングが子どもにもたらす効果とはどういったものなのでしょうか。
コーチングは子どもの自主性を育て、やる気を引き出す
コーチングには子どもが自ら考え、決定し、やる気を持って行動していく能力を育てる効果が見込めます。
コーチングは、学校のテストや成績表のように、何らかの尺度によって子どもを評価するものではありません。子どもの内面にある思いや、それに伴う行動を肯定していくものです。
その過程で子どもは、自分の考えや意見、やりたいこと、やるべきことを自分自身で決定していくことになります。
そこで子どもから発せられた考え、言葉を大人は否定せず、見守ることで、子どもはさらに自信をもって自己決定を行えるようになるでしょう。これを繰り返すうちに、子どもの自主性が育っていきます。
また、自分自身で決めた内容に対しては、子ども本人も行動することに抵抗がありません。物事に取り組むうえでのやる気も、同時に高まっていくのです。
コーチングは子どもの自己肯定感を高める
大人が子どもを一方的に評価する場合、一定の評価基準に沿って判断していきます。基準をクリアしている子どもを「〇」、いたらない子どもを「×」とする学習を繰り返すうちに、良い評価を得られなかった子どもは、自己肯定感が下がってしまいます。
その結果、自分に自信を失い、「どうせ自分にはできない」と、努力すらしなくなってしまうかもしれません。そうなると、意欲と行動力、どちらも減退するという悪循環が生じてしまいます。
しかし、そのような子どもは、単に自分の思考を整理できていないだけかもしれません。子どもも「やりたいこと」「やるべきこと」「やってはいけないこと」などを認識していながら、その優先順位や、向き合い方が自覚できていないだけの可能性があります。
そんな時、子どもの内面にある思いを引き出し、それを承認していくうちに、子どもたちが物事を学ぶ姿勢や行動に自信を持ち、飛躍することは大いにありえることです。
自己表現が苦手な子や自分に自信が持てない子、自分の居場所が見出せない子であっても、自己肯定感を高め、行動していく力を得る効果が、コーチングには期待できるのです。
子どもの自己肯定感を育てるコーチングの方法
子どもの自主性と自己肯定感を伸ばす可能性のあるコーチング。それではどのような姿勢で、子どもに向き合えばよいのでしょうか。
「コーチングによって、子どもがどういった心持ちになるか」という点に注目しながら、解説していきます。
子どもに寄り添い傾聴する
コーチングにおいて重要なのは、相手(子ども)の声を傾聴することです。傾聴とは、相手の言葉を否定せずに、真剣に話を聞くこと。良いも悪いも判断せず、子どもに自由に話をさせてあげることが大事です。
たとえ、不適切な発言をしても、それを否定してはいけません。また、後ろ向きな言葉が出ても、励ますこともしません。「そんなことがあったんだね。」「そんな気持ちになったんだ。」などと、「〇」も「×」も付けずに、子どもの気持ちを尊重してあげましょう。
そうすることで子どもは、「自分の思いを自由に表現していいんだ」という安心感を抱くことでしょう。
オープンクエスチョンを意識して質問する
こちらから子どもに話しかける際は、感想や評価を下すのではなく、質問をします。その際、「はい」「いいえ」で答えられる「クローズドクエスチョン」ではなく、子どもの言葉で自由に回答できる「オープンクエスチョン」を投げかけるよう、意識しましょう。
「どうしてそんな風に考えたのかな?」「なんで、それをやってみたいと思うの?」「どうしたらできるようになるかな?」など、本人が自ら考えることを促します。
ただし、オープンクエスチョンであっても「どうしてできなかったの?」「どうやったらできるようになるの?」など、子どもを問い詰めるような質問の仕方は避けましょう。「結局自分の話は聞いてもらえない」と、子どもが心を閉ざしてしまうかもしれません。
コーチングでは、相手を肯定してあげる姿勢がなにより重要です。
褒めるのではなく、ありのままを承認する
コーチングで重要なのは、相手のありのままを承認してあげることです。子どもを肯定的に認めるという視点で考えると、褒めてあげたくもなりますが、それも避けた方が良いでしょう。
褒められると子どもたちは、当然うれしい気持ちになるものです。しかし、それを行っているうちに、大人に褒められることが正しいと考え、それを求め行動するようになります。
しかし、育みたいのは子どもが自分で考え、自分で問題解決していく姿勢です。他人の顔色をうかがい、自分の承認欲求を満たしていくようでは、かえって考えが制限されてしまいます。
また場合によっては、「自分を無理に褒めようとしている」「馬鹿にしている」などと感じ、かえって大人への不信感がつのることもあります。
もし評価してあげたいと感じた際は、「あなたはすごい」「君はえらい」ではなく、「私は、あなたがすごいと感じた」「私は、それは良いと思う」など、自分を主語とした伝え方にすると良いでしょう。
あくまでも「行動の主体はそれぞれ」という姿勢で接する方が、子どもの自主性を育むのに役立ちます。
子どもを無条件に承認することで、健全な自己肯定感を育てる
自分の思いの丈を、否定も評価もされずに話せて、その行為をまるごと受け止めてもらえる体験をするうちに、子どもは「自分はここにいていいんだ」「自分は存在自体を認められているんだ」と安心感を得るでしょう。
そういった感覚こそが健全な自己肯定感です。自分はありのまま存在しているだけで、かけがえのない素晴らしい存在なんだと、体感することが重要です。
「テストで良い点を取れたから」「悪いことをしないから」など、条件付きの肯定は、正しい自己肯定感とは言えません。
そのような自己肯定感の土台の上に、思考力・行動力は養われていきます。その点で、コーチング的手法は、子どもが自主的に考え、行動する姿勢を、土台から作り上げるはたらきかけともいえます。
コーチングで子どものやる気を引き出し自己肯定感を育てよう
本記事ではコーチングが子どもに与える効果や、コーチングの方法について考察してきました。
コーチング的な姿勢で子どもに接することで、子どもは安心して、自身を伸ばしていく力を手に入れることができるでしょう。
自分で考え、自分で学び、自分で行動して、自分で判断する。そしてそもそも、自分自身はかけがえのない存在だと思える。
そのような力は、これからの予測不能な未来を生き抜くうえで、第一に求められるものです。
また、コーチングのようなはたらきかけは教育現場だけでなく、社会全体で求められるものです。学校はもちろん、フリースクール、家庭、地域、さまざまな場所、多くの大人が、この大切さを理解してほしいと考えます。