不登校の子どもたちの新たな居場所として、重要な役割を担うフリースクール。
フリースクールは、不登校の子どもたちに「生きる力」を与える場所として、その活動の充実がますます期待されています。
フリースクールで何を教えるか。そこには絶対的な決まりはありません。しかしだからこそ、効果的で、本当に必要な活動を、経営者は考える必要があります。
本記事では、実際に不登校を経験した人たちの声を参考にしながら、フリースクールの活動の内容をどのようにすべきか、考えてみたいと思います。
フリースクールの理念と活動内容
フリースクールの設立において、もっとも重要なのは理念と活動内容でしょう。
それに賛同した子どもと保護者が、フリースクールに入学してきます。ここではまず、フリースクールの理念と活動内容を考えるうえで、それを取り巻く状況について解説します。
フリースクールの理念は設立者が決定できる
フリースクールに関して、国が定める「指導要領」などは特にありません。
不登校児童教育に関する「ガイドライン」こそあるものの、現状フリースクールの最終的な理念やコンセプトは、経営者自身が決定できる状況にあります。
フリースクールは公的な学校ではないため、学習塾などと同様に、その活動の内容や指針、
目指すものは、スクールが独自に設定してよいことになっています。
その分、フリースクールの品質は、経営者にかかっていると言っても過言ではありません。
さまざまな種類のフリースクールがある
フリースクールの理念や活動は、経営者側が自由に設定できるため、既存のフリースクールの形態もさまざまです。
「学校とおなじ勉強をメインに行うフリースクール」、「野外で体を動かすフリースクール」「パソコンでのクリエイティブな技術を学ぶフリースクール」「学校以上に実践的なお金の仕組みを学ぶフリースクール」「ゲームや遊びなど、とにかく好きなことへ打ち込むフリースクール」等々、それぞれが、それぞれの理念のもと、独自の活動を行っています。
このようにフリースクールには「学習指導要領」のような縛りがないため、そのカリキュラムは自由です。
そしてこの自由さを良い方向へ活かす使命が、フリースクール経営者にはあります。
フリースクールは学習塾でも、ビジネススクールでもありません。子どもたちを導いてあげる役割を、忘れてはいけません。
不登校経験者のその後
理念も活動も自由なフリースクールにおいて、子どもたちに何を教えるべきか。フリースクールを立ち上げる者が、もっともよく考えておくべき事柄です。
それを見極めるには、不登校経験者がたどる道筋や、そこで抱く思いに学ぶのが最善ではないでしょうか。
ここではまず、不登校の経験者がたどる「その後」について見てみましょう。
半数以上が社会復帰を果たしている
「不登校に関する実態調査 平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書」によると、中学時代に不登校を経験した子どもが20歳になったとき、就業している割合は34.5%、就学している割合は47.4%(就業も並行して行っている人含む)と、約80%の人が復学・就業を果たしています。
つまり不登校を経験しても、その後の人生で社会に復帰できないなどということは、決してないのです。
不登校でも大丈夫だが、苦労もある
不登校経験者でも、復学や就業などの社会復帰は、十分可能です。現にそれを果たしている人が多くを占めています。
とはいえ、社会復帰できない人や、できたとしても苦労を経験した人の声も多く聞かれます。
フリースクール側はこの背景を受け、効果的な活動を探っていく必要があるでしょう。
フリースクールで何を教えるか
ここでは不登校経験者の声を参考にしながら、フリースクールの活動内容を考えてみたいと思います。不登校経験者の声は、効果的な不登校児童支援のヒントになるはずです。
学力の遅れを取り戻せない
復学や進学、あるいは就職試験などの際に、学力の遅れを伴ったまま挑まざるを得ず、苦労を強いられたケースはよく聞かれます。
やはり勉強は、不登校の子どもたちもカバーしてあげるべき項目といえます。
また最終学歴が中卒だと、進学や、就学に支障が出ることがあり、そういった社会的事実を教えてあげることも大切です。
もちろん具体的な学習の内容も大切ですが、それ以前に教えるべきは、勉強を行う意義と、勉強の「やり方」、そして「自分でもできるんだ」という自信ではないでしょうか。そこから具体的な学力の向上が始まると考えます。
社会性が身についていない
学校にしても会社にしても、人間関係は切っても切り離せず、そこで必要となる社会性を、もっと育てておくべきだったという声も聞かれます。
もともと不登校になってしまった理由が、学校での人間関係であった場合、それ自体に苦手意識を感じている子どもたちも多いでしょう。
フリースクールのメリットに、集まる子どもたちに似たような境遇の子が多い、という点が挙げられます。
同じ苦手意識を抱えた人たちと一緒だからこそ、ありのままの姿でいられることも多くあります。また、学校のクラスとは違い、人数も少人数で、年齢もばらばらな仲間と過ごすことも多いです。
このような状況をうまく使って、他人と接することを通し、社会性の向上を後押ししてあげることが重要ではないでしょうか。
体を動かした経験が少ない
不登校になると、家に引きこもりがちで体を動かす機会が減ってしまう子どもが多く見られます。それで体力が低下し、社会に出ていくことに、体力面の不安を訴える人もいます。
フリースクールの中には野外での活動や、スポーツなど、フィジカル面を重要視したフリースクールも見られます。
また、直接的に運動の指導を行えない場合でも、散歩やジョギングを薦め、無理なく行えるプランを一緒に考えるなど、背中を押してあげることも大切ではないでしょうか。
子どもによっては、学校の友達と会うかもしれない状況を避けたがる子もいます。それならば、保護者にも協力を依頼しながら、運動する時間や場所を、一緒に考えてあげるなどの支援は、効果があるでしょう。
物事を達成した経験がない
一般の学校はテスト、運動会、文化祭、部活動、受験、あるいは友だちとの付き合いなど、子どもが「達成感」を得られる機会が複数あります。そしてそれが成功経験となって自信を身に着けていきます。
不登校の子どもたちは、そういった機会自体が少なくなってしまう恐れがあります。
そのため、達成感を感じてもらうことを意図した活動や発表会、イベントなどが、自信を得るための重要な体験となるでしょう。
ぜひ本人が「自分にもできる」と自信を抱けるような活動を、取り入れたいものです。
フリースクールでは「生きる力」を育てたい
本記事では、フリースクールにおいて不登校の子どもたちに何を教えるべきか、不登校経験者の声をヒントに考察してきました。
フリースクールで教えるべきことの第一は、「不登校でも将来は大丈夫」という安心感でしょう。そのために、多くの不登校経験者が社会復帰を果たした事実や、そこへ至る道筋を示してあげることが重要です。そうすることで実感として将来に希望が抱け、自信もおのずと取り戻せると思います。
そして希望ある未来を掴むための、具体的な「生きる力」も、教えてあげたいものです。
生きる力は学習能力や健やかな身体、他者と接する上での社会性、成功経験にもとづく自信など、多岐にわたります。いずれの場合も、子ども自身が「主体的に」生きられるよう、促すことが大切です。
一気にすべてを身に着けるのは難しくても、その能力を少しずつ高めていけば、不登校は何も悲観することではなく、希望を持って生きていけるのだと、子どもも保護者も感じてくれることでしょう。
それを実感してもらうのが、フリースクールとその経営者の、使命といえるのではないでしょうか。